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きんのまなざし ぎんのささやき

もしもの話(3)

暑く寝苦しい熱帯夜。
それでも、妄想の世界にトリップするぞ!

…とそう思いつつも、まとわりつく暑さが現実に引き戻そうとするのです。
くう~、負けてなるものか!


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何世代も経て磨き抜かれたがためにこっくりとした色の深みと艶を放つマホガニーの書斎机。
その上に置かれた微かにセピア色の書類の上を、金色のペン先がついた羽ペンがリズミカルに滑っていきます。

ここは、サエジーマ国の中央にそびえる城の執務室。
山のように積みあがった書類の最期の1枚にサインをしたコーガ王は、ペン立てにペンを戻すと、ふうっと息をついて椅子の背もたれに背中を預けました。
それを見計ったように横から伸びた手が書類を回収していきます。
左手にずしりと重たい書類の束を抱えたゴーザンでした。
数年前にこの国を訪れたよそ者であった彼ですが、その有能さ故に、今や城の奥向きばかりでなく、表向きの執務においてもこの若き王を助ける重要な役割を担う立場となっていました。

ゴーザンは、コーガがサインしたばかりの書類を眼鏡越しにチラリと見て問題ないことを確認すると、側に控えていた者に小声で指示をしてその書類の束を持たせて下がらせました。
すると、それとは入れ違いに、ティーセット一式の乗ったワゴンを押して、若いメイドが執務室に静々と入ってきました。
メイドからワゴンを引き継いだゴーザンは、流れるような所作でティーカップに香り豊かなお茶を注ぎ入れると、一仕事終えたコーガの前にそっと差し出しました。
その一連の流れは、目を見張るほどにスムーズで、見事としかいいようがないくらいです。
こういったスタッフ同士の阿吽(あうん)の呼吸での動作も、ゴーザンが指導し、指揮することでの連携プレーなのでした。



さて、お茶をサーブされたコーガのほうですが、ひざ掛けに体重を乗せてギシリと椅子を軋(きし)ませながら身体を起こすと、カップを手に取り、まずは香りを楽しみました。
それで、眉間にできた皺が1本減ります。
そして、一口、艶やかな飴色の雫を口に含むと、また1本、皺が消えていきました。

コーガのその様子を見たゴーザンは満足そうに小さくうなずくと、軽く一礼をして下がろうとしました。
忙しい王の小休止を邪魔しないように、と思ってのことです。

ところが、コーガはそんなゴーザンを引き留めました。

「ゴーザン」

呼ばれたゴーザンは、すぐさま足を止めて振り返ります。

「はい、なんでございましょう」

ゴーザンはへその前あたりで両手を組んで、主の言葉を待ちました。

「…」

だが、コーガは少し難しい顔をしたまま何も言いません。
しばらく待ってみたものの、やはり黙ったままのコーガに、ゴーザンは控えめに

「コーガ様?」

と促しました。
すると、コーガはゴーザンとは目を合わさずに

「最近、カオルンの様子がおかしいとは思わないか?」

と尋ねてきました。

「カオルン様の様子、でございますか?」

「ああ」

確かに。
ゴーザンの耳にも、メイドや召使いを通して、カオルンの様子についてチラホラ報告が届いていました。
ですが、王からの問いには答えず、ゴーザンは逆にコーガに問いました。

「何かそのようなことがあったのでございますか?」

「うむ…」

小さく唸るように返事をしたきりでコーガが言い渋っていると、別のところから声が届きました。

『なんだ、コーガ。はっきり言ったらどうなんだ?』

声の方向… すなわち、コーガの左手中指に嵌(はま)るにドクロの意匠をした指輪に視線が集まる。

『この何日間か、なんだかんだと、おまえからの誘いが断られているんだろう?』

「なっ!」

焦ったように動揺するコーガに対して、ゴーザンは努めて冷静に、

「誘い、というのは?」

と問い返しました。

『誘いと言ったらアレだ。夜の夫婦の営み…』

「バルザっ!」

魔導輪のあけすけな言葉を、コーガは大きな声で遮ろうとします。
ですが、そのくらいで引き下がるわけのないバルザは、なおもしゃべり続けます。

『頭痛だ、寝不足だと言われたり、穢れの日でもないのに、’始まった’ などと…』

「いいからもう、その辺にしておけ!」

怒気を孕んだ低い声がそう言うと、コーガはバルザを自分の指から引き抜いた。

『おいおい、俺様はウソなんか言わないぜ?
 あいつからは血の一滴たりとも匂いはしなかっ…』

バルザの言葉は途中で断ち切られてしまいました。
なにせ、コーガが、バルザを台座に戻すと、木製の箱のふたを乱暴に閉めてしまったんですから。

「…」

「…」

バルザの騒々しい声が聞こえなくなると、気まずい静けさが場を支配しました。
やがて、コホンと咳払いしたゴーザンが口を開きました。

「確かに、この頃のカオルン様については少しいつもとは違うご様子が見られるようです。
 ですが、それも、カオルン様のお考えがあってのことかと思われます」

「考えとはなんだ?
 おまえは何か知っているのか?」

先程の動揺などなかったことのように、冷静なまなざしでコーガはゴーザンを問い詰めました。
これがそんじょそこらの召使なら、震え上がって知っていることは全て白状しているでしょうが、ゴーザンには通用しません。

「お許しください。
 それはわたくしの口からはお話しすることはできません」

穏やかですが、そうきっぱり言い切るゴーザンに、コーガは溜息をつきました。

「カオルンに口止めでもされている、ということか…
 …まったく。おまえの主人はいったい誰なんだ?」

そう言いながらも、コーガからは怒りの感情は感じられません。
コーガにはわかっていたのです。
ゴーザンが秘匿していることが具体的に何なのかはわかりませんが、どんなときでも彼なりの道義でもって、コーガやカオルン達のしあわせを願っているということを。

「申し訳ございません」

そう言ってコーガに頭を下げるゴーザン。
なんとなくカオルンの行動の根底にあるものに見当がついているゴーザンは、頭を下げながら、

(はてさてどうしたものか…)

と、心ひそかに胸を痛めておりました。


to be continued(4へ)
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も5年を経過しましたが、まだ飽きていない模様…



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