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あの人
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その人は、思えば不思議な人だった。
私がバイトしているケーキ屋さん、パティスリー・パヴェにその人が初めて来たとき、私は「男の一人客」ということに加え、全身真っ黒ないでたちにぎょっとした。
けれども、すぐに、抜群なスタイルのよさと甘いマスクに目を奪われドキッとして、端正な顔立ちに浮かべたフレンドリーな笑顔にポーッとしてしまった。
「こんにちは。注文、いいかな?」
(ああ、声まで優しいんだな…)
とそう思ったところでハッとして、
「あ、いらっしゃいませ。
はい、お伺いいたします」
と少々声をうわずらせながら、トレーとトングを慌てて掴んで、なんとか営業用スマイルを浮かべた。
「う~ん、そうだなぁ…」
そう言って、長身の腰を折ってショーケースを覗き込むその人は、少年のようにキラキラした目で右に左に視線を移していく。
(あ、なんだかすごく楽しそう…)
遠慮がちに観察しながらも、ぼんやりとそう思っていると、
「クレープ・オ・フリュイと~
イタリア栗のモンブラン~
それに、ベルギー産クーベルチュールを使った濃厚ショコラに~
コーヒーとキャラメルのムーストルテ…
あ、このシャインマスカットとピオーネのタルトもうまそう?
じゃ、これもね?」
とケーキの名前をよどみなくスラスラと唱(とな)える、耳に優しいあの声が聞こえて来た。
「え、あ、はい。
クレープ・オ・フリュイ、モンブラン、濃厚ショコラと…
えっと、シャインのタルトですね?」
あわあわしながら、ケーキをトレイに移していると、ショーケースに片肘をついて覗き込むように向こうから身を乗り出していたその人が、
「コーヒーとキャラメルのムーストルテを忘れてるよ?」
とニッと少し意地悪そうな笑みを浮かべた。
(ひえ~)
内心ドキドキながらも、
(落ち着け、落ち着け…)
と呪文のように繰り返し、小さく深呼吸をしてからショーケースの上にトレイを差し出す。
「失礼しました。
えっと、これでご注文の品にお間違えありませんか?」
すると、ケーキのひとつひとつを目で追い、小さく頭を縦に振りながら確認したその人が、私の目をしっかりと見てから口角をあげる。
まるで、覚えの悪い子に、よくできました、とでも言いそうなその表情を確かめてホッとする。
「お持ち帰りでしょうか?
それとも、こちらでお召し上がりですか?」
私は、お決まりの言葉を口にした。
「ああ… ここはイートインのスペースがあるんだね~」
ぐるりと店内を見渡したその人が、店の片隅に2つだけあるテーブルに目を留めながら言った。
「すぐに買ったケーキを食べたい」というお客様の声があって、広くはない店内だったが、なんとかスペースを設けたのだと、バイトの初日に聞いた話を思い出す。
「はい、今はどちらも空いてますが…」
「じゃあ、ここで食べてくよ!」
「へっ」
思わず間の抜けた声が出た。
てっきり、お見舞いだとかお土産だとかそういう目的で買うのだろうから、テイクアウトするものだと思っていたからだ。
(だって、ケーキ5個だよ?)
思わず怪訝そうに眉間に皺を寄せていた私に、その人が「どうしたの?」とでもいうふうに首を傾けた。
「あ、いえ。こちらでお召し上がりですね。
えっと、では、どれをお持ちいたしましょう?」
(さすがに、全部出すのはおかしいよね?)
そう思った私だったが、その人は実に爽やかな笑顔を浮かべながら、
「どれ、って… 全部だよ? 全部持ってきて。
あっ、あとコーヒーある?」
「はい、ございます」
「じゃあ、コーヒーもお願いね。
あっ、それと砂糖も使うからちゃんと持ってきてよ?」
そう言うと、目をまんまるに見開いている私を置いて、その人は弾むような足取りでイートインのコーナーへと歩いて行った。
「あーあ、遅くなっちゃったな…」
私はその日、明日が提出期限のレポートをまとめるべく、友達のアパートを訪ねていた。
レポートがどうにか形になったことにホッとしながら、暗い夜道を少し早足で歩いていた。
私のアパートは友達のところから歩いて10分程。
人通りは少ないものの、車の通りはそれなりにあるから大丈夫かなと思っていたけど、今夜はどうしたわけか、車もあまり通らなかった。
(早く帰ってお風呂に入ろう。
あっ、洗濯物乾いてるかな? 乾いてないと困るんだけど…)
じわりと浮かび上がりそうな不安を、帰ってからの行動を考えることで思考の外に追い出そうとした。
すると、目の前を風がビュンと吹いたような感じがして、思わず足を止めて目をつむった。
(びっくりしたー)
そう思いながら目を開けると、2メートルほど離れたところに人が立っていた。
ビクンと自分でもわかるくらいに肩が跳ねあがる。
けれども、不安はすぐに半減した。
外灯に照らされたその人は見知った顔で、
「あれっ? こんばんは」
と人懐っこい笑顔を浮かべていたからだ。
「こんな夜遅くにどうしたの? 家はこの近く?」
そう心配そうに尋ねるのは、バイト先によく来るあの人だった。
彼は、2週間ほど前に初めて訪れた後も何度か店にやってきて、そのたびにひとりでケーキをたくさん(それも、ものすごくおいしそうに)食べていった。
「あ、はい。すぐそこなんです。
今日は友達の家に行っていてたまたま遅くなって…」
「ふうん…」
なんとなくお互いに多少の緊張感を認め合いながらそんなふうに話をしていると、
『ゼロ、この子は関係ないわ』
と女性の小さな声が聞こえた。
(えっ?)
どこかに、自分たち以外の人がいるのだろうか、とキョロキョロするが誰もいない。
『左の路地の先、近いわよ』
(あっ、ほらまた聞こえた!)
なんとなく、その人のいる方角から聞こえたようで、訝し気にじっと見る。
すると、明らかにその人の雰囲気ががらりと変わっていた。
彼から見て左の路地を睨みつけている目つきは鋭く、顔からは笑みが消えていた。
ハッと息を飲んだ私をまるで庇うように右手でガードされる。
「きみ、早くお帰り」
低い声でそう言うと、チラリと視線が投げかけられた。
その人からは、ケーキを買いに来るあのニコニコとした面影はまったくない。
ゾワゾワとしたものが足の先から這い上がり、痺れのような震えが来る。
(えっ、なにこれ、なんなの?)
まるで足が地面に縫い付けられたように動かせなくて、泣きそうな顔になってしまう。
それに気づいたのか、その人は私に近づいてきた。
近づきながら、その人は言う。
「月のない夜は魔物が出るんだ。
命が惜しかったらまっすぐにお帰り…」
そして、私の肩に手を掛けてグイっと押し出した。
「走れっ」
肩に伝わった彼の手のぬくもりが、身体を縛る見えない糸から私を解放した。
反射的にアパートに向かって駆けだす私。
何年振りかに全速力で走って、だいぶん離れたなというところで走りながら後ろを振り返って見てみた。
すると、そこにはもう誰もいなかった。
(あれっ、今のは夢?)
そう思いながらも足は止まらない。
早く早くと何かに急き立てられるような思いがして、アパートの玄関にたどり着くまで走り続けたのだった。
あれからあの人の姿は見ていない。
やっぱり夢だったのかもしれない。
でも夢じゃない気がしてならない。
あの夜、私が肌で感じた何か底知れない恐怖の対象に、彼はひとりで立ち向かっていったのだと思う。
(あの人は無事なんだろうか?
無事でいてほしいな…)
私は、ショーケースの内側から、いつもあの人が座っていた席をぼんやりと見た。
大きめに切り分けたケーキを男らしく口に放り込み、とろけるような笑顔を浮かべていたあの人の姿が浮かんでくる。
(今も、どこかの街で、おいしいケーキを食べてたらいいな…)
fin
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
とある町のとあるケーキ屋さんのバイトの女の子のお話でした!
考えてみたら、零くんはあちこちのケーキ屋さんに出没してそうですよね。
ということは、あちこちのケーキ屋さんの店員さんに「気になる人」として認定されていそうです。
あの人、最近来なくなったな… な~んて、あちこちの店員さんをしょんぼりさせているのかもしれません。
いやあ罪作りな男ですな、零くんって!
コメント
selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…
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