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きんのまなざし ぎんのささやき

牙 狼(冴 島 鋼 牙 Ver.)の世界を、気ままに妄想した二 次 創 作 サイトです

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水をください(4)

ゴンザさんから託されたお弁当を持ってきた鋼牙さん。
(わたくしが行ってきます、というゴンザさんの手から、強引に引ったくって
 きたのだと思いたい…)

届けたついでに抱擁して… な展開を夢見ていたのですが、鋼牙さんたら、
カオルちゃんに会わずに帰ってしまいました。

あれれ?
やっぱり、いつものように、だんだん最初の想定からズレていくぅ~!

困った性分です。

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

鋼牙の置いて行った紙袋を持って部屋に入ったカオル。
ごちゃごちゃといろいろなものが乗ったローテーブルの上に、なんとか空間を
作り出して、紙袋から取り出したものを並べてみる。
ローストビーフのサンドイッチに、まだ少し温かいオニオンスープ、そして、
カボチャやカブ、キノコなどのミックスグリル…
ゴンザの思いやりと、鋼牙の気遣いに感謝しながら、カオルはいただきますと
手を合わせた。
デザートのリンゴのコンポートまでしっかり食べたカオルは、お腹も心も
満たすことができ、その後、心置きなく作品制作に没頭することができた。

カオルは懸命に手を動かし続けた。
頭の中に思い描く絵のイメージを、ただひたすらに、正直に、キャンバスに
表現するために。





クライアントとの約束の日。
短いながらも仮眠をとったカオルは、シャワーを浴び、身支度を整えた。
気持ちをリセットさせてところで、完成した作品の前に立った。


絵は、グリーンからブルーにかけての色を基調としていて、描かれていた。
絵の中央には、草原の中を真っ直ぐにのびる道がある。
その道の途中に、こちらに背を向けて歩いている少女がひとり。
表情などは見えないが、どこか楽しげに歩いている印象がうかがえるのは、
少女の白いワンピースの裾が軽やかに揺れているからかもしれない。

そして、彼女の両脇の草原に生える、名もない草や花はくねくねと身を
くねらせていて、まるでそれ自身が踊っているような、あるいは、少女に
手でも振っているような感じで、ファンタジックな雰囲気を醸し出していた。

また、少女の足跡と思われる箇所には赤い木の実が点々と落ちていて、
中には、ニョキニョキと芽が出ているものもあった。
それは、少女のたどってきた ’証(あかし)’ としての何かを暗示させて
いるようにも見える。

そんな彼女の目指す道の先には…  はるか遠くに、なんともまぶしい
金色の光。
その光の中には、うっすらと白い翼のようなものが見てとれる。
それもまた、きっと何かの暗示…



まだ絵の具も乾ききらない、出来たてホヤホヤのこの作品は、今現在の
御月カオルが描ける最高の一枚だった。

(この絵、気に入ってもらえるといいけど…)

少し弱気になった自分の気持ちを奮い立たせるように、カオルは首を
ブンブンと振って、

「ううん、きっと大丈夫!」

と固くこぶしを握り締めてから、絵を運ぶ準備に取り掛かった。





その日は、朝からゴンザもなんとなく気ぜわしかった。
予定通りであるならば、今日が、カオルの作品をクライアントに納める日で
あった。
そして、以前からの約束では、納品したその日のうちに、カオルは屋敷に
顔をみせてくれることになっていた。

長い間、屋敷を訪れることなく、ずっとアパートに籠りっぱなしで頑張り
続けたカオルのために、カオルのためにできることはなんでもしようと、
ゴンザは張り切っていた。

昼食を終え、仕事に出掛ける鋼牙を送りだしてから、アフタヌーンティーの
ための準備に取り掛かる。
サンドイッチはすでに出来あがっており、今は、フルーツをたっぷり乗せた
タルトの仕上げに入っている。
先程オーブンに入れたスコーンももうじき焼きあがるだろう。

(よしよし… こちらのほうは順調、順調。
 カオル様のほうはどうでしょうな…)

そんなふうに思いを馳せたところに、誰かが屋敷を尋ねてきた気配がした。

(おや、鋼牙様でしょうか?
 あるいは…)

ゴンザの顔が嬉しそうに自然とほころび、いそいそと玄関へと向かった。




玄関まで出ていくと、そこには、カオルの姿があった。
ゴンザの顔が喜色に溢れる。

「これはこれは、カオル様!
 お待ちしておりました!」

ゴンザの弾む声に迎えられ、カオルも嬉しそうに顔を輝かせる。

「ゴンザさん!
 ご無沙汰でした。 元気だった?」

小首をかしげて問いかけたカオルは、あごの線が依然よりもシャープになり、
少し痩せてしまったように見えた。

「えぇ、えぇ、わたくしは元気でしたとも!
 あの、カオル様? お仕事のほうは…?」

「うん、今しがた、作品を納めてきたの。
 先方にもずいぶん喜んでもらえたみたいで、がんばった甲斐があったわ」

カオルの言葉を聞いたゴンザは、心底ホッとして、

「それは、ようございました。
 では、今日はゆっくりしていかれますな?
 本日のディナーは作品の完成祝いも兼ねて、このゴンザ、腕によりをかけて
 ご用意いたします」

と言った。

「うわぁ~ それは楽しみ!
 あたしね、ゴンザさんの作るおいしい食事を夢見ながら頑張ったんだよ!」

嬉しそうにそう言ったカオルだったが、すぐに真顔に戻って

「…ところで、鋼牙は?」

とゴンザに訊いてきた。
できるだけ何気なく言ったつもりだったが、やはり、どこか緊張したように
カオルの声が上ずっていた。
そういう様子も、ゴンザにとってはとても微笑ましくて、

「はい、昼食の後、お出かけになりましたが、今日はもうじきお帰りになるかと
 思いますよ」

と、優しくカオルに告げた。

「そう…」

残念なような、それでいてどこか安心したような様子でカオルはうなずいた。
…と、そのとき、

  ガチャ

カオルの背後の玄関ドアがいきなり開いた。

ゴンザは、ドアの向こうに見えた顔を見て微笑み、カオルは慌てて振り返った。



「鋼牙…」

少し驚いたような声をあげたカオルは、すぐに、

「おかえりなさい」

と、照れたように笑って言った。




鋼牙の視界の端で、ゴンザが会釈をしてキッチンへと下がっていった。

鋼牙がカオルに優しい目を向け、何か言葉を発するより早く、

『よぉ~ カオル~
 絵のほうは終わったのか?』

とザルバが声をかけてきた。

「うん… ついさっきね、作品を渡してきたの。
 相手にもね、気に入ってもらえたみたいだから、ほっとしてるの」

カオルはザルバに答えつつ、鋼牙にも視線を送った。

『そいつは、よかった。
 それじゃあ、しばらくはのんびりできるってことだな。

 よかったな、鋼牙!』

ザルバが鋼牙に声をかけると、鋼牙はチラッとザルバを見ただけで、すぐに
カオルに眼差しを向けた。
そして、

「あぁ」

とだけ言うと、鋼牙はカオルに近付き、ポンポンと頭を叩いた。
カオルの目尻にじわりと涙が浮かび、そのまま、鋼牙の胸にこつんと額を
預けた。



カオルは、鋼牙の体温や匂いを感じていると、唐突に、

(あたし、ここにいたい…)

という考えが頭に浮かんだ。
いや、その考えは絵を制作している間中、ずっと頭の片隅にあった。


  自分の力だけで一流の画家になってやる!

そう思い続けて、カオルはひとりでがんばってきた。

でも、あの日。
鋼牙と出会い、ホラーの返り血を浴びたあの日。
過酷な運命にひきずりこまれてからというもの、いつの間にか、鋼牙の存在が
カオルの中では大きくなっていった。
今回も、制作に集中するために鋼牙に会わずにアパートに閉じこもってみた
ものの、強烈な ’渇き’ を覚え、反対に集中できなくなったのも事実だ。

それに、この頃では、画家としての仕事もボチボチもらえるようになり、
わざわざ市内に拠点を置いておく必要も以前よりはずっと減っているのだ。
だから、仮に、市内から少し離れたこの冴島の屋敷に引っ込んだとしても、
支障が少ない仕事もあった。

(だから、あたし…)

その想いがカオルの口から出そうになった。





「カオル。
 いつでも戻ってきていいんだぞ」

カオルの頭の上から、鋼牙の声が響いた。

「えっ」

カオルがほぼ真上に視線を向けると、鋼牙が穏やかに見つめていた。

「おまえさえよければ…  好きにすればいい」

「… いいの?」

「もちろん…」

しばらく無言で見つめ合う。



「アパートは、今のまま、無理に引き払う必要はない。
 ただ…」

そこまで言って、鋼牙は言いよどんだ。

「ただ… なに?」

大きな瞳でカオルが覗き込むようにして鋼牙に尋ねた。
カオルの目には期待の色が見え隠れしていた。
鋼牙は、その目から逃れるように、カオルを抱き寄せた。
そして、カオルの髪に鼻を埋めるようにして、ボソリと言った。

「…いてほしいと思った。ここに」

カオルは震えるような喜びを覚えた。
鋼牙がこんなことを言ってくれるなんて、少し信じられない気もしていた。

「…ねぇ、よく聞こえなかったの。
 もう1回言って…」

ダメ元で、そうねだってみた。
すると、案の定、

「そう何度も言えるか」

と、わざと怒ったような、照れたような声が聞こえた。

「ふふふ… 残念…」

そう言いながら、カオルは鋼牙の胸にぎゅっとしがみついた。




足を延ばせばすぐそこにいるのに、会えないというもどかしい時間。
そんな時間を過ごしてきて満たされない想いをしていたのは、なにもカオル
ひとりだけではなかったのだ。
水が欲しかったのは、鋼牙も同じ。

乾いた心が水を欲しがるのは、画家であろうが、魔戒騎士であろうが、
男であろうが、女であろうが、人間ならばごくあたりまえのこと。



もっと
  もっと
    もっと… ください。 水を。



fin
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::


ちゃんと終われたのでしょうか? やや心配。

ほんとは、ここから夜の部に… などと思わないでもなかったのですが、
そんな1年の終わりでいいんだろうか? という自分もいて… (笑)

ま、日付も変わったところですので、とりあえずはこの辺で…
閉店、ガラガラ!



2014.01.04追記
「水をください」に、おまけ([大人限定]ですが)を書きました!
2013年のうちに書き上げることができず、年を越してのアップになりますが、
よろしければどうぞ!
水をください ~おまけ~[大人限定]

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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…



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