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きんのまなざし ぎんのささやき

牙 狼(冴 島 鋼 牙 Ver.)の世界を、気ままに妄想した二 次 創 作 サイトです

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月の光を集めて(3)

一気に寒さが深まったというのに、5月頃が舞台の妄想をするなんて無謀だったかも…

  今は5月。今は5月。
  あったかいよ。いい気候だよ。
  爽やかな風も吹いて、ね。
  うーん、気持ちいいーっ!

と言い聞かせつつ、暖房器具を真横に置いて、かじかむ手でキーボードを打つ自分に苦笑しております。

拍手[8回]



::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

それから3日ばかり静かな夜が続いたが、4日目の晩、シルヴァが不穏な気配を感じ取り、零はその場所に急いだ。

『あの角を曲がって左よ!』

シルヴァの緊迫した声を受けた零が、薄汚れた狭い路地の十字路で足を止めて視線を左に回すと、今まさにホラーに喰われようとしている若い男の姿が見えた。
ハッとした零はすぐさま銀狼剣を両手に抜き、柄の先端部分どうしをカチリと合わせると、切っ先が地面すれすれに掠めるようにしながら剣をホラーに向けて投げ放った。
路地に差し込む細い月光を集めて青白い光を放つ剣は、真っすぐにホラーへと延び、男の喉笛に喰らいつこうとするホラーの額を割ろうとしていた。
だが、すんでのところでホラーはそれに気づくと、手にしていた男を乱暴に放り投げ、その反動で後ろに大きく飛び退って零の攻撃を躱した。

空を斬った銀狼剣は、そのままグンッと上空に上がり、縦方向に大きく円を描いて零の手元に戻ってきた。
ソウルメタルの冷たく重い感触を手にした零が、前傾姿勢で地面を強く蹴り、ホラーへと走りだすと、手放した獲物をちょっとだけ惜しそうに見たホラーは、背中を見せて逃走を始めた。





数日前の再現のように、零はホラーの背を追い林の中を疾駆していた。
そして、やはり、同様にその姿を見失ってしまうのだ。

「シルヴァ! 奴の気配はっ!?」

焦燥を交えた険しい声が飛ぶ。
すると、シルヴァはなだめるように、わざとゆっくり、

『だめね。もう何も感じないわ、ゼロ…』

とため息交じりに返事をした。
零は誰にもぶつけられない苛立ちを込めて、ハァッと大きく息をつき首を左右に振った。
が、それでもう気持ちをリセットさせたのか、零は憮然としながらも冷静さを取り戻していた。

「一度ならず二度も見失うなんて… それほど奴の逃げ足が速いのか?
 そうでなければ…」

思案する零の言葉を受け、シルヴァが続ける。

『…そうでなければ、姿を隠すのがうまいのか?
 ただ足が速いのであれば、気配の消え方がおかしいもの。あんなにフッと消えてなくなるなんて…
 まるで結界か何かの中に身を隠したような感じだったもの』

「どうする?
 このまま辺りを探った方がいいか?」

『多分、無駄ね。
 そう簡単に姿を現しそうにないと思うわ』

「そうか…」

『でも、今夜はこの辺で休みましょう。
 ひょっとしたら、何か感じ取れるかもしれないから…
 でも、その前に…』

シルヴァは意味ありげに言葉を切った。
けれども、零には彼女の言わんとすることを汲むことができていた。

「あの、サヤとかいう女のことか?」

『ええ。念のため、彼女のところにも行っておいた方がいいと思うの』

「そうだな…」

零はもう一度、暗い林の中をぐるっと見渡して何の気配も感じないことを確認してから、林を抜けた先にあるサヤの家へ向かって歩き出した。





月光に浮かび上がるようなルピナスの群生は、先日よりは蕾ばかりでほとんど咲いていなかったが、今は2~3割の花が開花しているようだった。
だが、満開までにはまだ至ってはいなかった。
零が林を抜けると、ルピナスの花を眺めるように家の前に立つサヤの姿を認めることができた。

『シルヴァ』

サヤに気づかれぬよう、零は声を潜めて言った。

『ゼロ、やっぱり彼女は人間よ。少しもホラーの気配などないわ』

すぐに零に答えたシルヴァが、

『でも…』

と言葉を濁した。
それを気にした零が問いただそうとしたとき、微かな女の声が聞こえてきた。
どうやらそれはサヤの声のようだ。
零とシルヴァは耳を澄ませた。

  らあか…… ぷぢ……
   とめが…せゆ…… りおっ…け………
    やかち…… る…かる……

風に乗って細く聞こえるのは、哀切漂う歌のような調べだった。
それを聞いて、零の目が少し見開かれた。

「魔戒語のようだな?」

『ええ、どうやら彼女はこちらと関わりがある人間のようだわ。
 ただ、魔戒法師と呼ぶには、彼女の気はあまりにも弱々しい…
 多分、魔戒法師としての力を失ってしまったか、魔戒法師から足を洗って長い時間が経っているか… そんなところのようね』

シルヴァはさらに言葉を続けた。

『これは、愛する人の帰りを待つ詩ね。
 確か、この詩に合わせた舞いのような動きもあったはずだけど…』

密やかに交わされる会話に全く気付くことなく、サヤは歌い続けていた。
その儚く美しい姿をしばらく眺めていた零は、

「明日にでも彼女に話を聞いてみよう」

と呟き、彼女の祈りの邪魔をせぬようにそっとその場を後にした。


to be continued(4へ)
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…



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