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きんのまなざし ぎんのささやき

春の宵あるき

なんだかお久しぶりに感じますね。

たまにはネットの海をフラフラするのもいいかなと思い、ここ何日かは
気の向くままにウロウロ…

特に「牙狼」限定でうろついていたわけではないのですが、そんな中でも、
「あっ」と鋼牙さんの台詞や、カオルちゃんの表情がポンっと出てくることが
あります。

どんだけビョ~キなんでしょう…
だって、春なんだもん!

そんな病人のたわごとに寛容な方は、続きをどうぞ…




::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

ここは、北の管轄。
賑やかな街の喧騒から少し離れた、小さな町工場が並ぶ一画。
人の気配のない工場の片隅で、一瞬、金色(こんじき)の閃光が走ったかと思うと、
次の瞬間には暗い闇が覆っていた。

『よし、これで今夜の指令は果たせたな』

「あぁ」

その場に佇んでいたのはひとりの男。
会話の相手は、その男の左手にある魔導輪。

男は辺りを見渡してから、白いコートを翻して、その場を後にした。



屋敷へと戻る男の足取りは決して急いでいるわけではないが、大きなストライドで
規則正しいリズムを刻んでいた。
周りの景色は止まることがなく、男の後ろへとどんどん流れていく。

『おい、鋼牙…』

「なんだ」

『夜風も少しぬるんできたな』

「そうだな」

『見ろよ、あの木』

「ん?」

緊張感のない様子でザルバが言うので、鋼牙も身構えることはなかったが。
ピタリと足を止めた。
見ると、少し離れた家の庭に、梅の花が咲いていた。
まだ少し冷たい風が、さわさわと芳香を運んでくる。

『こういう季節の移り変わりっていうのを、おまえたち人間は楽しむもの
なんだろう?』

鋼牙はゆっくりと梅の木に近づくと、白くふくよかな花を見つめた。
その花が、微かな風に吹かれて、ちりりと揺れる。

「そうだな…」

そう言いながら、鋼牙は目を細め、小さな花を風から守ってやるように
手をかざした。



再び歩き始めた鋼牙は、先ほどと少し様子が変わった。
相変わらず、ストライドは大きいが、幾分ゆったりとした歩調になっていた。
そして、顔つきがずいぶん柔らかくなっていた。

春の夜を味わうようになっていた鋼牙が、脇道から大通りに出るために
とある角を曲がったとき、20メートルほど先を歩く人の背を見つけた。

見覚えのあるスプリングコートの裾から、柔らかな素材のスカートが
覗いていて、彼女が歩くたびに踊るように揺れていた。

『おやおや、これは奇遇だな…』

ザルバが独り言のように呟いた。
鋼牙はその背にしばらく声をかけずに、間隔を保ちながら後ろをついて
歩いた。

通り過ぎる車のライトが明るく照らしては闇のカーテンを引いていく中を、
彼女は鼻歌でも聞こえそうなくらい楽しげに歩いた。

『ずいぶんご機嫌なようだな?』

「どうやら、そのようだ…」

ザルバの問いかけに鋼牙ものんびりと答えた。
だが、その人影が、明るい広い通りから外れて薄暗い路地に入っていったとき、
鋼牙は歩く速度を急激にあげて彼女の後を追った。

少しばかり慌てた鋼牙がその路地の入口に足を踏み入れると、路地に入って
10メートルほどのところで、彼女は足を止め、美しい横顔を見せていた。
民家の塀越しに何かを見上げているようだった。

鋼牙は緊張を解きながら、ゆっくりと彼女に近づいた。

「どうしたんだ、こんなところで…」

穏やかに声をかけたつもりだったが、カオルは少しピクリと反応した。

「なぁんだ、鋼牙かぁ~
 びっくりしちゃった…」

カオルは胸に手を当て、ほっとした笑顔を鋼牙に見せた。

『女一人で歩いていい時間じゃないぞ』

鋼牙はザルバをカオルのほうに向けてやった。
カオルは、ザルバに目線を合わせるように少しかがんでから、

「は~い、ごめんなさい!」

と謝った。
そんなカオルに、鋼牙は改めて問いかけた。

「ここで何をしているんだ?」

カオルは鋼牙を見上げてから、先程見ていた辺りに視線を移した。

「ハクモクレンを見ていたの」

「…」

鋼牙も、カオルの視線を追って、眺めてみた。
そこには、たくさんの白い鳥が止まっているような木があった。
鳥のように見えたものは、大ぶりの白い花だった。

「この花を?」

鋼牙は確かめるように、そう尋ねた。

「うん…  あたし、この花が好きなの。

 暗い夜道を照らす灯火(ともしび)みたいに見えない?」

カオルはそう言うと、鋼牙の顔を覗き込んだ。
鋼牙はじっと花を見つめた。

「灯火…」

女の白い手が大事なものをそっと包み込んでいるようにも見えるその花は、
夜空をバックにして、ぽぉっと光っているように見えた。

鋼牙は優しい顔をカオルに向けて、

「そうだな」

と短く言った。
その言葉にカオルも小さくうなずいた。

ふたりは、花の芳香のように甘い空気に包まれた。





『それにしても、カオル…』

ザルバの声が、 ’いい雰囲気’ をぶち壊した。

『こんな時間にフラフラとひとりで出歩くなんて危険だぞ』

その言葉に、カオルは少し苦笑いのような照れ笑いのような微妙な笑みを
浮かべてから、真面目な顔をして答えた。

「おっしゃるとおりです。
 ごめんなさい」

少し芝居じみて頭を下げながらそう言うと、すぐにいつもの調子でこう付け加えた。

「でもね、花の命は短いって言うでしょう?
 この花が咲いてるかもしれないって思ったら、居ても立ってもいられなかったの」

そんなカオルに、鋼牙も一言釘をさす。

「おまえは自分の世界に入ると周りが見えなくなるみたいだからな。
 夜道を歩くなら、もう少し慎重に歩け」

「はい」

カオルは真面目な顔で返事をすると、すかさず、ザルバが、

『スキップでもしかねない様子のカオルは、いつ襲われても不思議じゃない
 くらい、かわいかったぞ。

 実際、それを嬉しそうに眺めていた奴もいたしな…』

と、茶化すように言った。
鋼牙は慌てて、ザルバに一言くれてやろうと、自分のほうに左手を向けたが、
クスクス笑うカオルに気づくと、気まずそうに視線をそらした。

ひとしきり笑ったカオルが落ち着くのを待って、ぼそりと言う。

「帰るぞ」

カオルは、

「うん」

と、うなずくと、鋼牙の左腕に抱きついた。



白いコートとベージュピンクのスプリングコートのふたりが肩を並べて
歩いている。

会話があるわけではないが、その沈黙には、’まどろみ’ のような心地よさが
あった。


(月を愛でるのも、花を眺めるのも、みんな、カオルが教えてくれた…)

鋼牙はそんなことを思いながら、カオルのアパートまでの道を、ゆっくり、
ゆっくりと歩いていった。



fin
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::


タイトルそのまんまで、何のひねりもなくて、すいません。
春の夜、ふたりでそぞろ歩くのもいいものかしら、と思って書いてみました。

桜の花はすでに散り始めているところもありますが、北の地では、まだ桜は
早かろうと思い、桜ではない花々を出してみました。

そして…
暖かくなったとは言え、夜はまだまだ冷えるので、「あの」スプリング
コートも出してみました。

カオルちゃんのアパートまでの帰り道、そんなことも話題にのぼると
いいんですけど…



::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
~おまけ~


カオルのコートに目をやりながら、鋼牙が尋ねた。

「それは…」

「あっ、そうだよ。

 …似合うかな?」

カオルが心配そうに鋼牙を覗き込む。

「あぁ」

優しい目をしてそう答えた鋼牙が、小さな声で囁くように言葉を添えた。

「…よく似合う」

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::



きゃっ❤

拍手[39回]

コメント
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無題
この“何気ない日常感”が良いですね!
こういう何気なさの中に、二人の“幸せ”が滲み出るのですよぉ~~www
流石でッす、selfish 様ッ!!!
URL 2013/04/09(Tue)11:19:00 編集
Re:無題
褒めても何にも出ませんよぉ~~~
…と言いながらも、素直に嬉しいです。ありがとうございます!!

余所様の素敵なサイトでは、ちょっとした事件があったり、戦闘シーンがあったり、ラブラブなシーンがあったりして、ハラハラ、ドキドキ、ワクワクするわけなんですが、どうも selfish は、そういうのが書けない身体みたいです、はい。
まぁ、できる範囲で楽しく書いていきますデス!
【2013/04/09 21:06】
selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も5年を経過しましたが、まだ飽きていない模様…



tomy 様[07/27]
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