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牙 狼(冴 島 鋼 牙 Ver.)の世界を、気ままに妄想した二 次 創 作 サイトです
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鳴らない鈴(8)
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「とにかく、それを着たらどうなんだ」
顔を背けた鋼牙がこほんと咳払いしてから、そう言った。
「えっ?
あっ! やだっ!」
一瞬、何を言われたか解らずにポカンとしたカオルは、すぐに自分の恰好に気付いて真っ赤になった。
着替えの途中に鋼牙がいないことに気付いて慌てたカオルは、下着だけを身に着けてワンピースを着ることを忘れていた。
あのときは羞恥心よりも何よりも、またひとりぼっちになる恐怖心のため、相当錯乱した状態だったのだ。
慌てまくったカオルは、
「あ、あの… あっち向いててくれない?」
と言うと、鋼牙からできるだけ身体を離してワンピースを身に着け始めた。
(ああ、恥ずかしいったら、恥ずかしいっ!
いくら慌ててたからって、男の人の前でこんな格好でいたなんて!
…って、彼にとってあたしは奥さんなんだっけ。
ううん、やっぱ、違う!
奥さんだったら見慣れてるはずだし、あんなふうに気まずそうに視線をそらしたりは、きっとしない。
記憶をなくしたあたしに気を遣(つか)ってくれてる?
それとも、奥さんを愛してるから、あたしから目を背(そむ)けるの?
いや、だから、あたしが奥さんなんでしょ?
違う、違う、そんな記憶、あたしにはないんだもーん!)
記憶が戻ってくる気配もなく、鋼牙に惹かれつつあるカオルの頭の中は行きつ戻りつ混乱するばかり。
(いい、カオル? 間違っちゃいけないんだからね?
この人はあたしをとても大事にしてくれるけど、それは奥さんのことをとても愛してるからなのよ?
あの人が望んでいるのは、姿形は同じでも、記憶が戻った妻のカオルさん。
あたしとは別人の ’冴島カオル’ なんだからね!)
ようやくワンピースを着終わったカオルは、こちらに背中を向けている鋼牙を寂しそうに見た。
(なんだろ、これ。自分で自分に嫉妬するなんて…
ほんとに頭がおかしくなりそうだわ…)
そんなことを考えながらカオルは、深い深い溜め息をついた。
(カオル…
何も考えずにおまえをこの腕で引き寄せることができたら、どんなにいいだろう。
その肩を抱き、髪に顔を埋(うず)め、その柔らかい唇に口づけられたら…
いや、駄目だ!
彼女はカオルであって、カオルではないのだから。
こんな世界に引きずり込まれただけで、十分つらい目に遭っているんだ。
これ以上、彼女を惑わせるようなことはすべきではない…)
背後で着替えをしているカオルの気配を感じながら、鋼牙もまた苦し気な溜息をつくのであった。
そして、もうひとり。
そんな鋼牙とカオルの様子を代わる代わる見ながら、ザルバはやれやれとばかりに溜め息をついている。
だが、溜め息をつくだけでは終わらないのが、人間ではないザルバならばこそだった。
『なあ、おふたりさん…』
なんだ、とばかりにザルバを覗き込む鋼牙。
服を着終えたカオルも彼の話を聞くべく近づいてきた。
観衆が集まったところでザルバはおもむろに口を開いた。
『お前さん達が相手を想って、いろいろ気を遣っていることはなんとなくわかるんだが、ひとつ気になっていることがあるんだが…』
もったいぶった物言いに、鋼牙は訝(いぶか)しみながら尋ねた。
「なんだ、その気になることとは?」
喰いついてきた鋼牙の反応に満足したのか、ザルバはフフンと笑ってから答えた。
『相手がどうこうというのはともかく、結局のところ自分は何をどうしたいんだ? どうすることが望みなんだ?』
どうなんだ? とふたりを交互に見やるザルバに、戸惑う二人の姿が映った。
『俺様にとっちゃ、人間ってのは時々どうしようもなく面倒くさいものに見えちまう。
ホラーからすれば相手のことなんかどうだっていいんだからな。だが、おまえたち人間は違うんだろ?
相手のために… と思うのなら、相手が何を望んでいるのか知っておくに越したことはないんじゃないか?
そんな簡単なことを伝えようとしないから、話がどんどんややこしくなる気がしてしょうがないぜ』
「…」
「…」
「あたしはね…」
気まずい沈黙の後、カオルがまず口を開いた。
「あなたのことを信じたいって思ってる。ううん、あなたしかいない…
ずっとそばにいてほしいって思ってるの」
「もちろんだ。俺を信じてほしい。
俺はおまえを守りたい!」
これまでに同じことを何度も言ってきた鋼牙だったが、今回も誠意のこもった声できっぱりと言った。
それを聞いて安心するものと思っていたカオルの目が、不思議なことに寂しげに曇る。
「でもね、それはあたしがあなたの奥さんだからでしょ?」
「…」
カオルの言葉の意味を計りかねて、鋼牙は怪訝そうに眉をしかめるだけだった。
「あなたが奥さんをとても愛していることは伝わってくるわ。
でも、記憶がないあたしにとっては、それはあたしであってもあたしとは違う、誰か別の人なの」
「ああ、わかっている。
だから、俺が必要以上のことをおまえに求める心配など…」
「それが!」
ない、と言いかけた鋼牙に食い気味にカオルは口を挟んだ。
「それが、あたしにとってはどうしようもなく寂しいことなの。
あなたの奥さんじゃないあたしを、あなたが見てくれることはないんだろうか?
今ここにいるあたしを、その…」
言い淀んだカオルがうつむきがちに小さい声で呟いた。
「…愛してはくれないんだろうかって…」
言ってしまって、カオルは恥ずかしさから顔をあげることができなかった。
身を小さくし、かすかに震えているカオルを見て、鋼牙は胸をぎゅっと掴まれたような気持ちになる。
「カオル、俺は…」
切なげな表情を浮かべた鋼牙がそう言いかけたとき、
『はい、そこでストップ、ストーップ!』
という大きく張り上げたザルバの声が話を遮った。
『それ以上のことは、さすがに俺様のいないところでやってくれないか?
黄金騎士の愛の囁きなんざぁ、くすぐったくて、とても聞いちゃいられないからなぁ~』
冗談めかして、そううそぶくザルバに鋼牙は怖い顔をして見せた。
「…わかった」
憮然とした鋼牙は自分の指からザルバを引き抜くと、
「しばらくの間、ここにいろ!」
と言い、コートのポケットの奥底にグイッと押し込んだ。
to be continued(9[大人限定]へ)
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…
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