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きんのまなざし ぎんのささやき

牙 狼(冴 島 鋼 牙 Ver.)の世界を、気ままに妄想した二 次 創 作 サイトです

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あの人の背中(6)

ずいぶん時間が空いてしまいましたが、みなさん、お待たせいたしました!
ああでもない、こうでもない、と紆余曲折しながら書いてみました。
やっぱり、雷牙(&媚空&マユリ)は難し~い!

今回は、少し長くなりましたが、お時間のある方は最後までよろしくお付き合いくださいませ。





::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

「いつ、出発するつもりだい?」

媚空を真っ直ぐに見つめて雷牙は尋ねた。
すると、その視線から目を晒した媚空は、

「…明日の朝」

と短く答えた。
薄暗い鍛錬場に、白くくっきりと媚空の横顔が浮かんで見える。
ここを離れることに迷いはないようだが、少しだけ表情が曇って見えるように思え、その原因はマユリか… と雷牙は見当をつけた。

「どうする?
 マユリには俺から話そうか?」

気を遣って雷牙がそう尋ねると、媚空は視線を雷牙に戻して言った。

「いや、自分で話そう」

雷牙を見る媚空の目は穏やかで、意志の力を感じる光を持っていた。
彼女なら恐らくそう答えるだろうとは思っていたが、力強く断言した声を聞き、彼女のその目を見ることで雷牙はほっとした。

「…そうだね。 それがいいよ」

雷牙がうなずくと、ようやく媚空の表情も和らぎ、鍛錬場の空気もどことなく緩んだように思えた。



鍛錬場を出たふたりは、肩を並べて廊下を歩いていた。
しばらくは黙っていたが、ふいに雷牙が言った。

「今だから言うんだけどさ…」

クスッと笑った雷牙を、媚空は見上げた。

「怪我をしたあなたを見つけ、ここまで運ぼうと肩に担(かつ)ぎあげたとき、俺はなんだか ’悲しい気持ち’ になったんだ…」

そう言う雷牙の表情からは ’悲しさ’ などは感じられず、どこか楽しげな雰囲気さえ感じられた。

「…」

媚空は無言のまま話の続きを待ち、それに応えるかのように雷牙は話し続けた。

「媚空は、魔戒騎士を相手にしても決して怯(ひる)まない強い人だから、てっきり、もっとごつくて重いんだと思ってたんだけどね…

 担(かつ)いでみたら案外軽くてさ。
 ああ、媚空もフツウに女性なんだな、って思ったんだ」

少しも悪びれずに言う雷牙の言葉に、媚空は気分を害したフリをして険しい顔で突っ込んだ。

「案外、失礼なことを言うんだな。

 私だって、女だ。
 どんなに頑張ってみたところで、男のようにはなれない」

「ははは… 失礼!」

笑いながらも素直に謝る雷牙。
気を取り直して、媚空は雷牙に改めて尋ねた。

「しかし…
 それのどこが ’悲しい気持ち’ につながるのだ?」

雷牙は、媚空をチラッと見ると、またすぐに前方を見た。

「媚空、あなたは強い。
 ひとりの魔戒法師として、俺は尊敬もし、頼りにもできる存在だと思っている。
 だから、あなたがもし ’男’ だったら、きっと ’生涯の友’ とも呼べる間柄になれていたかもしれないと思うんだ。

 だが、あなたは ’女’ だ。
 あなたを運ぶときに改めて気づいて、そういう関係になるのは難しいことかも… と残念に思ったんだよ」

それを聞いて、媚空は考えた。

「私が ’女’ であることが、そんなに問題か?」

媚空は、こいつも女性を軽く見るような男だったのか? と軽く失望を感じながら尋ねた。

「う~ん… そうだね、問題だね」

ちょっと迷って、それでもきっぱり断言した雷牙に、媚空は目を見張った。
だが、雷牙はそんな媚空を気にせずに話を続ける。

「だってさ、男同士なら ’友情’ はいつまで経っても ’友情’ だけど、相手が女性だとさ…
 いつ、’友情’ が、もっと違う感情になっちゃうかもしれないじゃないか?」

大真面目にそう答えた雷牙に、媚空は驚いた。

「まさか、おまえの口から、男女のどうこう、という話を聞くことになるとは思わなかった。

 …おまえが私を ’女’ として見るというのか?
 害のなさそうなフリをして、案外わからないものだな」

と言うと、まじまじと雷牙を見た。

「媚空、あなたも結構失礼な人だ。
 俺だって、一応 ’男’ だよ。
 魅力ある女性を目の前にして何も感じない朴念仁というわけじゃない。

 可能性としては、そういうことがあるかもしれないってことさ」

雷牙も怒ったフリをして厳しい顔で抗議したが、すぐにいつもの人懐っこい笑顔を浮かべた。

「でもね、あなたと何日かをともに過ごして思ったよ。
 男とか女とか、そういうことはこの際、脇に置いといて、いい付き合いをこれからもできたらいい、とね。

 やはり、あなたは、素晴らしい魔戒法師だよ」

真正面から褒められて、媚空は少し照れ臭くなる。

「騎士の中でも最強とも言われる男に、そういうふうに言ってもらえて光栄だ。

 だが、肝に銘じるよ。
 黄金騎士と言えども、男はみんな ’狼’ なんだな」

「そりゃそうさ。
 なんたって、俺は…」

牙狼だから。

その言葉を口にはしなかったが、ふたりには確実に通じるものがあり、微妙な顔で見合った。
そして、どちらからともなく吹き出すのだった。




その日の夕食時、

「マユリ… 話があるんだ」

と媚空はマユリに切り出した。

「なんだ、話って…」

半ば話の予想がついているのか、マユリは神妙な顔で問い返した。

「私の傷もすっかり癒えた。
 だから、明日の朝、ここを発(た)とうと思う」

どこまでも優しい口調で媚空は告げた。

「…」

驚いた顔を見せたマユリは、

「そうか…」

と言ったきり黙ってしまった。
すると、媚空は少し表情を引き締めて改まって言った。

「マユリには、ずいぶん世話になったな。
 もちろん、雷牙にもゴンザにも…
 ありがとう」

媚空が一同の顔を順番に見た。
雷牙はうなずき、ゴンザはいえいえと顔を横に振った。
最後にマユリを見ると、

「怪我が治ってよかったな…」

と言った。
その表情は、まだ少し硬いままだった。
だが、それが、マユリにとっては精一杯だった。
テーブルの上に置かれていたマユリの手に、媚空はそっと自分の手を重ねた。

「…」

何も言わずに、ただ穏やかなまなざしで媚空はマユリを見た。
手に伝わる温もりは、マユリにとっては心地よく、このままずっとこうしていられたらいいのに… と思ってしまう。
だが、それをそのまま口にすることは、媚空を困らせるだけだということはマユリにもわかっていた。
だから、重ねられた媚空の手をぎゅっと握りしめて笑って見せようとしたが、マユリの顔にはぎこちない笑顔しか浮かばなかった。




早朝、キンと潔いほどに冷たく澄んだ空気の中。
冴島家の玄関前には、旅立つ媚空とそれを見守る屋敷の人たちの姿があった。

一流の者の手で繕(つくろ)われた魔法衣は、媚空の身体に吸い付くようにぴったりで、それでいて身体の動きを少しも損なわない、まさに申し分のない出来だった。
本来の姿に戻った媚空は、適度な緊張感を纏いながらもなんとなく余裕も感じられた。

「わざわざ見送りなどよかったのに…」

遠慮する媚空に、

「そういうわけにはいかないだろう?」

と雷牙は笑った。

「本当に皆には世話になった。
 なんと礼を言えばよいのかわからないが… このとおりだ」

媚空はそう言うと、静かに頭を下げた。

「顔をあげてくれ、媚空。
 俺たちは大したことなどしちゃいない」

なぁ?、というように雷牙はゴンザを振り返った。

「そうでございますよ、媚空様。
 同じ魔界に関わる者として、少しだけ手を貸したに過ぎません」

居候がひとり増えて、一番世話になったと思えるゴンザがそんなふうに言い添えて、媚空の気持ちを軽くした。

ふと、媚空はマユリを見た。
媚空に釣られるようにして、雷牙もゴンザもマユリを見た。

「マユリ。
 短い間だったが、とても楽しい時間を過ごすことができた。
 マユリと過ごした日々を、私は忘れはしないだろう」

媚空がそう語りかけると、マユリは一瞬泣き出しそうな顔になったが、すぐに怒ったような顔をして、

「そんなことを言うな。
 もう会えないみたいに聞こえるじゃないか」

と抗議した。
それに対して媚空は何かを言いかけたが、結局は、フッと笑っただけだった。
なんとなくその場の空気が湿っぽくなったように感じたところで、ザルバがそれを打ち破るように、

『マユリの言うことにも一理あるな』

と口にした。
必然的にザルバがみんなの視線を集める。

『別におまえたちは、媚空と ’サヨナラ’ しようと思ってるんじゃないのだろう?
 ただ、’元気で頑張れよ’ って見送りたいだけなんじゃないか?

 だったら、媚空がここを離れるのも訪れるのも、もっと気楽に考えちゃどうだい?

 次に会うのはいつになるか判らないけれど、’サヨナラ’ じゃなく、’またな’ と見送ればいい』

言外に、難しく考えることはないだろう、とザルバはそう言いたいようだった。

「ほんとだね。 ザルバの言う通りだ。

 媚空、助けが必要なときはいつでも呼んでくれ。
 俺も媚空の力が欲しいときは、そのときは頼むよ」

雷牙がそう言うと、

「何も用事がなくても、媚空が来たいときにはいつでもここに来ていいんだぞ!」

とマユリが訴えるように願い、

「お近くにいらしたら、ぜひ!」

とゴンザも言い添えた。
温かい言葉に感激したような面持ちで、

「ありがとう、みんな…」

と再び媚空は礼を言う。



歩き出した媚空の背中は、もう小さくなっていた。
あの日、イズモを葬った日と同じように、媚空は振り向かずに歩き続けた。

いや…
かなり遠くになった背中が、くるりと振り向いた。
そして、見送る雷牙たちに向かって手をあげた。
それに答えるように三人も手を振り返すと、媚空が笑ったように見えた。
もちろん、実際には、遠過ぎて彼女の表情など見えるわけもなかった。
だが、それにも関わらず、三人とも媚空の笑顔をしっかりと思い描くことができたのである。



(媚空、またね…
 また、元気な顔で会おうね?)

媚空の背中が消えるまで、三人はいつまでも見送るのであった。



fin
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::


ふぇ~ やっと終わったぁぁぁ!!
結構、無謀だったな、雷牙のお話は…
書きながら、ずっとそんなふうに思ってました。 (^_^;)

鋼牙さんとかカオルちゃんには、こうあってほしい! というような願望(&思い入れ)があるので、ダァ~ッと突っ走って書けるんですが、残念ながら、雷牙にはそこまでのものがなかったりするわけで…
あんまり捻りもなく終わっちゃいましたね。

さて、タイトルの「あの人」は、一応、媚空を差していますが、途中、4話で媚空が雷牙の背中を眺めるシーンがありました。
書き始めた当初は全然想定にはなかったシーンでしたが、雷牙の背中を見た媚空サイドからの描写で、そういう視点のシーンが書けたのは自分的によかったなと思ってます。
媚空もちょっとは雷牙を気になってほしいな~ って感じです。

で、結局のところ、明確な ’恋心’ ではないですが、’可能性’ があるよ、という感じのままで終わらせましたが、可能性はありますかねぇ? うふふ♡

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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…



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