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きんのまなざし ぎんのささやき

牙 狼(冴 島 鋼 牙 Ver.)の世界を、気ままに妄想した二 次 創 作 サイトです

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雨が濡らす頬(1)

雨の日は嫌ですね…
そんな日の妄想は、やっぱり陰鬱。
ああ、暗いな…
暗い気持ちのまま週を始めたくない方は、ご注意くださいませ。

拍手[8回]



::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

……雨が降っている。

グレーに沈む空。
地面に叩きつけられて白く煙る雨粒。
どこか落ち着かなくさせる耳障りな雨音。

そこに、耳をつんざくような激しいブレーキ音が鳴り響いたかと思うと、少し遅れて、ドンという腹の奥に響くような鈍い音が。
その音に、何事かと振り向いた者の目に、淡い色彩で花々が描かれている傘が中空に飛ばされ、ふわりと地面に落ちていくのが見えた。

「事故だ!」

誰かの声と同時に小さな悲鳴や、現場に駆け寄る足音、救急車を呼べと叫ぶ声などが重なり、それまでの緩やかに流れていた時の流れが一転して、緊迫感に包まれ騒然としたものに変わっていった。




その夜。

……雨が降っている。

「今日の昼前、午前11時30分ごろ、××市○○の市道で50代の男性会社役員の運転する普通乗用車が、道路を横断中の女性をはねる事故がありました。
この事故で被害者の市江優樹菜さん、25歳は内臓破裂で死亡。
運転していた男は、打撲程度で命に別状はありませんでした。
現場は見通しのよい直線で、目撃者によりますと、押しボタン式の信号は歩行者側が青であったということです。
警察では…」

TVやラジオからは、昼間の事故を知らせるニュースが流れたが、多くの人々の記憶に刻まれることなく、夜の雨音の中に溶けていった。




あの事故から5年後。
ホラーが出現した。

そのホラーによる犠牲者は、いずれも50代の男性で規模の大小の違いがあったが、会社の役員クラスの者たちばかりだった。
そして、犠牲者が出るのは決まって雨の夜。
分かっている範囲では、車に乗り込もうとしているところか、車から降りたところを襲われているという特徴があった。

そして、今夜。
魔戒騎士にホラー討伐の指令があったその夜も、雨が降ると言う予報が出ていた。




夜半過ぎ。
……雨が ……雨が降り出した。

何年も前に貼られた、閉店を知らせるボロボロのお知らせがヒラヒラと風に踊る錆びたシャッターの前で、夜空を眺める男がひとり。

まるでマジックのように何もないところから姿を現したように見える無数の雨粒が、周囲を濡らしていく様を見つめ、男の顔が苦悶に歪む。

「ゆきな… ゆ…きな…」

苦し気にぎゅっと目をつむった男ががっくりと首(こうべ)を垂れる。
そして、ゆっくりと顔をあげて目を開くと、人とは思えない真っ白な虹彩(こうさい)。

  ニタッ…

先程までの表情とは一変して、残酷な笑みが彼の顔に浮かぶと、雨にも関わらずなんの躊躇もなく軒先を離れ、どこかに向かって悠然と歩き出した。




…… 雨が降っている。

白い高級車に慌てて乗り込んだ小林は、

「ひゃー、ひどい降りだなぁ」

と言いながら、ジャケットの肩や胸元を手で払い、濡れた髪を掻き上げた。
いつもだったらとっくに仕事を終えて、飲みに行くか自宅でのんびりしているところだが、今日に限っては会社のトラブルのために帰宅がこの時間となってしまった。
幸いにも雨は小降りで、大して濡れてはいない。
車まで駆けてきて少しあがった息が整うと、小林は

「さて…」

と呟き、車のエンジンをかけようと顔をあげた。
すると、そのタイミングで

  トントン

と運転手側の窓がノックされた。

「ひっ」

いきなりのことで思わず小さな驚きの声をあげた小林が窓越しに外を見ると、柔らかな雰囲気の若い男がこちらを覗き込んでいる。

(おどかすなよ…)

そう思いながら、次の瞬間には、

(なんなんだ、こいつ…)

と訝(いぶか)しむ気持ちが湧く。
ほんの少しだけウィンドウを下げ、

「なんですか?」

と低めの声で問う。
そんな小林の様子に、男は少しも動じない。
うっすらと笑みまで浮かべて、数cm開いているウィンドウに手を掛ける。
それを見て、その男の手を見て、小林の目は大きく見開かれた。
男の手は黒くゴツゴツとしていて、大きな鉤(かぎ)爪が窓の隙間から差し込まれていたのだった。
それを見た小林が自分の速まる鼓動を感じながら、まるで錆びついた機械仕掛けの人形のようにギギギとぎこちなく男の顔へと視線を移すと、それまで穏やかだった男の顔に一瞬、化け物の顔が重なって消えた。
思わず、瞬きを何度かして目を凝らした小林は、やがて本性を現したホラーの姿に悲鳴をあげた。

「うわあああ」

震えながらもエンジンをかけようとする小林だったが、それよりも早くホラーの手が車のウィンドウをミシミシと音を立てさせ、あっという間に亀裂が縦横に走った…

「をしあゆされて…
(優樹菜を返せ…)」

それが、小林がこの世で聞いた最後の言葉だった。


tto be continued(2へ)
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…



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