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きんのまなざし ぎんのささやき

牙 狼(冴 島 鋼 牙 Ver.)の世界を、気ままに妄想した二 次 創 作 サイトです

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雨が濡らす頬(4)

重苦しいばっかりの妄想が続いて、心苦しい… (ううっ)
でも、ホラーに憑依された男は魔戒騎士に斬ってもらえて、これで苦しむことはなくなったはず!

…ということで、魔戒騎士のご帰還です。


::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

  ガチャ

冴島邸の重厚な玄関ドアが開かれた。

「おかえりなさいませ」

鋼牙が姿を見せるより早く、ゴンザが頭を下げて主を迎え入れた。
ゴンザの下を向いた視線の端に、濡れた靴先が見えたかと思うと、鋼牙の身体から滴り落ちる雨水が敷石の色をみるみる黒く変えていく。

すぐに頭をあげ、手にしていたタオルを差し出そうと鋼牙を見上げたゴンザが、一瞬だけ動きを止めた。その目が微かに見開かれる。

そのとき背後からカオルの声が近づいてきた。

「鋼牙…」

すぐにカオルの気配がゴンザの隣りまで来たところで、ゴンザはカオルを振り返る。

「カオル様、これを…」

そう言って、タオルを彼女に手渡した。
そして、鋼牙を見ないまま伏し目がちに振り返り、入浴の準備などとっくに整っているはずなのに

「湯加減のほう、見てまいります」

と断りを入れて歩き出した。
ゴンザの醸し出す固さのある雰囲気にカオルが戸惑っている中、ゴンザがいくらか進んだところで、彼の背に鋼牙が声をかけた。

「ゴンザ」

ピタッと足を止めたゴンザに鋼牙は言う。

「今日はもう休んでいい」

それを聞いたゴンザは、顔だけをわずかに横に向け、

「承知しました。
 おやすみなさいませ、鋼牙様」

と言い、廊下の向こうへ消えていった。



(どうしたのかしら、ゴンザさん…)

そう思いながら、ゴンザを見送ったカオルが、手にあるタオルにハッと意識を戻すと、

「鋼牙、これ…」

と振り返りながら、思いっきり手を伸ばして鋼牙の濡れた頭にタオルをかける。
「…」

だが、言葉もなく動かない鋼牙に気づいて、訝し気に手を止める。

いつになく、力のない伏し目がちな瞳。
前髪から光る雫が落ちる。
雨の雫は、鋼牙の頬にも伝っていく。
まるで…



と、そこで、鋼牙の左手中指から声がする。

『…カオル』

ハッとして視線を下げると、ザルバがカオルを見上げている。

『今日は疲れたぜ。その… いろんな意味では。
 だから、俺様ももう退散するぜ』

「ザルバ…」

『おやすみ、カオル』

「あ、うん… おやすみ」

カオルがそう答えている間にすでにザルバの意識は消えていて、魔導輪はピクリとも動かなくなった。
それを見届けてから、カオルは鋼牙を心配そうに見上げようとすると、その視線から逃(のが)れるように鋼牙が歩き出した。

リビングに向かいながらコートを脱ぎ、無造作にハンガーにかけた。
そして、

「風呂に入ってくる…」

とボソリと言う。
頭からかけたタオルは鋼牙の顔を半分以上覆い隠していて、その表情がうかがい知れない。
そのまま、カオルの返事も待たずに鋼牙は歩き出した。
彼の纏(まと)う、どこか関わりを拒絶するようなオーラがカオルの言葉も動作も奪っていく。

(あ…)

と思う間もなく鋼牙がリビングから出て行った。

  バタン

いつもより大きく感じたドアの閉まる音に、ビクリと肩が上がり、催眠術が解けたように瞬きを何度か繰り返す。
そして、次の瞬間には、もう駆けだしていた。

頭で考えてのことではない。
身体が動いていた。
どうするべきなのか、何を話しかければいいのかも何も頭になかった。



リビングのドアを開け、廊下を見渡す。
さっきよりも何倍も身体が重たくなったように歩く鋼牙の背が見える。

カオルは目標を捉えるとまっすぐに走り出す。
そして、飛び込むようにその背に抱き着いた。

「っ!」

さすがによろめいたものの、踏みとどまった鋼牙は首だけ振り返る。

「よせ! 濡れるぞ?」

それを聞いて、カオルは反対にぎゅっとしがみつく。

「おいっ!」

そう言って、お腹の前に回っているカオルの腕に手をかけたが、これは簡単には引き離せそうにないと思った鋼牙は、はぁっと大きく溜息をつく。

「どうしたんだ?」

穏やかな声が、鋼牙の背を通じてカオルの耳に届く。
その声には温度が戻っているような感じがしてほっとしたカオルが、わずかに腕の力を緩めて、鋼牙を見上げる。

「それはこっちのセリフなんだけど?」

「ん?」

カオルの拘束が緩み、鋼牙は身体ごと振り返って彼女を見下ろす。
すると、

「ど・う・し・た・の?」

と故意にゆっくり、はっきりとカオルが尋ねたので、

「あ…」

と鋼牙の目が泳ぐ。
それを見たカオルがくすっと笑う。

「別にね、無理に話してくれなくてもいいの。
 でもね…」

そう言って、勿体ぶるように言葉を切った。

「でも… あたしのことを拒絶しないでほしいなって…」

そう言ったカオルが、途端に自分の言った言葉に照れだした。
考えて言った言葉ではなかった。
本心がほんとうにポロリとこぼれてしまったような気がして恥ずかしくなったのだ。

「あ、いや… えっと… そうっ、お風呂っ!
 早く入ってあったまってくるといいよ?
 ほら、黄金騎士が風邪なんか引いちゃったら、なんか、恥ずかしいもんね?」
慌てて鋼牙から離れて背中を押そうとする彼女に、今度は鋼牙がフッと笑みをこぼす。
カオルに背を向け、

「そうだな」

と呟いた鋼牙にカオルがホッとしていると、その隙をついて、鋼牙が彼女の腰を掻き抱いてぐいっと自分に引き寄せる。

「え、ちょっと、鋼牙…」

戸惑うカオルの耳元に唇を寄せる。

「しばらくの間、こうしていたい…」

ほんの少し震えるような声。
その声に身動きできなくなったカオルが、そっと鋼牙の背に手を伸ばして、いたわるようにゆっくりと撫でる。

どのくらいそうしていたのか、鋼牙が少し身体を離してカオルを見つめた。
そこには、彼女の知る、いつもの穏やかな鋼牙のまなざしがあった。

「風呂に入ってくる」

「うん」

すると、鋼牙の顔がふいに近づいて、触れるだけのキスをした。
チュッというリップ音とともに、カオルの顔に熱が集まる。
ほんの少し焦るカオルに鋼牙は、さらに爆弾を落とす。

カオルの耳元で鋼牙が囁く。

「っや…」

思わず、囁かれた耳を押さえてしまうカオル。
そんな彼女の反応に満足そうな笑みを残し、鋼牙はドアの向こうへと消えていった。
残されたカオルは、足の力が抜けて、そぐ横の壁に身体を預ける。
その顔は真っ赤だった。



鋼牙がカオルに残していった言葉。
それは…

「すぐにあがるから寝ずに待っていろ。
 俺のすべてを受け入れるのはおまえだけだ、カオル…
 
 …おまえこそ、俺を拒絶するなよ?」



湯舟に浸かる鋼牙は目を閉じ、深く息を吐く。

魔戒騎士は、好むと好まざるとに関わらず、往々にして、人間の弱いところ、醜いところ、哀しいところが突きつけられる。
そういうことに慣れはするが、まったくの平気と言えるほど非情にはなりきれないのがつらいところだ。
心が冷え切ってしまうようなこんな夜。
そんな自分を温まてくれる存在がいてくれることに、鋼牙は喜びを感じていた。


今夜はその温もりをその腕に抱いて…

冷たい雨に濡れていた頬に、今、柔らかな笑みが浮かんでいた。


fin
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::


これで、ようやく、魔戒騎士も救われるのでしょうか?

何がよくて何が悪いのかは、人それぞれの「ものさし」次第。
ホラーに取り憑かれた男にも、その人なりの言い分があったんだろうな…
今回の犠牲者は、何かに強く固執していたわけではなく、彼女が交通事故に巻き込まれて「なんで俺が」と混乱を極めていったがためにホラーにつけ込まれた、ある意味、不運な男でした。

交通事故、怖いです。
事故を起こす側にも、起こされる側にもなりたくないです。
でも、こればっかりは、ほんのちょっとの「うっかり」なので、いつ自分の身に降りかかるかもわかりません。
皆さんも、どうか十分お気をつけて!


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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…



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