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きんのまなざし ぎんのささやき

牙 狼(冴 島 鋼 牙 Ver.)の世界を、気ままに妄想した二 次 創 作 サイトです

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月の光を集めて(4)

年の瀬だというのに、掃除が一向に進みません。
年賀状もまったくの手つかずです。
だけど、妄想は、妄想だけは…

いいのかな? これで?
フフフのフ~♪

拍手[6回]




::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

翌日。
前夜、ホラーが姿を消した林の中を、零は歩いていた。
全身黒ずくめのいで立ちで、まるでそこが街中の舗装された歩道でも行くかのような足運びでコートの裾を翻す姿は、自然豊かなこの場所にそぐわないようでいて、どうしたわけかそれほど違和感はなかった。
というのも、零の頭上を覆うように折り重なる柔らかい木々の葉が作る陰影を落とされた端正な顔立ちには、うっすらと笑みが浮かんでいるからだった。

『ちょっとゼロ。
 いくら昼間だからって、あまりにリラックスしすぎじゃない?』

そう注意しながらも、シルヴァの声にも緊張感はない。

「ううん? だって気持ちよくない?
 すっげえいい天気だし、空気もおいしいし…」

零は、ううん、と手を伸ばして大きく深呼吸をした。

(その気持ち、わたしには全然わからないけれど…)

と思いつつも、シルヴァはそれを口にすることはなく、

『それにしても、あのホラー、いったいどこに身をくらましたのかしら』

と話題を変えた。
一度ならず二度までも取り逃がしたホラーのことを思うと、零の顔からも笑顔は消える。
けれど、シルヴァに語り掛ける声はまだ穏やかだった。

「さあな…
 とにかく、今は彼女に話を聞く、それしかできないだろ?」

『…そうね』

会話を終えた零はしっかりと前を見据え、一歩一歩しっかりとした足取りで、サヤの住む小屋へと歩みを進めた。






一面に植えられたルピナスの花々の向こう側に立つ小屋にたどり着いた零は、コンコンとドアを叩いた。
しかし、なんの反応もなく、さらにもう一度ノックしようと手を上げたところで、小屋の脇のほうに気配を感じた。
そこで、そのまま気配のするほう、つまり、小屋の裏手のほうへと足を進めていった。
小屋の角を曲がるとそこには小さな畑があって、その畑の一角でこちら側に背を向けてしゃがみ込むサヤの姿を見つけた。

しばらく様子を窺っていたが、一向に気づきそうにないことから、零はそっと声を掛けてみた。

「こんにちは」

すると、よほど驚いたのか

「きゃ」

と小さな悲鳴を上げて、サヤが大きく肩を跳ね上げた。

「ごめん、ごめん。驚かせちゃったよね?」

恐る恐る振り返ったサヤに、零は慌てて謝った。
振り返ってみて、サヤは少しだけ安心したような素振りを見せた。
それは零が一度訪ねてきたことのある人物であるとわかり、彼が柔らかい雰囲気をまとっていたからだった。
とはいえ、素性のわからない人物であることには間違いなく、若干の警戒心が残っているのは仕方ないことだった。

「あの… 何か御用ですか?」

そんなサヤに、零は飛び切りの笑顔を作って見せる。

「ひとつ聞きたいことがあってね…」

「なんでしょう?」

「その前に…」

そう言うと、零の顔から笑みが消え、真っすぐにサヤを見つめてこう言った。

「あんた、魔戒法師?」

そう訊かれたサヤの顔つきが変わった。
最初に浮かんだのは「驚き」。そして、次に浮かんだのはどこか納得したような、そしてほっとしたような軽い虚脱感のようなものだった。

「やっぱり…
 あなたは魔戒騎士なのね?」

そう言って立ち上がったサヤは、手に付いた土をパンパンと払いながら立ち上がった。

「ああ。俺は涼邑零。魔戒騎士だ」

ゆっくり近づいてくるサヤから目を離さず、零は自らを名乗った。
サヤは零の近くまで来ると、零の視線をまっすぐに受けながらこう言った。

「わたしが魔戒法師だったのは大昔のことよ。今は法師としての務めは果たしていない。
 今のわたしには、もうそんな力、残ってないもの…」

零よりはいくつか上に見えるサヤはそう言って寂しそうに笑った。
そして、ついて来てというように、零の隣をすり抜けて小屋の表のほうへと歩き出したので、零も彼女の後ろに従った。





小屋の表に立つと、ルピナスの花畑が一面に見渡せる。
まだまだ満開とはいかないながらも、房の下のほうから花は咲き始めていて、初夏の日差しに暖められた風に花首をさわさわと揺らしている。

「それで?
 わたしに何か聞きたいことがあるんでしょ?」

サヤはルピナスの花を眺めながら、そう口にした。

かつて魔戒法師であったサヤ。
そして、もうその力はないという彼女をどこまで信用していいのか、それはまだ何とも言えなかったが、零はひとまずは当初の疑問をぶつけてみた。

「このまえ俺が訪ねて来た夜と、そして昨日の夜、俺はあるホラーを追っていた。だが、あの林の中でヤツの気配が消え、取り逃がしている。
 あんたは何か知らないか?
 あるいは、気づいたことでもいい」

零は、隣にいるサヤを見ていた。
どんな些細な変化にも気づけるように…

「昨日の夜?」

そう呟いたサヤが、少しだけ眉根を寄せた。
それは、昨日のことを思い出そうと考えているようにも見えるし、違うことを考えているようにも見えた。

「さっきも言ったけど、わたしにはもう魔戒法師としての力はないの。
 だけど、昨日の晩はなんとなく心がざわざわと落ち着かないような気がしたわ。
 それに最初にあなたが訪ねて来た晩も…
 でも、それは、あなたが来たからなのかもしれないと思っていた」

そう言うと、サヤは零を見た。

「でも、それ以上はわたしにはわからないわ」

まっすぐにこちらを見るサヤから目をそらさず、零は念押しをする。

「本当に? 何も気づかなかった?」

サヤも目をそらさない。

「ええ、本当よ」

しばらく見つめ合っていたふたりだったが、やがて、サヤが少し意地悪な顔をして一言付け足した。

「あなた以外には訪ねて来た人もいないわ」

それを聞いて、零はちょっと目を見開くとくすっと笑って言った。

「やめてくれ。まさか俺を疑ってる?」

それに対してサヤも

「まさか! あたしは自分の知っていることを言ったまでよ?」

と言ってからくすくす笑いだした。


to be continued(5へ)
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…



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