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きんのまなざし ぎんのささやき

牙 狼(冴 島 鋼 牙 Ver.)の世界を、気ままに妄想した二 次 創 作 サイトです

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最近の’お礼’

おまえのせい(4)

拍手コメントにお礼もしたいけど、とりあえず、先を書くことを優先しますね。
鋼牙とカオルの出てこないシーンは、サクッと進めないと…
(いや~、書いているといろんなことを盛り込みたくなって、なかなか思うようには進められないんですが)

さて。
前回に引き続き、今回もまたまた流血シーンがあります。
そういう表現が苦手な方はご注意ください。

そして、今回は[大人限定]にしようか少し迷ったのですが、大丈夫かな~
かなりあっさり目なのでパス付きにはしませんでしたが、こちらのほうも、苦手だという方は回れ右でお願いします。




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その一部始終を見つめる目がエニシダの茂みの中にあった。
オリトも、その魔導具ザリさえもまだ気付いていない。
茂みの中で狡猾そうな目がニタリと笑い、長い舌が舌舐めずりをした。
やがて、それは茂み伝いに徐々にオリトのほうへと近づいていった。

『オリト! ホラーの気配がするよ!』

緊迫した声でザリがホラーの接近を知らせた。
だが、ジョアンを失ったばかりのオリトにとっては、ホラーの出現など今やどうでもいいことのようにさえ感じていた。
茂みの中からは残忍そうな目だけが見える。
その目が怪しげに光るのをオリトは茫然と眺めていた。
すると、

「魔戒騎士よ。
 その女、あたしに喰わせちゃもらえないかい?」

ギスギスとした耳障りな声がとんでもないことを言ってきた。
それを聞いたオリトは、

「なにっ!」

と憎々しげに茂みを睨みつける。

「まあ、そう慌てずによくお聞き、魔戒騎士よ。
 お前はその女をよみがえらせたくはないかい?
 死んだばかりの今のうちなら、あたしゃ、その女の肉身(にくみ)を復活させることができるんだよ」

ザリが慌てて、

『オリト! ホラーの言うことなんか聞いちゃ駄目っ!』

と忠告するが、オリトのほうはすでにホラーの言葉に惹きつけられていた。

「どういうことだ?」

興味を示したオリトの反応に満足したホラーは、余裕たっぷりに言った。

「だから…
 今、あたしがその女を喰っちまえば、その肉体を再現させられるって言ってるんだよ」

頭の回転の悪い子に言って聞かせるように、少しうんざりしつつホラーは言った。

「…」

オリトはホラーの言葉に考え込む。

『ダメっ、オリト!
 そんなことしたら… そんなの、もうジョアンじゃない!』

懸命に制止するザリの言葉にかぶせるようにホラーは言う。

「そうさねぇ。 その魔導具の言うことはもっともだよ。
 確かにその女を ’完全に’ よみがえらせることなんか、もう誰にもできゃしないよ。
 だけど、肉体だけならまだ間に合う…

 いいのかい? 早くしないと、その女は完全におまえさんの元から消えてなくなっちまうんだよ?」

ねちっこい声が畳みかけるように言う。
苦渋の表情で、腕の中の動かないジョアンを見つめるオリト。
やがて、何かを吹っ切ったように首を大きく振って、茂みの中のホラーをまっすぐ見た。

「ジョアンの身体を元に戻してくれ」

自分でもゾッとするほど冷たい声がオリトの口から出てきた。

『オリ…』

そんなことを黙って許すことはできず、口を挟もうとするザリを、

「黙ってろ」

と一喝して黙らせると、

「もう決めたんだ。
 こいつなしでは俺は生きていけない…」

オリトは絞り出すように、自分の弱さを吐露した。
重々しい雰囲気の中、茂みの中からズルズルと這い出るようにして醜いホラーが現れた。

「お取込み中すまないがね… こっちのほうは、ちょいと早くしないといけないもんでね」

ホラーはオリトとジョアンの間に割って入ると、なんの躊躇もなくジョアンの喉笛に喰らいついた。
ホラーがオリトに背を向けているので、ジョアンが喰われているところは直接見ることはなかったが、グチョグチョという耳をふさぎたくなるような粘着質な音が聞こえてきて、鉄錆(さび)のような匂いが鼻腔に流れ込む。
人形のように無表情なオリトの顔に、ジョアンの血飛沫が飛んだ。
もはや涙など流していないオリトの頬を、赤い筋が流れていく。
ものの数分で、オリトの目の前からジョアンの身体が消え、振り返ったホラーが血肉で汚れた口を腕でグイッと拭(ぬぐ)った。
そして、満足そうな卑しい目をオリトに向けたホラーは、観衆が注目しているステージ上のマジシャンかのようにもったいぶって喋り出す。

「魔戒騎士よ、よく見るがいい。
 お前の愛しい女の肉体が、あたしの中でよみがえるところを…」

そう言うと、苦しげに身を縮め、その場に小さくうずくまり、ビクリ、ビクリと痙攣し始めた。
オリトは緊張の面持ちで2~3歩後退(あとずさ)ると、ホラーの中で起こっている変化を凝視した。
オリトの見守る中、ホラーの身体はみるみる白っぽく乾いたようになっていき、ゴツゴツとした皮膚の中でモゾモゾと何かが蠢(うごめ)きだした。
やがて、背中がパックリと割れると、そこから陶器のように滑らかで白い背中の一部が見え始めた。
割れ目はどんどん大きくなり、ジョアンと同じ栗色の髪も見えてきた。
ほっそりとした腕が1本ずつ外に出てくる。
腕が出れば、あとはスムーズに進む。
ホラーの中から出てきた肉体は、ゆっくりと立ち上がった。
下を向いていた顔が徐々にオリトのほうに上げられると、オリトの顔に喜色が浮かんだ。

「ジョアン!」

ホラーの中から現れた姿は、まぎれもなくジョアンだった。
が、すぐにジョアンの身体はグラリと傾いた。
オリトが抱き留めると、ジョアンは恥ずかしそうな笑みを浮かべてオリトに顔を向けた。

「まだ、右足が完全じゃないみたい…」

そう言えば、事故のとき、ジョアンの右足の損傷がかなり激しかった。
頭にも大きなダメージがあったことも思い出された。

そう、確かにジョアンは一度死んだはずだ。
だから、今、目の前にいるのはホラーであることに違いはないのだが、そんな真実も、今のオリトにとってはさほど重要ではない。
オリトの腕の中のジョアンの重み、いつも使っているシャンプーの香り、少し甘えるように見つめる目…
どれも、まるきりジョアンだった。

「無理をするな」

そう言うと、オリトは逞しい腕でジョアンを軽々と抱き上げた。

「さあ、家に帰ろう…」

「…うん!」

腕の中のジョアンが嬉しそうにうなずき、オリトの首に抱き付いた。
そして、オリトを見つめて髪を撫で、左の耳をなぞる。
それは恋人同士の他愛ないボディタッチのように見えた。
が、もっと深い意味があった。
というのも、このときを境に、ザリがオリトに呼びかけることはなくなってしまったのだ。
そう… ザリの意識をジョアンの姿をしたホラーが無理矢理閉じ込めたのだった。

そんなことに少しも気付かないオリトは、よみがえったジョアンの身体を抱えて、家へと運び込んだ。



家に帰ってみると、小さなダイニングテーブルの上にはジョアンの手料理がすでに並べられていた。
夕食の用意が整った後にワインを買いに出掛けたらしい。

「ごめんなさい。
 せっかくのワインが割れてしまったわ」

申し訳なさそうに謝るジョアンに、

「そんなものはいいさ。
 どうせ今夜はホラー狩りで…」

と言いかけて、オリトは言葉を飲み込んだ。
恐らく、今夜の獲物は目の前にいる、このホラーだった。
複雑な表情のオリトを、ジョアンはじっと見つめていた。

「そんなことより… ジョアン、身体のほうはもういいのか?」

気を取り直したオリトが人懐こい笑みを浮かべて尋ねた。

「まだ足が少し痛むけど、それに比べたらあとは多分大丈夫。
 頭の傷はもうふさがっているし…」

頭に手をやりながらジョアンが答える。
べっとりついていたはずの血糊も、まったくなかった。

「そうか…」

確かに頭からの出血が一番心配だったが、ジョアンの肉体をよみがえらすときに、どうやら生命維持に関わるような重い傷については対処されたようだった。
そのせいなのか、路上に放り出されたときのすり傷や切り傷がまだ手足に残っていて、ざらざらとした砂が、まだしっかりとこびりついている。

「食事よりもまずシャワーだな」

呟くように言ったオリトは、そのままバスルームのほうへと歩き出す。
脱衣所に着き、そっと下に降ろされたジョアンは

「ありがとう。あとはひとりででき…」

と礼を言いかけて驚いた。
オリトがコートを脱ぎ、シャツもさっさと脱ぎ捨てたからだ。
絶句したままオリトを凝視しているジョアンに気付くと、オリトは、

「足がまだ完全じゃないんだろ?」

と事も無げに言った。
論外に、自分も一緒に入る、ということらしかった。



いつの間にか日は沈み、夕闇がこの家にも入り込んでいた。
だが、バスルームだけは淡いオレンジ色の照明で照らされている。
衣服が脱ぎ散らかされた暗い脱衣所からガラス戸を通してふたりの姿が見えるが、曇りガラスのために輪郭はおぼろげだ。
シャワーから勢いよく出る湯からもうもうと湯気が立ち上り、より一層ガラス戸を曇らせていく。
やがて、ざーざーというシャワーの音に混じり、女の甘い声が聞こえ出した。
そして、時折、互いの名前を呼ぶ声が重なる。
熱が高まっていくバスルームだけが色を持ち、それ以外の場所は対照的にモノクロの世界だ。
ジョアンが一生懸命作った料理も、今やすっかり冷めきって、色を失くしていた。



逢魔が時(おうまがどき)とはよく言ったものだ。
魔戒騎士オリトもその魔物に出会ってしまった。

彼が会った魔物とはなんだったのだろうか?
ジョアンを車で引き、無情にも立ち去った人間だろうか?
あるいは、オリトの弱みにつけこみ、ジョアンの肉身を喰らったホラーなのか?

そのどちらもがそうだったかもしれないし、そうでなかったのかもしれない。
人間を守り、ホラーを狩るはずの魔戒騎士が、目の前のホラーが擬態した恋人の肉体に取り憑かれ、欲するままに欲望を叩きつけたとき、彼自身もまた魔物と化していたのだから。


to be continued(5へ)
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…



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