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きんのまなざし ぎんのささやき

牙 狼(冴 島 鋼 牙 Ver.)の世界を、気ままに妄想した二 次 創 作 サイトです

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鳴らない鈴(7)

嗚呼!
サクッと進ませるつもりが… ぐぐぐ…
もう開き直るしかないのか? 開き直るしかないのか、ったら!


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岸辺で明るい陽の光を照り返していた湖の水が、次の瞬間、バシャっと弾け飛んだ。
カオルが鋼牙の姿を求めて、水際(みずぎわ)を駆けていた。
水浴びから上がり、まだ乾ききっていない髪からは、ダイヤモンドのように光る雫が振り落とされている。

憑かれたように走っていたカオルだったが、そう遠くに行かないうちに呼吸が苦しくなって足を止めた。
手に持ったままのワンピースをぎゅっと握りしめ、激しく上下する胸に押し付けつつ、目だけはキョロキョロと忙しく辺りを見回している。
もちろん近くには誰の姿も見えず、カオルはドクドクと鳴る鼓動と、ハアハアという自分の呼吸だけを感じながら、不安で押しつぶされそうになっていた。

(あたし、また、ひとりなの?)

泣いてしまいそうになるのをグッと堪(こら)えて、パッと目を見開いた。
そして、自分を奮い立たせると再び駆け出した。

「どこかにいるんでしょう? 出てきて!」

渇いた喉から懸命に声を絞り出すが、カオルの意思に反して声は掠(かす)れてしまい少しも響かない。
すると、突然、カオルが走り抜けた場所の横手にある茂みから

「カオル!」

という声とともに鋼牙が姿を現わしてきた。

(えっ)

急な呼びかけに驚き、彼女の肩に鋼牙の手がかかると、カオルの身体はバランスを崩してよろめいた。
だが、そんなカオルを鋼牙はしっかりと支えた。

「どうしたんだっ!」

カオルの両肩に手を置いて彼女の顔を覗き込んだ鋼牙は、いつもとは違い、少し冷静さを欠いていて、驚きと心配が混ざった表情をしていた。
カオルは弾む息のもと、目の前にいる男の顔を凝視した。
そして、それが本当に、カオルの知るあの鋼牙だということに確信が持てると、途端に全身の力が抜けてしまい、その場にしゃがみ込みそうになった。
もちろん、実際には彼女がしゃがみ込むことはなく、鋼牙がすぐに抱きとめるのだが…

荒い呼吸でぐったりとするカオルを胸に抱き、鋼牙は辺りを見回した。
すぐに、近くに涼しそうな木陰を見つけると、そこにカオルを連れて行って静かに座らせた。
そして、自分も隣に腰を下ろすと、カオルを自分の身体によりかからせた。
カオルはされるがままになっていたが、その手だけは、もう離すものか、という強い意志で鋼牙の袖をしっかりと握りしめていた。

鋼牙は、カオルが落ち着くのを静かに待った。




「大丈夫か?」

少し落ち着いてきたカオルに、鋼牙はそっと声を掛けた。
こくん、とカオルは小さくうなづいた。

「どうした? 何があったんだ?」

鋼牙のその問いに、カオルはキッと鋼牙を見上げた。
すると、その目は少し潤んでいた。

「どうした? じゃないわよ。
 湖からあがったらあなたの姿が見えないんだもの!
 あたしすっごく驚いたんだからねっ!」

昂ぶる感情を抑えきれない様子でそう言い返すカオルだったが、声のほうも少し潤んでいて鋼牙を驚かせた。
そのためすぐには言葉を返せずにいると、自分が少しエキセントリックになっていることを感じ取ったカオルが、少々バツが悪そうに小さな声で

「…どこに行ってたのよ?」

と尋ねてきた。
そこで、鋼牙はそのときの行動について答えてやった。

「俺は結界を張りに行っていただけだ。
 ここには人間もホラーもいないみたいだし、結界にどれ程の効力があるかはわからないが、それでも用心するに越したことはないからな…」

「そ、それならそうと言ってくれればいいのに!」

少し恨めしそうに言うカオルに、鋼牙は冷静さを取り戻し、落ち着いた口調で答える。

「ほんの少しの間だけ、と思ったからな。
 それに、そう大して離れた場所に行くわけでもないし…」

「じゃあ、近くにいたなら、あたしが叫んだ声が聞こえてたでしょ? どこにいるの?って…
 どうしてそれに答えてくれなかったの!」

少し睨みながらカオルはなおも尋ねた。

「ちょうど結界を張る呪文を唱えている最中だった。
 呪文を途中でやめるのは避けたかったんだ。この世界では何がどう作用するかわからないから…」

そう理路整然と答える鋼牙に、カオルはやり場のないイライラを募(つの)らせた。

(なによ、なによ! いちいちもっともらしいこと言っちゃって… って言うか、あたしひとりなんだか馬鹿みたいじゃないの!)

悔しさに唇を噛みしめたカオルだったが、すぐにまた違う考えに取り憑かれる。
それだけ気持ちのほうはまだ不安定なのだった。

(あたし、今、この人にとってすっごく面倒くさいこと言ってるんじゃないかしら?
 …どうしよう? あたし、愛想を尽かされるんじゃない!? 今度こそ本当に置いてかれるかも…)

さっきまで果敢に突っかかってきていたカオルが、今度は深刻な顔をして黙り込んだのを見て鋼牙は嫌な予感しかしない。
こんなとき、自分の世界に閉じこもって考えを巡らせるカオルを放ってくと、間違った方向に突っ走りかねないことを、鋼牙は経験上知っていた。

「カオル、いいか、俺の話を聞いてくれ」

俯きがちだったカオルの顔をグイッと自分のほうに向けさせると、鋼牙はカオルに顔を近づけて、一音一音噛みしめるように言った。

「おまえをいたずらに不安にさせたのなら謝る…

 だがな、信じてほしい。
 俺は元いた世界におまえを連れ戻すためにここにいるんだ。
 だから、この世界では絶対におまえを置いて消えたりはしない」

「ほんとに?」

「ああ、ほんとうだ」

「でもね、でも… ひょっとしたら、あたし、またいろいろ面倒くさいこと言いだすかもしれないわよ? それでも、そばにいてくれるの?」

すがるようなカオルの表情に、鋼牙はぐっと感じ入り、一層優しい顔になる。

「ああ、そばにいる…」

それを聞いてカオルはくしゃっと顔を歪めて、鋼牙の胸に顔を埋(うず)めた。

「絶対だよ?」

「ああ…」

絶対だ、と言いかけて鋼牙の動きが止まった。
その微妙な空気を感じ取り、カオルは再び顔をあげて鋼牙を見た。

「どうしたの?」

「あ、いや…」

「なあに?」

歯切れの悪い鋼牙にカオルは疑問を投げかける。

「カオルにとっては、俺は夫でもなんでもないのだろう?
 だとしたら、それなりの距離を置かないと… と思ってな」

そう答えた鋼牙は少しだけ寂しそうな顔をしていた。

「それは…」

戸惑いながら口を開いたカオルに、鋼牙は慌てて取り繕った。

「余計なことを言った。今のは忘れてくれ。
 お前は何も気にしなくていいんだ!」

そう言って、無意識のうちに居住(いず)まいを正した鋼牙に、カオルは見えない壁のようなものを感じてじわじわと哀しみを感じるのだった。


to be continued(8へ)
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…



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