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きんのまなざし ぎんのささやき

Amphibia(2)

ビール片手に話をするシチュエーションって、なんだかちょっと大人な雰囲気ですね。
鋼牙さんとカオルちゃんではちょっと考えにくい雰囲気かも。

さぁ、今宵も、ふたりの会話に耳を傾けましょうか?





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魔戒騎士のことがわからなくなる、とはどういうことか?

そう陶子に訊かれて、零は、昔のことを思い出していた。

ホラーに憑依されてしまった母親を斬り、唯一の肉親を失った娘から「一生あなたを許さない」と言われたときのことを。
あるいは、最愛の息子を異国の地で失った両親が、その息子の幻影を見せるホラーの言いなりになって、次々と人を殺(あや)めていたときのことも。
ホラーを斬った零に、庭先に身を投げ出すようにして自分たちも殺してくれと懇願する老夫婦に背を向けたあの日…

ホラーを狩るのは魔戒騎士の務(つと)め。
だが、ホラーと知りつつもその存在にずっとすがりついていたかった人たちの、恨めしい感情や打ちのめされた哀しい思いを全く無視できるほど、零は冷血にはできていなかった。

もちろん、ホラーを斬ったことに微塵の後悔もない。
魔戒騎士としては当然のことをしたまでだから。
そのことについては一切の迷いはない、と即座に断言できる。

だが、後に残された者に対して何もできないことに、時としてもどかしさを感じるのはどうしようもなかった。
そんな悶々とする己(おのれ)に直面したとき、「俺は魔戒騎士として、まだまだ未熟なのかもしれない」と思ったりもした。
魔戒騎士に ’揺らぎ’ があってはならない。
ホラーを斬る手が鈍るかもしれないし、第一、それが命取りにもなりかねない。
魔戒騎士としてあるまじき迷いが生じたとき、零は盟友(とも)のことが頭に浮かぶ。

あいつだったら、こんなことは考えもしないのだろうか? と。

魔戒騎士の家に生まれ、闘う親の背中を赤ん坊の頃から見ていたような ’生まれついての魔戒騎士’ ならば、このようなことに心を乱されたりはしないんじゃないか?
零としても、魔戒騎士としてそれなりに多くの経験を積んできており、そんじょそこらの生半可な魔戒騎士には引けを取らない自負はあった。
だが、自分には魔戒騎士の血が流れていない。
その事実は
厳然としてあることは確かであり、だからこそ、こんなにも揺らいでしまうのかもしれないと思うこともあった。
ただ、だからといって、自分の出自を今さらどうこうできるはずもないわけで、諦めにも似た気持ちを抱いたまま、’こうあるべき魔戒騎士の姿’ をずっと模索しているような気もする。

すべてが、魔戒騎士の血筋ではない魔戒騎士、という、自分の中途半端な存在のせいかもしれなかった。



そんなようなことを、必要以上にシリアスにならないよう少しだけ注意しながら、零は陶子につらつらと話した。
自分のことを陶子に理解してもらいたい、などという気持ちからではない。
なんというか… そう、陶子に話すことで、ほんの少し気持ちが軽くできるかな、くらいに思っただけだ。

陶子は、時折、短い相槌を入れたり、うなずいてみせたりしながら、零の話を黙って聞いていた。

「別に今となっちゃどうってことないんだけどさ。
 …ま、そんなこともあった、って話さ」

零は、軽い調子でそう言うと、喋り続けて乾いた喉にぬるくなったビールの最後の一口を流し込んだ。
心なしかその味は少し苦く感じた。

「…そっか」

陶子は一言返事をすると、それ以上は何も言わなかった。
沈黙がふたりの周りの空気を重くする。

すると、その雰囲気を変えようと思ったのか、零が唐突にこんなことを訊いてきた。

「ねぇ、陶子さん。
 カエルってどう思う?」

話が飛躍し過ぎて、陶子は、驚きのあまり目を見開いた。

「カエルって… あのカエル?
 ゲロゲロ、ゲロゲロ、グワッ、グワッ、グワ~ッ の、アレのこと?」

’カエルのうた’ の節回しで思わず歌ってしまう。

「そ、ソレのこと。
 えっとね、カエルってさ、気持ち悪くない?」

まっすぐ陶子を見て零が言うので、訊かれた陶子のほうも、それなりに真面目に答えようと思いながら返事をした。

「う~ん、さすがに大きいのはちょっと…
 でも、アマガエルとかはカワイイと思うけど?」

陶子は顎の下に手をやり、思案顔で言う。

「あぁ、俺が言ったのは、見た目のこととはちょっと違うんだけど…

 う~んとね、カエルって両性類でしょ?」

陶子は黙ってうなずいた。

「水の中でも、陸の上でも平気じゃん?」

またまたうなずく。

「カエルみたいに、どこにでも対応できる存在ってさ、どう思う?
 なんかちょっと気持ち悪く思えないかな?」

う~ん。
言われてみれば、そう思わないこともないような気がして、陶子は曖昧な表情を浮かべた。

「自分もさ、なんかカエルと似てるよな、って思うんだ。
 人間としても、魔戒騎士としても、どっちの世界でも生きられる、っていうかさ…

 でもさ、だからといって、受け入れられるかどうか、ってのは別の問題なんだ。
 きっと、正当な血筋の魔戒騎士にとっては、俺のようなどこの馬の骨かもわかんないヤツは胡散臭い存在だろうし、人間にとっては、得体の知れない気味の悪い存在なんだろうな…」

「…」

零の言葉を聞きながら、陶子は怒っているような泣き出してしまいそうな複雑な表情を見せていた。
零はビールを口に運ぼうとして、空っぽであることに気付いた。

 ギシッ…

ベッドを軋らせて零は立ち上がると、冷蔵庫に向かって歩いていく。

「ね、陶子さんも、もう1本飲む?」

冷蔵庫のドアを開けながら、零が尋ねる。

「…ううん、私はもういい」

その返事を聞いて、零は自分の分だけ新しく冷えたビールを取り出すと、陶子の元に戻ってきた。


to be continued(3へ)
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も5年を経過しましたが、まだ飽きていない模様…



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