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きんのまなざし ぎんのささやき

変えられない事実(2)

何年も前の出来事をフッと思い出すこと、ありませんか?
楽しい思い出ならいいのですが、ほろ苦い思い出ほど、何の前触れもなく
急に思い出すもの…

夢はあまり見ない印象の鋼牙さんですが、そういう悪夢なら見そうだな、と
いうところから始まった妄想

さぁて、この妄想、どんな方向に転がりますか?

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変えられない事実に、何を今更、心を乱されてしまうのだろう。
数々のホラーとの闘いを制してきた黄金騎士ともあろう者が。

カオルとの出会いで、ただがむしゃらにホラーを斬るこれまでの闘い方と
決別し、守りし者の意味を知った牙狼は、間違いなく最強の魔界騎士の
はずだった。
だが、歴史に名を残すとまで言われたこの男は、何年も経ったいまだに、
生涯ただ一度のミスに苦悶している。
斬ったホラーの返り血をごく普通の人間に浴びせてしまったというミスは、
鋼牙の魔界騎士としての人生の中で、後にも先にもこれ一度きりだったと
いうのに。
そして、そうやって思い悩む自分にも情けなさを感じるため、ダメージは
さらに大きくなっていた。



この日は、冬のこの時期には珍しく太陽が顔を覗かせ、暖かな日差しが
降り注いで、とても穏やかないい日だった。
だが、陰我を宿したオブジェを次々と浄化していきながらも、鋼牙の心は
薄く靄(もや)のかかった状態から晴れることがなかった。
無論、魔戒騎士として怪しげな気に向かうときは、そんな憂いは瞬時にして
封じ込める。
けれども、オブジェを取り巻く邪気を赤鞘の剣で斬り払い、黒い霧となって
雲散していくと、それに反比例するように鋼牙の中の陰りがじわじわと
顔を出す。




鋼牙の乱れた心のうちは、当然のごとく、ザルバにも伝わっている。
鋼牙とは契約を交わして20年以上の付き合いをしているザルバだったが、
時として、鋼牙の中の人間としての脆さに直面することがある。
かつてはそれが、父、大河に関することだった。
だが、ここ最近は、カオルに関する比重がずっとずっと大きくなっていた。

(こいつもずいぶん変わったものだ。
 魔界騎士としての迷いはもうないということだろうが、たかが女ひとりに
 こうまで翻弄されるとはな…)

ザルバはそう思いながら、傾きかけた日差しの中、仕事を終えて家路を
たどる鋼牙の横顔をちらりと仰ぎ見た。
鋼牙の表情は、と言えば、いつものように少し眉間に皺を寄せ、前方を
睨むようにしていたが、どことなく悲哀のようなものが浮かんでいた。

(やれやれ…
 牙狼ともあろうものが、なんてぇ顔してるんだ。
 だが、これは俺様の守備範囲じゃないからな。
 ま、おまえが自分でなんとかするんだな、鋼牙)

ザルバは半分面白がりながら、そう無言のエールを送ると、静かに目を
閉じた。




鋼牙が屋敷に戻る頃には、冬の闇がずいぶん忍び寄ってきており、玄関に
ともる暖かな光が鋼牙を迎えた。
重厚な扉を開けて屋敷に入ると、ゴンザとともにカオルも飛び出してきた。

「おかえりなさいませ、鋼牙様」

「おかえり、鋼牙!」

にこやかに迎えるふたりに引き換え、鋼牙のほうは誰にも目線を合わせず、

「今帰った…」

とだけ言うと、足早にリビングへと向かった。
朝からおかしかった鋼牙の様子が相変わらずだとわかると、カオルと
ゴンザは無言で顔を合わせ、眉をひそませて肩をすくませた。

鋼牙がこの調子なので、その夜のディナーは実に味気ないものだった。
もちろん、ゴンザが用意した食事はどれもとても美味しかった。
だが、眉間に皺を寄せて、’俺に構うなオーラ’ を漂わせて黙々と食べる
鋼牙のおかげで、息苦しいほどの緊張を強いられた。


鋼牙は、早々に食事を切り上げると、

「書斎にいる。
 ゴンザ、コーヒーは書斎に頼む」

と言ってナプキンをダイニングテーブルに置いた。
そして、カオルには結局一言も口を利かないまま、書斎へと出て行った。
それを見送ったカオルたちは、鋼牙の出て行ったドアが閉まるのを待って、
それぞれ大きな溜め息をついた。


「どうしたのでございましょうな?」

鋼牙を見送ったゴンザが、心配そうにカオルを振り返って尋ねる。

「うん…」

カオルの表情も、さすがにくもりがちだ。
しばらく考え込んでいたカオルだったが、キッと顔を上げてゴンザに言った。

「ねぇ、ゴンザさん。
 鋼牙に持っていくコーヒー、あたしが持っていってもいいかな?」

その言葉を聞いて、ちょっと驚いた表情を見せたゴンザが、すぐに笑顔を
返して、

「もちろんですとも。
 お願いいたします、カオル様」

と頭を下げた。





書斎に入った鋼牙は、書斎机の前の革張りの椅子にドカリと座った。

「はぁーっ」

深く大きく息を吐く。

『おいおい、年より臭いぞ、鋼牙ぁ』

茶化すようにザルバが言う。

「…なんとでも言え」


鋼牙のその答えに、ザルバは目を見張った。
普段なら無視するか、気迫でザルバを黙らせるかする鋼牙が、自棄(やけ)
気味に力なく言い放ったのだ。

(おいおい、どうやらほんとに重症のようだな…)


鋼牙のほうはザルバが何を考えていようが、そんなことにはお構いなしで、
背もたれに身体を預け、天井を仰ぐ形で目をつむっていた。

今更、何をどうしようが過去は変えられない。
その一事が重たく鋼牙にのしかかるのだ。
後ろめたさのため、ろくにカオルの顔も見られない。
もがくほどにがんじがらめに縛られて、どんどん自由が利かなくなる。

鋼牙の顔が苦しげに歪む…

と、そのとき、書斎のドアがノックされた。

  コンコン…

鋼牙の顔にサッと緊張が走った。
この屋敷でノックをするような人物は、カオルをおいて他にはいない。

「鋼牙、いいかなぁ?」

カオルの声が外から掛かった。

「あぁ… いいぞ」

平静を装い、鋼牙は答えた。
すると、その返事を待って、カオルがコーヒーの乗ったトレイを手にして、
顔を覗かせた。



to be continued(3へ)
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も5年を経過しましたが、まだ飽きていない模様…



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