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きんのまなざし ぎんのささやき

鳴らない鈴(5)

今夜も気ままに妄想の旅。
えっちらおっちら、のんびりとした道行きですが、どうかご一緒に…


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ようやく森の外れまで来た頃。
カオルは少しずつ意識を取り戻しつつあった。
まだ瞼は重く満足に開けることはできなかったが、身体が一定の間隔で揺れるのを感じていた。
どうやら、自分は誰かの腕に抱えられ、その誰かは歩いているようだった。
女性とは言え人ひとりを抱えて運ぶのは、そうたやすくはないが、その人の足取りは危なげもなくゆったりと大きかった。
それに、身体をしっかりと支えられているので、カオルは少しも怖いと感じることもなかった。
むしろ、その揺れが心地よく感じられるくらいだ。
ようやく、ゆっくりと目を開けたカオルが見上げると、真っ直ぐに前を見据える鋼牙の顔が意外に近いところにあった。

『おや?
 ようやくお目覚めのようだな、カオル?』

ザルバの声を聞き、鋼牙は足を止めた。

「どうだ? 気分は…」

自分を見下ろす鋼牙の優しいまなざしに、ほんの少しの間うっとりとしていたカオルだったが、鋼牙と見つめ合ううちに状況が飲み込めてきて、みるみるうちに青くなった。

「ちょっと、やだぁ! お、降ろしてくれるっ?」

鋼牙の胸を押すようにして、密接している身体を引き離そうと必死になった。

(あたし、なに知らない人の腕に抱かれてるわけ?
 もう、意味わかんないっ!)

もちろん、鋼牙にとってはカオルの抵抗など痛くもかゆくもなかったが、彼女の意思を尊重して、黙ってその場に降ろしてやった。
地面に足をつけたカオルは一瞬よろめいたが、すかさず鋼牙が手を取って支える。
まだクラクラする頭を二、三度横に振ってから、カオルは鋼牙の支えから離れた。
カオルは目の前に広がる景色に、ゆっくりと右から左へ、そして左から右へと視線を一往復させてから鋼牙を振り返った。

「ここは、いったい…」

大きく見開かれた目は不安に揺れていた。
カオルの目の前には見慣れた薄暗い森の風景はなく、ギラギラとした太陽の下、赤茶けた乾いた大地が広がっていたからだった。
鋼牙を振り向いたカオルは、鋼牙の後方に森があるのを見た。

「えっ、あの森から出たの? どうしてっ?」

鋼牙に詰め寄り、ほぼ真上を向くような恰好でカオルは詰め寄る。

「…あの森は普通の森ではない。
 すぐに眠たくなると言っていただろう?
 それに記憶も失くしてしまっている…」

カオルは鋼牙の言葉を聞きながらどんどん不機嫌そうなカオになる。

「でもっ! それでも、森の外よりはいくらかマシだわ!
 ここに辿りつくまでにあたしがどんなに恐ろしい目に遭ったか… ううん、ほんとはよく覚えていないの。覚えていないけど! でも、わかるんだから! 森を出たらひどい目に遭うって…」

カオルは自分の身体を抱きかかえるようにして震えていた。

「カオル…」

鋼牙は悲し気な目でカオルの姿を見ていた。
魔戒騎士でも音(ね)をあげそうな程に過酷なこの世界に、ひとり放り込まれたカオルをすぐに見つけてやれなかった自分のことを恨めしく思った。
だが、そんなことを何度繰り返して考えてもどうしようもない。
とにかく今はこんなところで時間を潰しているわけにはいかないのだ。
鋼牙は、自分の身体を抱くカオルの手を両脇からそっと上から握った。

「安心しろ、カオル。
 もうひとりで怯(おび)えなくてもいいんだ。
 おまえには俺がいる…」

カオルの顔を覗き込むようにして、鋼牙は力強くも優しく言った。

「でもっ!」

目を潤ませて鋼牙に異を唱えようとしたカオルは、次の瞬間、鋼牙に抱き締められて驚きの表情になる。

「俺を信じろ!」

声音(こわね)こそ抑えられていたが、鋼牙はありったけの想いを言葉にした。

「おまえはこの世界を出て、元いた世界に帰るんだ。
 おまえを待つ家族がいる世界に…」

鋼牙の言葉に、カオルは恐怖心とは別の感情で落ち着かなくなった。

「でも…」

弱々しくなおも反論しようとするカオルに、鋼牙は抱き寄せていた身体を離し、至近距離で見つめた。

「カオル、おまえは俺が守る…
 俺が信じられないか?」

真剣なまなざしの鋼牙。

(信じられないことなんて… 多分、ない…
 だって、この人はすごく真剣だもの。
 真剣に、心の底からあたしのことを守りたいと思っている…)

カオルの中に、そのことを嬉しいと思う気持ちが湧きあがってくる。
けれども、それと同時に別の気持ちも芽生えていた。

(この人は本当に奥さんのことを愛していたんだわ。
 でも、この人の奥さんの冴島カオルとしての記憶は、今のあたしには無い…

 あたしであって、あたしでないカオル、か…

 どうしよう、なんだかとても胸が苦しい)

カオルは無理矢理顔を背けて、鋼牙の視線から逃れようとした。
伏せた目からポロリと涙がこぼれたが、鋼牙からはその涙は見えなかった。
その涙を見ていたのはザルバただひとり。

『…』

ザルバは複雑な顔をしたが、何も言わなかった。

しばらく顔を伏せていたカオルは、やがて、大きく深呼吸をひとつした。
そして、顔をあげて鋼牙を見た。

「あたし… あなたを信じたい。
 どんなことがあっても、そばにいてくれる?」

まだ不安が残りつつも強い光の宿るカオルの目を、鋼牙は真正面から受け止めていたが、内心、少し戸惑っていた。
鋼牙の記憶にあるカオルは、こんなに素直に自分の気持ちを告げることなどなかったからだった。
いや、出会ったばかりの頃はカオルも言いたいこと、思ったことを口にしていたが、いつからか、鋼牙が存分にホラーと闘えるよう、自分の気持ちは二の次にしていったように思う。

だが、今、目の前にいるカオルは記憶を失くして、鋼牙だけが頼りだった。
そのために、どことなくか弱く儚げで、まるで少女のような印象さえあり、鋼牙の知らないカオルの一面を見るようでもあった。
鋼牙は内心の動揺を抑えつつ、努めて穏やかな口調で言った。

「ああ、約束する」

そんな鋼牙の言葉に、カオルは安心して小さく息を吐いた。

「わかったわ…
 ほんとはまだ怖いけど、あたし、あなたと一緒に行く」

しっかりとした口調でそう言ったカオルは、少し硬い笑みを作った。
鋼牙はそんな彼女に力強くうなずいて見せた。
そして、

「行くぞ」

と言うと、先に立って歩き始めた。
カオルは鋼牙に遅れないように、少し小走りについていった。
鋼牙の背の大きな紋章が、彼の歩幅に合わせて揺れている。
それを見ながら、カオルはひとり決心していた。

(この先、どんなことが待っているかわからないけど… 信じてみよう! この人を…)



to be continued(6へ)
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も5年を経過しましたが、まだ飽きていない模様…



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