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きんのまなざし ぎんのささやき

主導権は渡せない(3)

思うようには展開しない。
それも ’気ままな妄想’ の醍醐味です。

そうだよ、醍醐味なんだ! …と自分に言い聞かせてる凍えるように寒い冬の夜。


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思い返せば、ふたりが出会ったばかりの頃。
邪美を死人(しびと)と呼んで忌み嫌っていた翼の手を掴み、自分の胸に押し付けたことがあった。
他の人間と変わらず刻まれる自分の鼓動を感じさせようとしてのことだったが、邪美の柔らかく温かい胸の感触にドギマギする翼を見て、溜飲を下げたことを邪美は思い出した。

(いつだって主導権はあたしが獲ってたじゃないか)

そうだ!
’しきたり’ や ’習わし’ を忠実に守り、自分が正しいと思ったことを曲げない堅物である翼を、余裕のあるように装ってこれまでいいようにあしらってきたのは事実だ。
それが、どうだろう。
あのコクリュウダケ事件で自分ひとりでは満足に歩くこともできないような弱った姿を晒し、玻璃の泉という非日常の空間の中でふたりの気持ちが燃え上がったのを機に、翼の前では以前のような強気な自分を出せずにいる。

(何も躊躇(ためら)うことはないじゃないか。
 翼がありのままのあたしを受け入れられないと言うんだったら、そんときはそんときだよ)

そう決心した背後で、翼が白菜を台所の脇に置いた気配がした。

「さあ、これでもういいだろう?」

そう言った翼が、自分の役目は終わったとばかりに帰ろうとする。

「まあ待ちなよ」

邪美は翼を引き止めた。

「少しくらい時間はあるだろ?
 あんたと話したいことがあるんだ」

内心の不安を気取られぬよう、顎を少し上げ気味にして邪美は言った。

「話?」

翼は怪訝そうな顔を見せ、帰ろうとしていた足を止めた。

「ま、その、なんだ…
 話と言っても大したもんじゃないんだけどね」

そう言って翼の反応を見る邪美。
そんな邪美の視線に少し苛立ち、翼は不機嫌そうに

「なんだ?
 もったいつけずに、さっさと言え」

と促した。

「話ってのは、他でもないんだが…
 あの ’玻璃の泉’ での出来事のことさ」

  ピクリッ

翼の表情が少し変わったのを邪美は見逃さなかった。
相手に動揺を与えたとわかると、不思議なことに自分は落ち着いてくるものだ。

「あんたがどう思っているかわからないけど、あそこでのことは忘れろっていうんなら、あたしゃ忘れたっていいんだよ」

「…」

「たまたま自分の欲望に従っただけだというんだったら、それはそれで構やしない」

「…」

「あんたに責任を取ってくれなんて、言い寄るつもりはないから安心しとくれ」

「…」

「あたしが言いたかったことは、まあ、そんなとこだよ」

邪美は自分の言いたいことを言えて、大きく息をついた。
気持ち的にはとても楽になった。
翼が自分との将来を考えていないという最悪のケースの場合でも、大人の女として余裕を持って対応できるところを示せたようで、少し、いや、かなり満足できた。

(女々しい女なんて、あたしのガラじゃないもんね)

ふっと寂しげな笑みが漏れる。

一方の翼は、邪美の言葉を聞いて、表情を険しくさせていた。
翼は拳をぎゅっと握った。

「見くびってもらっては困る!」

沸々とした怒りを抑えるように、押し殺した声音で翼は言った。

「邪美、俺がそんな男に見えるのか?」

邪美は、翼の顔をじっと見つめた。
その瞳には哀しみが混じっていた。

「そんなつもりじゃ…」

弱々しく否定する邪美。
戸惑い、言葉が見つけられない邪美に、翼はハッとした。

「すまん。
 一時の気の迷いなどで俺があのような行動を取ったように思われたかと思うと、癪(しゃく)でな。

 少し考えれば、おまえとて平気でこんなことが言えるわけがないとわかるのに…」

そう言って、翼は苦し気に顔を歪めた。
それを見て邪美は慌てて言う。

「何言ってんのさ。あたしは… あたしは…
 そこいらにいる里の娘のように、可愛らしいところなんかありゃしないしさ。
 あんたのようなちゃんとした家に育った人と釣り合うようなタマじゃないこともわかってるし、自分の分(ぶ)はわきまえてるつもりだから、だから…」

口に出して言うほどに、邪美は自分の生まれや育ちのことについて改めて傷ついた。
翼には似合わない女だと、嫌でも思い知らされるのだった。



to be continued(4へ)
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も5年を経過しましたが、まだ飽きていない模様…



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