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緑の森に雨が降る
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柳緑(りゅうりょく)色の木々の緑を映した柔らかな雨が降っている。
湿った土の匂いとしっとりと肌に吸い付くような空気を感じながら、窓辺に座った邪美は盃を傾けた。
昼を過ぎたばかりだというのに、薄暗い室内は、死んでいるかのようにモノトーンに沈んでいた。
(ここに来てからずいぶん経つねぇ)
雨に濡れ、艶やかに輝くような緑をぼんやりと眺めながら、邪美はふと、そう思った。
レギュレイスの復活によりもたらされた危機を、冴島鋼牙、涼邑零、そして山刀翼とともに闘い、守って以来だった。
師を亡くし、帰る場所も失くした邪美は、この地で守りたいものを見つけて留まった。
そして、今日までの間、我雷法師を長としたこの地の魔戒法師たちとも協力し合い、里で訓練に励む魔戒法師の卵たちの指導に当たったり、翼を助けてこの地の安泰に尽力してきたのだった。
ぱっと見、素っ気ないふうでいて、実はなかなか面倒見がよく、しかも体術、法術に長(た)けている邪美は、この地のみんなに何かと頼りにされ、それなりに忙しい毎日を過ごしていた。
だが、今日は朝から降る雨に、閉じ込められてしまった。
たとえ雨の日であっても、魔導具の手入れや、薬の調合など、やろうと思えばそれなりに作業はあるものなのだが、白く煙るような細かい雨が里全体を幻想的に包み込み、どこかのんびりとした雰囲気を醸し出していたがために、
(たまにはいいか…)
と、明るいうちから好きな酒を片手に、ひとりでのんびりとすることにしたのだった。
頭を空っぽにして、窓の外を眺めていると、ふいに、今は亡き師である阿門法師のことが思い出された。
とりたてて、雨にまつわる様な師との思い出があるわけでもないのだが、音もなく静かに降る雨が、なんとなくノスタルジックな気分にさせたのだろうか。
「あっはっはっはっ」
まず思い出されるのは、豪快に笑う師の顔だった。
そうかと思えば、
「邪美、おまえはそんなこともできんのかぁ?」
「やれやれ、まだまだじゃのぅ、邪美よ…」
と、大袈裟なくらいに溜息をついて肩を落とす師の様子や、美味そうに咥えていたキセルから口を外して、小馬鹿にしたようにこちらに向かって煙を吐いてくる師が浮かんできた。
少しは褒めてもらった記憶もあるはずだ、と記憶をたどるが、
「おお、おお、ちっとはやるようになったではないか?」
と、褒め言葉を口にしつつも、皮肉な笑みを浮かべている師の顔しか出てこない。
(腹立つ爺さんだったよ、まったく…)
邪美はそう思いながら、フッと笑った。
けれども、鋼牙には「あいつはいい魔戒法師になった」と言っていたらしい。
(あいつに言うんじゃなく、あたしに直(じか)に言やぁいいのに…)
かわいがってもらった覚えも、甘えさせてもらった覚えもないが、いつだって見守られていた自覚はある。
どんなことでもいい、「すごいじゃないか」と認められたい、「えらいぞ、邪美」と褒められたいと思ってつらい修行にも耐えてきたが、とうとう最後までそんな言葉はもらえなかった。
邪美は寂しそうに笑う。
「…」
だが、すぐに気を取り直して、盃を取った。
盃の中が空(から)であることに気づいて、徳利を引き寄せ、ポンッと小気味よい音をさせて栓を抜く。
そして、なみなみと盃に酒を注(つ)ぐと、香りを楽しむように盃の中で酒を揺らす。
外の緑を映した酒を、邪美はクイッと喉に流し込んだ。
ふぅ…
深く息を吐いた邪美は、少しだけ、気持ちが軽くなった気がした。
「…び… じゃ…び… 邪美!」
遠くで自分の名を呼ぶ声が聞こえる。
邪美はハッとして、目を開けた。
どうやらいつの間にかうとうとしていたらしい。
声のしたほうに顔を向けると、そこには、邪美を覗き込む翼の姿があった。
彼の髪や肩が少し濡れていた。
「ああ、翼か…」
まだはっきりしない意識で呟くように言うと、翼は小さく溜息をつき、
「こんなところで居眠りなんかしてると風邪を引くぞ」
と注意する。
邪美は、それにフッと笑って、
「大丈夫、このくらいで風邪をひくような ’やわ’な身体じゃないよ」
と返す。
すると、翼は無言のまま邪美の顔をじっと見つめる。
少し険しい顔つきでいつまでも黙っている翼に、邪美は少し首を傾(かし)げた。
「どうしたんだい?」
怪訝(けげん)そうに訊くと、翼は邪美に言った。
「邪美…」
「なんだい?」
「以前(まえ)から言っているだろう?
ひとりで泣くのはよせ、と…」
そう言った翼が、言ってしまってから照れたのか、赤い顔でそっぽを向き、乱暴に邪美の頭をグイッと引き寄せて、自分の胸に押し付けた。
「!?」
目を見開いて驚く邪美。
だが、すぐに泣き笑いのような表情を浮かべる。
「泣いてなんかないよ…」
小さくそう呟いたが、翼に聞こえただろうか?
翼は、何も言わず、邪美を抱き寄せたままじっと動かなかった。
翼の手と胸の温かさが伝わってくる。
さっきまで色もなく、ひんやりとしていた部屋の空気が、ほんの少し温かく、色味が差してきたような気がしていた。
「翼…」
邪美はそう言って、そっと翼の背に手を回した。
それを機に邪美の頭を抑えつけていた翼の手から力が抜け、優しく髪を撫でるようになった。
小さな女の子にでもするように、優しく、優しく…
やがて、邪美は、心に浮かんだ言葉を小さな声で口にした。
「翼、大好きだ…」
一瞬、翼の手が止まったようだったが、すぐに、何事もなかったかのように髪を撫で始めた。
そこで、邪美はこっそり翼の顔を盗み見る。
すると、にやけそうになる顔を懸命に堪(こら)えている翼が見えた。
それを見て、邪美はクスッと小さく笑った。
窓の外、雨はまだ止まないが、薄日が差してきた。
その光を受け、雨はキラキラと輝いて見えた。
fin
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
久しぶりに邪美姐さん!
あらぁ、こんな素直に「好き」っていう人でしたっけ?
やすえさんがかわいらしい方だから、妄想しているうちに邪美もどんどんかわいくなるんだろうか?
そんな気がします。
えっとですね、終わらせ方にずいぶん悩んだんですが、唐突にバスッと切っちゃいました。てへっ!
よろしければ、この後のふたりのことも、みなさんなりに妄想していただけたらなぁ、と思います!
コメント
selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…
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