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きんのまなざし ぎんのささやき

牙 狼(冴 島 鋼 牙 Ver.)の世界を、気ままに妄想した二 次 創 作 サイトです

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God be with ye(9)

水曜日に妄想を公開するのは随分久し振り~♪
これもG.W.だからこそですね。

とはいえ、大型連休なのに、もっと他にやることあるでしょ? と思いつつ…
楽しいんだから、ま、いっか!

拍手[7回]



::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

ホラーは自分の羽を一枚むしり取ると、フウッと黒い息を吹きかけた。
すると、みるみるうちに羽は大きくなり、美しく黒光りする一振りの剣へと形を変えていった。
ホラーが、手に持った剣を斜め頭上に振り上げて
  ブンッ
と振り下ろすと、空気がふたつに切り裂かれて
  キィィィン
と鼓膜を震わせるような波動が辺りに伝わる。
瞬時にして緊迫感の増す中、零は二本の刀を八の字に構えて、鋭い眼光でホラーを睨みつけた。



零とホラーの攻防は熾烈(しれつ)を極めた。
零が優勢にホラーを追い詰めたかと思えば、次の瞬間には反撃を喰らい、とてつもないピンチに陥る。
そんな中で、共に激戦を潜(くぐ)り抜けてきた零とシルヴァとの連携は、目を見張るものがあった。
阿吽(あうん)の呼吸で、繰り出されるシルヴァの的確なアドバイスを、零は即座に確実に活かしていた。
とは言え、わずかな隙も見逃さずに攻め入るホラーに、零は少しも気が抜けない。
闘いの最中(さなか)、目まぐるしく零のコートが翻り、剣が閃(ひらめ)き、汗が飛び散った。

「まずいぜ、シルヴァ」

『どうしたの、ゼロ?』

「奴との勝負が、だんだん面白くなってきやがった!」

少年のように目を輝かせた零が、ザッと地面を蹴って突進する。
楽しそうなのは零だけではない。

「ほっほーっ、今のは危なかった…」

と厳しい零の攻撃を凌いで安堵したり、

「おいおい、こっちがお留守だぜ!」

と零の隙を指摘する様子などから見て、どうやらホラーの方もまんざらではないらしい。
その光景は、傍(はた)から見ると一進一退の攻防であることには間違いなかったが、命と命のやりとりというよりは、互いに稽古をつけ合っているかのような、妙な信頼関係の上で成り立っているもののように見えた。
零とホラーは、剣と剣とを合わせて力任せに鎬(しのぎ)を削る体制から、互いに頃合いを計ったかのように同時にパッと両脇に散り、互いの間合いから離れた。

  はあ、はあ、はあ

大きく肩を揺らし、荒い息をするふたり。

「強くなったな、銀牙!」

呼吸が少し落ち着いたところでホラーが言うと、

「その名で呼ぶな、って言ってんだろ!
 だが、まあ、褒めてもらってこっちも悪い気はしないぜ」

と零は応える。
それを聞いて、ホラーは愉快そうに笑いながら、

「ははは!
 左足に重心を移した後の切り返しが遅れるのは、昔のまんまだがな」

と突っ込むと、

「そ・れ・は!
 あんたがそこを突きやすいように誘いこんでるだ~けっ!
 そういう作戦なんだ、っつうの!」

とわざと不機嫌そうに言う振りをして、すぐに破顔する零。

(なんだろう、この感覚…
 昔、父さんに稽古してもらっているときのような、強くて、あったかくて、厳しくて… 懐かしい…)

そう感じて、零の胸がぎゅっと痛くなった。
剣を交えている間も、姿恰好はまるで違うのに、どうかするとホラーの姿と在りし日の道寺の姿が被(かぶ)って見えることがあった。

「ほお、アレがわざとだって言うのか? ほんとにおまえは…」

と明るく言っていたホラーの声が、急にしみじみとした口調に変わる。

「…昔っから負けん気の強い奴だった」

ホラーは目の前の零を眺めながら思った。

(道寺よ、あんたの自慢の倅(せがれ)はこんなにも強い魔戒騎士になっていたぜ。
 それに、銀牙のために作ってやった魔導具との息も、これ以上ないってくらいばっちりだ…)

闘いの真っただ中だというのに、不思議にも、ホラーの心の中は温かな感情で満たされていた。

若かりし道寺がオンブルと契約を交わした日。
ボロボロになりながら力を合わせて闘いに明け暮れた日々。
道寺が生涯かけて愛することになる人と出会った日。

(おまえさんの命尽きる日まで、私は最後まで付き合うつもりだったんだがな…
 なんの因果か、顔も知らない若者と契約する羽目になったときには何とも言えない気持ちだった。
 そのうちに道寺が死んだと聞き、新しい契約者である若者もホラーに殺されちまって、自分も生き恥晒すような身の上に…
 嗚呼、私にはなんの希望もなくなったよ。

 ただ、ひとつ。

 できることなら、道寺が’息子’と呼ぶ銀牙… おまえさんの手にかかって果てることができたら、これ以上何も言うことはない…)

道寺の死とともに消息の途絶えた銀牙の行方を探し、涼邑零という魔戒騎士に辿りついたのは、半年ほど前のことだった。
自分の命の半分はアバドゥールが握っているのだから、自由の利かない状況でそれを調べ上げるのに、随分と時間がかかってしまった。
それから、アバドゥールを、零のいるこの管轄まで引っ張りだすことにもかなり手を焼いたものだ。
だが、その甲斐あって、こうして立派に成長した彼に巡り合うことができた。
そして、期待通りアバドゥールが彼の前に倒れ、奴に奪われていた命の半分を取り戻すこともできた。
さらには、昔、道寺が銀牙につけていたような稽古を、自(みずか)らの手で零につけてやることもできた。

(もう十分だ…)

ホラーは静かに目を閉じ、ゆっくりと開いた。

「お遊びの時間はそろそろ終わりだ。
 そろそろケリをつけるとするか?」

不気味なほどに落ち着いたホラーの声が、零の耳に届いた。

「ああ…」

そう短く答えた零は、改めて剣を握り直した。
双方、腰を深く落とした体制から、互いの出方を待った。
息苦しい沈黙の中で、計ったかのように同じタイミングで跳んだ。

「はぁぁぁぁっ!」



to be continued(10へ)
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…



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