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きんのまなざし ぎんのささやき

8月の終わりに(2)

えー、もしもし?
「8月の…」というタイトルなのに、もう9月になっていますが、いいんでしょうか?

えっと… あまり深く考えずに読んでいただけると嬉しいです!
では、続きをどうぞ…


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  ふうっ

カオルは息をついた。
帯のせいか胸の辺りが苦しくて、ゴンザのおいしい夕食を食べきるのも一苦労だ。
なかなか箸の進まないカオルにゴンザは心配そうに尋ねる。

「カオル様、お口に合わないものでもございましたか?
 それともご気分でも?」

「え? …ああ、違うの。帯が苦しいだけ。
 ゴンザさんの作るものはなんだっておいしいわ。だから食べられないのが申し訳なくて…」
 
カオルはすまなそうな顔を見せて、そう言った。

「さようですか。それならいいのですが…
 お食事のほうは、無理をして召し上がらなくてもよろしゅうございますよ」

ほっとしたゴンザが安心したように表情を緩めたかと思うと

「そうそう、食後の腹ごなしといっては何ですが、わたくし、いいものをご用意しております」

と言い、ちょっとお待ちください、と部屋から出ていった。
そして、そう待たせることなく戻ってきたかと思うと、

「もう季節外れになってしまうのか、これくらいしか手に入らなかったのですが…」

と前置きして、手にしたものを差し出した。

「ああ! 花火!」

カオルはそれがなんであるか認識すると、嬉しそうな顔をしてゴンザを見た。
いろんな種類の花火が少しずつ入っているお徳なセットになった花火は、見た目もカラフルでそれだけでもうワクワクする。

「いかがです? さっそく…」

「やりたい! やりたい! ね、みんなでやろう?」

カオルは期待のこもった目で鋼牙を振り返った。
鋼牙はなんと答えたものか少し戸惑っていたが、

『今日は指令もないんだ。
 今夜くらいは、ゆく夏を惜しんで花火に興じるのもいいんじゃないのか、鋼牙?』

とザルバも助け舟を出した。

「そうだよ、鋼牙」
「そうでございますよ、鋼牙様」

カオルとゴンザが声を揃えてそう言うと、ようやく

「わかった…」

と降参したように鋼牙もうなずいた。




ろうそくにマッチ、水の入ったバケツ、それから花火がテラスから庭に下りる階段の上に並べられた。

「なんか楽しみ!
 花火をするのってどのくらいぶりだろう?」

遠い昔。今は亡き両親とともに花火をした記憶が微かに残っている。
だが、両親が亡くなってからは花火をする機会はなかったし、大人になってからも画家になることを夢に、食べることすら後回しにして絵に打ち込んできたために花火を眺める余裕などなかった。
だから、思いがけなくもこうして花火をする機会に恵まれ、カオルは興奮していた。

ろうそくに火をつけますね、と言って、ゴンザがマッチを取り出し、シュッと擦った。
その姿を見ながら、カオルはふと思いついた疑問を隣に立つ鋼牙に尋ねてみた。

「ねえ?
 鋼牙はライターみたいなやつ持ってるでしょ?
 あれでは火をつけられないの?」

驚いた鋼牙が目を少し見開いた。その代わりにザルバが、やれやれ、と言わんばかりに口を挟む。

『カオル、おまえってやつは… まあいい。

 あの炎は魔導火と言って、見た目には人界(じんかい)の火のように見えるが実際には ’力’ だ。
 攻撃する力、防御する力、人に憑依したホラーを見破る力、解毒を促す力…
 使う者次第で使い方は幾通りにもなるが、俺様の記憶の限りではいまだかつて ’物を燃やす力’ を発揮したとは聞いたことがないな』

「へぇぇぇ。
 なあんだ、そうなの…」

つまらなそうにそう言ったカオルに、鋼牙は

「魔導火もそうだが、人には扱えない代物がこの屋敷にはたくさんある。
 だから、まかり間違っても勝手に手を触れることのないようにしろよ」

とやや厳しい口調で釘を刺した。
それが気に入らなかったのか、カオルはさらに面白くなさそうに

「はーい」

と返事をした。その様子にクックックッと笑いながら、

『これでも鋼牙はおまえさんを心配して言ってるんだぜ。
 ちゃんと真面目に聞いとけよ』

とザルバは取り成した。
鋼牙は、余計なことを、という一瞥をくれただけだったが、カオルはザルバに近づけて

「うん、わかってる」

と嬉しそうな顔で小さく囁いた。




「さあさ、用意が出来ましたよ。
 どれから始められますかな?」

しゃがみ込んで花火を袋から出して並べ終えたゴンザが、カオルを振り仰いだ。

「そうねぇ…」

カオルは小走りにゴンザのいるところに近づくと、その隣に腰をかがめて、真剣な目で一渡り見渡した。

「これに決めた!」

と一本の花火を手に取った。
そして、いい? と鋼牙とゴンザを交互に見てから、ろうそくの火にそれをつけた。

  シューッ

勢いよく緑色の尾を引いて花火が輝き始める。
すると、それまで庭のあちこちで聞こえていた虫の声が一斉にピタリと止まり、代わりに、誰ともなく、ほぉっと溜め息が漏れた。

ゴンザはそっと立ち上がると、少し離れたところで見ている鋼牙のそばに行って並んだ。

「きれいでございますねぇ」

目を細めたゴンザが鋼牙に向かって呟いた。
さっきまで緑色だった火花が、今は色を変えて金色にまぶしく輝いている。

「そうだな…」

高い位置からよく響く鋼牙の声が降ってきた。
その返事に満足そうに、うんうんとうなずいていたゴンザだったが、続いて聞こえてきた言葉に驚愕した。

「…馬子にも衣装ってやつだろうな」

(へ?)

あまりに驚き過ぎて、素の表情で隣にいる主人を振り返った。
ゴンザとしては、もちろん今日のカオルはきれいだと思っていたが、今の言葉は花火に対して言った言葉だったからだ。
花火の光にわずかに照らし出されている鋼牙の顔は、いつになく穏やかな表情をしていた。
それは、ゴンザがこれまでに見たことのないようなものだったので、さらに驚くことになってしまう。
ゴンザは思わず、もう一度よく確認しようと思ったのだったが、ちょうどそのとき花火が燃え尽きてしまい、鋼牙の表情は闇に隠れてしまった。




「あぁ、終わっちゃった…」

残念そうなカオルの声が聞こえたが、ゴンザは暗闇の中で顔をほころばせていた。




to be continued(3へ)
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も5年を経過しましたが、まだ飽きていない模様…



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