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きんのまなざし ぎんのささやき

なにかいいこと(2)

鋼牙さんのささやかな変化、ゴンザさんやカオルちゃんならばっちり気付くと
思うのです。

  どうしたんだろう?
  なにがあったの?

さてさて、鋼牙さんのいつもと違う様子の原因は… なんでしょうね?
気になる方は、お先へどうぞ。

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書斎に入り、ひとりになると、鋼牙はひとつ大きく息を吐いた。

『疲れたのか?
 今日は指令もなさそうだから、ゆっくり休むといい』

ザルバが珍しく優しいことを言う。

「…そうだな。

 おまえもしばらくゆっくりしろ」

ザルバの言葉に同調してから、鋼牙は書斎机の上の箱を引き寄せ、中から
台座を取り出すと、左手から抜いた魔導輪を

  カチャリ

と置いた。

『なに…か… あれば… 呼べ……』

魔界へと吸い寄せられるようにして薄れゆく意識の下で、ザルバの声も
消えていった。

さぁ、これで本当に鋼牙ひとりになった。
黒い革張りの椅子に、深く腰を下ろすと、肘掛けに両肘を付き、胸の前で、
指を合わせる。
適度に暖められた室内の温度と、少しカビ臭い書物の匂いの混じった、
なじみのある書斎の匂いに包まれていると、自然に瞼がふさがる。

すると、つい1時間ほど前にあったことが、自然と思い出された。






管轄の外れの海にほど近い場所で、本日最後のオブジェを浄化した鋼牙は、
魔戒道の入り口を目指し、町のほうへ戻って来た。
市電の通る大きな通りを、買い物中の女性や、学校帰りの学生たちの流れに
逆らうことなく、鋼牙は歩いていた。
太陽が薄い雲に隠され、少し肌寒さが増してきたからか、道行く人もどこか
急ぎ足で、家路を急いでいるように思えた。

『あの信号を右に曲がり、坂道を上っていくと公園に出る。
 その中を突っ切ると洋館が見えるから、その裏手に回れ。
 魔戒道はそのあたりにある』

そうザルバに言われて、人の波から外れ、坂道をぐんぐんと上っていく。
すると、程なくして

『気を付けろ、鋼牙。
 誰かが後を尾(つ)けている』

と、ザルバが鋼牙に注意を促した。

確かに、鋼牙は先程から誰かの気配を背後に感じていた。
ザルバの言葉で、それが確信に変わると、鋼牙の行動は早かった。

前方左手に観光地となっている洋館が見えた。
すでに閉館時間も迫っていることから、人影はほとんどなかった。
その門をくぐると、すぐ左手にある茂みの影に身を潜(ひそ)ませ、
いつでも剣が抜けるよう身構えた。

案の定、鋼牙の後を追うように敷地内に入って来た影があった。
鋼牙の姿を探してキョロキョロしているようだ。

すると、ザルバが、

『安心しろ。
 ただの人間だ、鋼牙』

と、のんびりとした声を掛けた。
ザルバからの情報に、鋼牙は緊張を解いて、剣から右手を下ろした。

相手は、いまだに、茂みに潜んでいる鋼牙に気付いていない。
鋼牙の見たところ、中学生か高校生かくらいの年頃の少年だった。

鋼牙は、その少年の目の前にスッと姿を現わした。

「俺に何か用か?」

虚を突かれて、少年は、

「あ…」

と口を開けたまま、何も言えずにいた。

少年の反応を待っていた鋼牙だったが、ホラーでもなく、用事もない
相手なら、これ以上付き合っているのも無意味である。
そう鋼牙は判断して、無言のまま、少年の脇をすり抜けていき、門から
出て、歩道を歩き出した。

すると、

「待って!」

と後ろから声が掛かった。

ふぅ、鋼牙は小さく息を吐いた。
そして、足を止めると後ろを振り向いた。

先程の洋館の門のそばに少年が走り出てきて、鋼牙を呼び止めたよう
だった。

鋼牙は、「何だ?」とも聞かず、無言で少年の言葉を待った。

「あの、俺… あ、僕、前にあなたに会った気がするんですけど…
 覚えてないですか?」

そう言って、少年は鋼牙に近付くために、坂を上って来た。

「?」

少年の顔をじっと見て、記憶を辿ってみたが、鋼牙にはこの少年に見覚えが
ない。

「会ったのはずっと前で…
 僕が小学校1年生とか2年生とか、そのくらいのときです」

少年は鋼牙の反応を確かめるようにしながら、話を続けた。

「その頃、僕のお父さん、急にいなくなったんです。
 それで、お母さん、すごくガックリきちゃって…

 そんなときに、僕、『強くなれ』って言われた記憶があるんです」


  ’強くなれ’


この言葉で、鋼牙には思い当たる母子がいた。
重い心臓病を患っていた男が、立神という心臓の手術に定評のある医師の
お蔭で命を救われた。
だが、その男は、医師の真の姿であるホラーによって喰われてしまい、
消息を絶っていた。
その男の妻と、その息子のことを、鋼牙は瞬時に思い出したのだ。

だが、それでも、顔色を変えず黙っていた。
少年の真意がわかるまでは、こちらからは何も伝えないほうがいい、と
そう思っていた。

少年は話を続けた。

「あれから、やっぱりお父さんは戻ってきません。
 だけど、『強くなれ』って言葉をお守りみたいに思って、僕とお母さんは
 ふたりで頑張ってるんです。

 僕、その言葉を誰に言われたのか、全然思い出せなかったけど、
 今日、あなたの後ろ姿を見かけて、その白いコート、ひょっとしたら…
 ってそう思って、それで…」

「…」

鋼牙はやはり黙っていた。
普通の人間と関わりを持つことは、魔戒騎士として、極端に避けなければ
ならない。
あのとき、この少年に声を掛けたのは、父を失くして途方にくれている
姿を、昔の自分と重ねたから… ただ、それだけにすぎなかった。
一言だけ言葉を残し、彼らの前から姿を消す。
二度と会わなければなんの問題もないだろう。
そう思っていた。
今日、再び会ったことが、今後どのように作用するのか、何とも判断が
難しかった。

鋼牙の沈黙をどう受け取ったのか、少年は慌てて謝って来た。


「あ、人違いだったらごめんなさい。
 でも、もし、あなたがあのときのあの人だったら…
 一言お礼が言いたかったんです。 ありがとう、って。

 あの言葉は、僕とお母さんにとって、今でもとても大事な言葉だから」

言いたいことを言い終えた少年は、どこかすっきりとした顔をしていた。
鋼牙が人違いであろうとなかろうと、満足しているようだった。

そのとき、それまで雲に隠されていた太陽が、ぱぁっと顔を覗かせた。
鋼牙の立っている坂の上のこの位置から、眼下に見える街並みが、
一瞬にして、金色に輝いて見えた。

「あの、それじゃ、僕、これで…」

そう言って、少年はちょこんと頭を下げると、向きを変えて坂を下って
いこうとした。

「おいっ」

今度は鋼牙が少年の足を止めさせた。

「ポートシティから、なぜこの町に?」

衝動的に引き止め、衝動的にそう聞いていた。
どうして、そんなことをしたのか?
太陽の見せた美しい光景に心が解放されたから… そんな理由しか、
鋼牙には思い当たらなかった。

「あ、お母さんの実家がこっちなんです。
 あれからしばらくして、こっちに越してきました。

 …あれ?
 じゃあ、やっぱりあなたがあのときの!」

少年がポートシティにいたことを知っている人は、そう多くない。
自分の知らないこの人が、その事実を知っていたということは、つまり、
鋼牙があのときの人物であり、人違いでなかったことになる… と、
少年は気付いたのだった。

鋼牙はそれ以上何も言わなかったが、温かいまなざしを少年にしばし
向けてから、くるりと踵(きびす)を返して、坂の上へと歩き出した。

少年はその姿を見送った。
あのとき、緑の丘を駆け去っていった白いコートの後ろ姿を思い出しながら。





書斎のドアがノックされた。

  コンコン

中から返事がないので、もう一度、ノック。

  コンコン

やはり、返事がない。

「鋼牙、お夕飯の用意できたんだけど…」

と、カオルがソロソロとドアを開けて入って来た。
書斎机を前にして座っている鋼牙のそばに、そっと近づく。
鋼牙の様子を窺(うかが)っていたカオルの顔に、笑みが広がる。

(鋼牙が笑ってる…?)

椅子に座ったまま寝入っている鋼牙は、ひどく優しい顔をしていた。

(きっと、いい夢でも見てるのね)

穏やかな魔戒騎士の寝顔を見つめるカオルの表情も、鋼牙と同じくらい
穏やかで優しいものになっていた。

(食事のときに聞いてみよう。
 何かいいことあったの? って…

 鋼牙はちゃんと答えてくれるかしら?)



fin
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ど、どうでしたでしょうか?
ある日、ふっと思いついた妄想です。

鋼牙を知る普通の人間と言えば、あの「晩餐」の母子だよなぁ、とぼんやり
思っていたところ、「今頃、あの子も大きくなっていることだろう…」
なんていうところからスタートしたのが、この妄想です。

名もなき少年を勇気づけたことが、巡り巡って、いつか鋼牙に返って来たら
いいなぁ~ っていう selfish の願望ですね。

魔戒騎士という仕事はツライことが多いけど、たまには ’いいこと’ も
あるといいですよね?

MAKAISENKI だったら、「果実」の零くんとミサオちゃん。
~闇照ら~ だったら、猛竜と類ちゃん。
(あ、類ちゃんは記憶がないか)

それぞれのカップリングにも、いつかあったかい交流があるといいな、
と思いますよね?


[2013/11/25 追記]
ちょっと補足というか、覚書きを…
舞台にしたのは函館市です。
魔戒道の入り口のある洋館を「旧函館区公会堂」と設定し、作中では、
「函館市電」の通る大通りから「基坂通」を鋼牙は上っています。
尾(つ)けてくる人物の正体を知ろうとして、鋼牙が飛び込んだ、
坂の途中にある洋館は、「旧イギリス領事館」です。
函館って、素敵な町ですね。
こんなところを白いコートの御仁が歩いているとカッコいいな~

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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も5年を経過しましたが、まだ飽きていない模様…



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