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牙 狼(冴 島 鋼 牙 Ver.)の世界を、気ままに妄想した二 次 創 作 サイトです

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ほろ苦い夜

魔戒烈伝、第8話「絵空事」。
15分しかなかったけど、濃かった~
しあわせになってほしいんだけどな…
ツライね。




::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

「はあーっ」

鈍い光を放つシルバーのアクセサリーや深みのある色になった革製品などが所狭しと並んでいる店の中。
この日何度目かの溜め息をついたシグトは、店の隅にあるカウンターの上に突っ伏してゴツンと額をぶつけた。

「痛ってぇ…」

そう呟く声にも力がない。
シグトの脳裏には、ケラケラと明るく笑うサチの顔とそれを嬉しそうに見守るキョウコの顔がチラついていた。
悲し気にキュッと目をつむったシグトは、よろよろと身を起こして首をブルンと降った。
しぶとくの残る思いを振り切ろうと思ってのことだったが、あまり効果はなかったようだ。

「そろそろ、店、閉めるか…」

誰もいない店に響く自分の声が、より一層孤独を感じさせてやりきれなかった。
そんなとき…

 カラン、カラ~ン

ふいに ’あかどう’ のドアが開かれ、来客を告げるベルが軽やかになった。

「すいませーん、今日はもう店…」

笑顔にした顔で振り向きながら、訪れた客に閉店の旨を告げようとしたシグトの動きが一瞬、止まった。

「鋼牙さん! どうしたんすか?
 あ、指令か何かっすよね?

 いやぁ、懐かしいなぁ。 元気でしたか?」

店の雰囲気に合わせた重厚なドアの前に立つ鋼牙に、シグトは興奮気味に声をかけた。
初めて会ったときからそうだったが、魔戒騎士の中でも最高峰の黄金騎士、牙狼の称号を受け継ぐ冴島鋼牙は、平平凡凡な魔戒法師だと自認しているシグトにとっては、雲の上の人のような存在だった。

「ああ、近くに来たついでにな。
 指令のほうは片をつけてきたから心配ない…」

「そうですか…

 あ! 烈花なら、少し待ってもらえたら会えますよ。
 あいつ、もうそろそろ帰ってくる頃だから…」

「さっき、そこで会った。

 そうだ。これを預かった。
 これでも飲んで待っていてくれと…」

そう言うと、鋼牙は持っていたビニール袋をシグトのほうに突き出した。
それを受け取ったシグトは中を確認して驚いた。
よく冷えた缶ビールが何本か入っていた。

「烈花のやつ、鋼牙さんをこんなことに使うなんて… なんて失礼なことをしてんだ、まったく!
 すいません、鋼牙さん…」

青くなったシグトが謝ると、

『心配するな、シグト』

と鋼牙の左手から声がかかった。
鋼牙がその左手をシグトのほうに向けると、

『鋼牙はこんなことで気を悪くすることはない。
 それより、そのビールってやつは、ぬるくなると不味くなるんだろ?』

とザルバが言って、ニヤリと笑った。

「そりゃ大変だ」

ザルバに視線を合わせるように少し身をかがめていたシグトもザルバに向かってニヤリと笑い返した。
そして、鋼牙を見上げて、

「ってことで、鋼牙さん! 飲みましょう!」

と爽やかな笑顔を見せた。





「まかいほーしは、しあわせになっちゃいけないんすかね?
 おれ、なんかもお、切ないんすよー こ~がしゃん!」

視線の定まらないシグトは、上体をユラユラさせながら、グラスに少し残っていたビールをグイッと煽(あお)り、ドンとカウンターにグラスを置いた。

『おーい、シグト。 無茶な飲み方は明日に響くぞ!
 鋼牙、おまえもなんとか言ってやったらどうなんだ?』

ヤレヤレと言った感じでザルバが溜め息交じりに言うが、こんなときにどう声を掛けるのがよいのか鋼牙にはわからない。

(零なら、うまい言葉が思いつくんだろうが…)

と、ここにはいない魔戒騎士の顔を思い浮かべてみる。

「こーがしゃんはいいれすよね?
 家に帰れば愛するひとが待っていてくれるんでしょ?
 いーなー おれにもそんな人ほしーなー」

鋼牙の肩に触れ合うくらい近づくと、シグトは鋼牙を羨ましそうに見た。
シグトの酒臭い息に眉をひそめたが、鋼牙は何も言わなかった。
そんな鋼牙に痺れを切らせたようにザルバが口を挟む。

『おいおい、鋼牙だって、大変な苦労をしてだな、カオ…』

「ザルバ!」

鋼牙はぎゅっと左の拳を握りしめると、魔導具に向かって小さく首を振り、黙っていろと無言で伝えた。





何があったか詳しいことは鋼牙も知らなかった。
が、何かがシグトの身にあったのだろう。

数時間前、街で偶然再会を果たした烈花が言っていた。

「シグトの奴、元気がないんだ…
 多分、俺たちとは違う、’普通の人間’ との間で何かあったみたいで…」

そう言った烈花が、店が買い求めたビールを鋼牙に渡して言った。

「シグトだって、女の俺に泣き言なんて言わないだろ?
 だから、鋼牙… 俺の代わりにシグトに付き合ってやってくれないか?」

『ふん、おまえが女だから泣きつかないわけじゃないだろ?
 なに、ふやけたこと言ってんだ、と怒られそうだから言えないんじゃないのか?』

「ザルバ!
 また、俺にその口を塞(ふさ)がれたいのか?」

キッと睨んむ烈花に、少しも恐れていないのに

『おお、怖い!
 烈花も、細かい気遣いのできるほど成長したかと思っていたが、気の短いところは大して変わってないようだな』

と、ザルバは口ではそう言って怖がるフリをした。
そんなザルバに苦い顔をした烈花だったが、鋼牙には信頼を込めた視線を送った。

「…わかった。
 何もできんと思うが、酒を付き合うくらいはできるからな」

「すまない、鋼牙…」





鋼牙の隣でカウンターに突っ伏したシグトは、ムニャムニャと口の中で何かを言っていたが、やがて静かになり、寝息を立て始めた。

人間関係というのは時として思いも寄らない方向に転がるものだ。

父の仇を取るためなら、誰に嫌われようと、誰に憎まれようと関係ないと思っていた。
人と深く関われば面倒が起こると、誰も寄せ付けないようにしていた。
  強くなりたい
それだけを考えていた。

そんな彼が、カオルに出会った。そして、零にも。邪美、翼、烈花、シグト、レオ…
かけがえのない愛しい存在、深い信頼を分け合える仲間が自分にできるようになるのだから、人生とは不思議なものだ。

(大丈夫だ、シグト。
 俺よりもおまえのほうが、何倍も優しくてあったかい…)

隣で眠るシグトにチラリと目をやった鋼牙が、グラスに残っていたビールをグイッと空けた。

「苦いな…」

ポソリと言った鋼牙が、空になったグラスをコトリと置いた。



fin
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「絵空事」だなんて、もう、タイトルからして物悲しさが漂ってる…
「笑顔の似合う魔戒騎士」がいますが、「普通の人間の生活に溶け込む魔戒法師」と言ったら、彼をおいて他にはいませんね。
どうして、あんな、自然体で演技ができるんだろう。
何気ない日常生活は、演じようとするとどこか不自然さや嘘っぽくなったりますが…
美佳ちゃんもスゴイと思うけど、彼は、役によって顔も雰囲気もガラリと変えますね。しかもそれが自然で。

というわけで、サチ親子と別れた後のシグトさんを少しだけ慰めたいな… という妄想でした!

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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…



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