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きんのまなざし ぎんのささやき

牙 狼(冴 島 鋼 牙 Ver.)の世界を、気ままに妄想した二 次 創 作 サイトです

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レザロイア~メ!(2)

秋と言えば、誰がなんと言おうと ’食欲の秋’!
おいしいものがいっぱいで、スーパーに行くたびに誘惑が…
閑岱でも、鈴ちゃんがすご~く誘惑されてます。

拍手[12回]



::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

「にいったら、どうしてこんなおいしそうなものばっかり…」

目の前のおいしそうな秋の味覚を前に、少し眉根を寄せた鈴が恨めしそうに言った。
そんな鈴の様子に気付いたのは邪美で、

(こいつぁ、どうなるんだろうねぇ…)

と興味深そうに鈴と翼を見ている。
ところが、鈴の変化に気づかない翼は能天気に話を続ける。

「最近、おまえの元気がなかったから… うまいものでも食べたら喜ぶかと思ってな。

 おまえは小さい頃からそうだ。
 何かうまい食べ物があれば、いつだって上機嫌だったからな」

それを聞いた鈴は、唇を噛みしめ、拳(こぶし)を固く握りしめた。
鈴の背中から張り詰めたものが感じられ、邪美は少し心配になってきた。
だが、翼の方は、意気揚々として「聞いてくれ」とばかりに話を進める。

「おまえ、イチジクが好きだったろう?
 そのことをキヨ婆に言ったら、自分のとこのイチジクはどこよりも甘いと自慢されてな。
 少しだけ貰えればいいと言うのに、何個も押し付けられて断るのに苦労したぞ。

 マサ爺のとこだってそうだ。
 そんな小さいのでほんとにいいのか? と何度も念を押されてな。
 うちは鈴とふたりだから沢山あっても困るだろう?

 ああ、そうだ。
 邪美、おまえ今夜はうちに来ないか? 鈴の炊く松茸ご飯は絶品だぞ」

邪気のない様子の翼に、鈴はとうとう俯いてしまった。

(ああ、鈴! 怒るなよ?
 翼だって悪気があるわけじゃないんだ)

事の成り行きをハラハラしながら見守っていた邪美は、とうとう鈴の小さな肩が小刻みに震え出したのを見て、

「鈴…」

と、鈴の肩に手をかけようとした。
一方、ここに来てようやく鈴と邪美の様子がおかしいことに気づいた翼が、

「ん? 鈴どうした? 腹でも痛むのか?」

と呆けたことを、あの無駄に美声で尋ねた。
すると…

  ぷふっ

鈴の口から一気に堪えていたものが噴き出した。

 は~っはっは、あははは

今までの張り詰めた空気はどこへやら。
おかしくておかしくてたまらないという勢いで、鈴はひとりで笑い続けた。
そんな鈴を、「なんだ?」と鷹揚に驚く翼と、狐にでもつつままれたような複雑な面持ちの邪美。

「どうしたんだい、鈴。
 怒りで気でも触れちまったのかい?」

鈴の顔を覗き込んだ邪美は真剣そのものだった。

「だって、邪美… ぐふっ
 にいったら、ひどいんだもん! ふふっ…
 あははははっ」

まだ笑い足りないのか、言葉のあちこちに笑いが混ざり込んでいる。
それでも、深呼吸を何度かしてなんとか笑いを納めると、鈴はやれやれと言った感じで言った。

「はぁ~っ おかしかった。

 最初のうちはね、怒ってたんだけどさ。
 だって、にいが、鈴のことをちっとも成長していない子どもみたいに言うからさ。

 でもね、もうあんまり失礼過ぎて怒る気も失せちゃったよ!」

そう言うと、ニッと鈴は笑った。

「失礼とはなんだ。
 俺はおまえのことを心配してだな…」

笑われるなど不本意だとばかりに抗議する翼に、

「はいはい、わかってますって!」

と、早々に言葉を挟んで鈴は遮った。

「にいが鈴のことを思ってくれてることは、すご~くよく伝わりました!
 でもねぇ~」

そう言いながら鈴は邪美の顔を見て、意味深な表情をして見せた。
邪美も邪美で、まあまあ、というふうに目で合図を送る。
そのふたりのやりとりに、馬鹿にされているように思った翼は少し不機嫌そうに尋ねる。

「でも、なんだと言うんだ?」

「でも?
 う~ん、そうだな… それが、にいだもんねってこと!
 にいらしいよ、ほんと。

 まあ、しょうがかないか…」

よせばいいのに、鈴はつい肩をすくめて要らない一言を付け足したから、翼は眉根を潜めて声を荒げる。

「鈴! しょうがないとはなんだ。 しょうがないとは!」

こんなふうに、最近、年の離れた兄にも遠慮なく物を言うようになった鈴に、いちいち突っかかる翼という構図は、最近よく見る光景だ。
だが、いつまでも続きそうな小競り合いに、邪美は

「まあまあ、ふたりとも…」

と割って入った。
まあ、これもいつもの光景。

「あんたたちの仲の良さはわかったから…
 秋の日はつるべ落としって言うだろ? ふたりともやらなきゃなんないことがあるんじゃないのかい?」

「あ! ごめんね。 薪拾いに行くんだったよね?
 にいも言ってたけど、帰って来たらうちに来て! ごはん作って待ってるから!」

そう言って邪美を送りだそうとした鈴だったが、「あ!」と言うと、焚き火のほうを振りむいた。
火はだいぶん下火になり、灰の山ができていた。
鈴は、そばに置いてあった木の枝でその灰の中を探り出すと、中から出てきたものを、あちち… と言いながら邪美に差し出す。

「はいこれ! ちょうど焼けたみたいだから食べて!」

満面の笑みの鈴と、その手の中の焼き芋を見比べて邪美は呆気にとられる。

(鈴、あんた、体重を気にしてたんじゃ…)

邪美の表情を見て、彼女の言いたいことが伝わった鈴は、照れ臭そうに笑うしかなかった。

「えへへへ」





薪拾いに向かう邪美は、翼とふたり並んで歩いていた。
川向うの見廻りがまだ済んでいない、と翼は言うが、それがほんとのことなのか邪美は知らない。

「どうにもよくわからんのだが、鈴は喜んでいたんだろうか?」

歩き始めてしばらくしてから、ふいに翼は邪美に尋ねた。

「さっきのことかい? …ああ、もちろん喜んでるさ」

「う~ん、だといいんだがな」

それきり言葉もなく黙って歩いていたが、ぽつんと翼は呟いた。そう、とびきりの美声で。

「’相手を笑顔にさせる術’など、俺には使えんからな…」

邪美はそれには答えず、ふっと優しい笑顔を浮かべた。
赤や黄色、ぽおっと温かい色に染まりつつある山道を、ふたりは黙って歩いて行った。




  レザロイア~メ

それは、魔戒語で「笑顔にな~れ」という言葉。
魔戒法師が、’相手を笑顔にさせる術’ を放つときに唱える呪文の言葉でもある。

…けれども。
魔戒法師でなくても、特別な術を使えなくても、心の底から相手のことを想えば、誰にでもこの術は発動できるのかもしれません。


fin
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

秋と言ったら…
こんな妄想しか出てきませ~~~ん!
どうやったら食欲に打ち勝てるんでしょう? selfish は負けっ放しです。 (>_<)
悲しいなぁ、悔しいなぁ、と思いながら、やっぱりおいしいものに手が伸びちゃいます。
あ~あ…
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…



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