きんのまなざし　ぎんのささやき

牙狼（冴島鋼牙 Ver.）の世界を、気ままに妄想した二次創作サイトです

雨が濡らす頬（3）

暗いです…
重たいです…
早くなんとか救いがほしいところなんですが…

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……雨が降っている。

仰向けに倒れたホラー　アンヴィーバの上に雨が降る。
胸を上下させて苦し気に呼吸しながら、呟きが途切れなく続く。

『つしがっ…　かよが…
（好きだっ…　たんだ…）』

『ろめば…　やすむあ…　り…
（俺は…　悪くな…　い…）』

『あで…　ちよが…
（なぜ…　死んだ…）』

『ごるち…　け…　ちよぢけすめあ…　りよが…
（どうし…　て…　信じてくれな…　いんだ…』

『ろめおてり…　ぢゃあり…
（俺のせい…　じゃない…）』

ホラーに剣を突き付け、見下ろしている魔戒騎士の存在など、まるで見えていないようだった。

真也は後輩に手は出していなかった。
そう言う意味では優樹菜を裏切っていない。
だが、心惹かれつつあったことは事実でもあった。

でも、それも一時的なものかもしれない。
そうだ、優樹菜が嫌いになったわけじゃない。

今は喧嘩別れのようになってしまったが、明日になればまた落ち着いて話すことができるんじゃないかと思っていた。
優樹菜だって、俺だって…

やっぱり、おまえがいいんだと思えるかも。
やっぱり、俺のそばにいたいと思ってくれるかも。
そう、明日になれば。明日に…

それなのに…

そんな明日は永久に来なかった。

優樹菜が死んだのは、俺のせいなのか？
彼女を轢いたのは俺じゃない、あいつだろう？

そりゃあ、喧嘩はしてたさ。
喧嘩の原因は俺だったかもしれない。
でも！　でも！

可愛い後輩にそれっぽいモーションかけられたらクラっとならないか？
ちょっと心が揺れただけだろ？
それだけだろ？

それでも俺が悪いのかっ？

俺は特別頭がいいわけでも、金持ちでもない。
身長だってものすごく高いわけでもなけりゃあ、顔もまあまあってとこだ。
でも、誰かの迷惑になるようなこともしてねぇし、それなりに真面目に、ごく普通に生きてきたさ。
そう、ごく普通に。

優樹菜…
おまえ、なんで死んじまったんだ…

苦しいよ…　俺…

ああ…

消えてなくなりてぇ…

雨に打たれて横たわるホラーは、なぜだか魔戒騎士の目には泣いているように見えた。
己の運命を嘆いているのか、はたまた後悔の涙なのか…

ホラーに憑依された者の強い想いが魔戒騎士に流れ込む。
けれども、その者が見せる断片的な記憶などでは、過去のすべてがわかるわけではない。
あくまでも、その者にとっての真実のかけらであり、別の者にとっては真実とはかけ離れていることもあるのだから。

それに、仮に今更、真実を知ったところで、どうしようもないのだ。
魔戒騎士でできることは、ただ…
ホラーを斬り、浄化させてやることだけだった。

蔑むでもなく、憐れむでもなく、ただ無表情にホラーを見下ろしている魔戒騎士に魔導具が声を掛けた。

『鋼牙…　斬ってやれ…』

その声に静かにうなづいた鋼牙は、大きく剣を振りかぶると、躊躇なく振り下ろした。
その瞬間、ホラーの目がカッと大きく見開かれたが、みるみるうちに生気を失っていった。
剣が深々と刺さったところから塵のようにホラーの身体が消滅していくと、あっという間に跡形もなく消えていった。

剣を鞘に戻した鋼牙に、

『帰るか…』

とザルバが声をかけ、ああ、と鋼牙が答えた。
くるりと踵（きびす）を返して、鋼牙がその場を立ち去ろうとしたとき、かすかに男の声が聞こえた気がした。

　　これで、やっと…

足を止めて鋼牙は振り返る。
どことなく安堵したような声だった。
だが、もう何も聞こえない。

『どうした？』

訝し気に尋ねるザルバ。
どうやらザルバには聞こえなかったようだ。

「いや…」

そう言って鋼牙は再びその場に背を向けた。

「なんでもない…」

そう言うと、少し伏せ気味だった視線をぐいっと持ち上げる。
そして、迷うことなく歩き出し、二度と振り返りはしなかった。

to be continued（4へ）
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[6回]