きんのまなざし　ぎんのささやき

ずるずると長引いておりますが、ようやく完結します。

「まなざしとささやき」　最後までよろしくお付き合いくださいませ。

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カオルの足音が遠ざかっていくと、鋼牙は詰めていた息を吐き、
身体の力を抜いた。

（なんだって俺はこんなに焦る必要があるんだ？）

軽く跳ね上がった心拍数を確認するように胸に手を置く。

（らしくないアイツのつぶやきに驚いたからか？
　魔戒騎士として務（つと）めを果たしただけで感謝されたから？
　…まあ、そうあることではないが、それだけで…？）

カオルの声が蘇（よみがえ）る。

「…冗談じゃないです。
　本当に感謝してる。」

…思い出して、また顔が熱を帯（お）びる。
自分の身体の変調に納得のいく説明がつけられず、鋼牙は戸惑うしか
なかった。

（俺は牙狼の称号を継承する魔戒騎士だぞ。それを…

　あんな非力で、料理もできず、絵を描くことくらいしか能力がないような
　女に感謝されたくらいで、なぜこうも落ち着かない気持ちにならねば
　ならんのだ？
　まったく、なんだっていうんだ…）

わけの分からない状況に次第に苛（いら）ついてくる鋼牙だったが、
不思議とそれほど嫌な気分ではなかった。

（ただ…
　俺はカオルを守るため、”血に染まりし者”　を浄化するという試練を
　乗り越え、魔戒騎士として強くなれた気がする。

　これまでは、"守りし者"　とはホラーを狩ればよいだけ、と思ってきたが、
　誰かを守りたいと願う気持ちが、これほどまでに闘いの糧（かて）に
　なるとは思いもしなかった。

　だが、カオルがいることで逆に不安定になった部分があるようにも
　感じるのはどうしたことだ？
　さっきも、つい、「離れてくれ」と言いそうになった…

　俺にとって、カオルの存在は命取りになりかねないのか？
　カオルの声を思い出すとやはり冷静ではいられない…）

いくら考えても答えは分かりそうになかった。
そのとき、カオルの足音が戻ってきたことに気づいた。

（もう考えるのはよそう。）

そう思ったとき、ふと、鋼牙は思った。

（そう言えば…
　狼男を仕留めるのは銀の弾丸だったな。

　それなら、カオルの囁きは、俺にとってのシルバー・ブレットに
　なるのかな…？　ふっ…）

冗談めいたその考えに、思わず鋼牙は自嘲気味に鼻で笑った。
それから、ゆっくりと視線をドアのほうに移し、カオルが入ってくるのを
待った。



fin
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ちょ～っと苦しい終わり方だったでしょうか？

TVシリーズ第1弾の20話「生命」直後を妄想しました。

お気づきかもしれませんが、このブログのタイトルである
「きんのまなざし　ぎんのささやき」
は、この妄想からきている


…　という事実は残念ながらありません。
（引っかかりました？）

はい、そうなんです。
実はこの妄想はブログのタイトルを決めた後に思いついたものです。
ふふふ…

しかもこの妄想はかなり当初の目論見（もくろみ）から外れてしまったもの
なのです。

ブログのタイトルを決めるとき、
「きんのまなざし」　も
「ぎんのささやき」　も
どちらも、鋼牙がカオルに向けたもの、としてイメージしたのですが、
この妄想では、
「ささやき」
のほうはカオルから鋼牙に向けたものとしました。
これが実は第一の　”想定外”　です。

当初は、「カオルの囁きは鋼牙にとっては月光のように美しいものでした」と
シンプルに終わらせるつもりだったのですが、「シルバーブレッド」の
オチを思いついてしまったので、ズルズルと長引いてしまいました。
これが第二の　”想定外”　です。

それがよかったのかどうかはよく分かりませんが、とにかく、結果的には、
スキマを妄想というレベルからちょっと上のレベルに行けたかも？　と
思えるようになったので、この妄想は自分にとっては特別なものになったと
思います。

みなさんはどう感じられたでしょうか？

[28回]