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きんのまなざし ぎんのささやき

主導権は渡せない(4)

1日遅くなりましたが、「主導権は…」の続きをアップします!
待っててくれた方もそうでない方も、よろしければ、しばしの間お付き合いを…



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(ああ、もうどうしてこうなっちまうんだい!)

自分がもやもやしているばかりでなく、翼までもやるせない気持ちにさせて、邪美は余計に苦しくなる。

この状況を断ち切らねば…
そのために、邪美は深呼吸をひとつして心を落ち着かせると、真っ直ぐに翼を見つめて言葉を噛みしめるようにゆっくりと口を開いた。

「翼、いいかい? 聞いとくれ…
 あたしはただ、あんたに変な責任を感じてほしくないだけなんだよ。
 だから、ほんとにもうあたしのことは気にしないで、これまで通りの付き合いをしてくれればいいと思ってるだけなんだよ」

そんな邪美の言葉に、表情を一層険しくする翼。
目をそらしたくなる衝動を必死に堪(こら)えながら邪美は翼を見つめ続けた。
息の詰まるような時間がどのくらいか過ぎた後、翼がふいっと視線を下に向けて深く重い溜め息をついた。
が、すぐさまキッと邪美を睨むように見据えて、つかつかと歩み寄る。
思わず後退(あとずさ)る邪美。
だが、狭い台所のことだ。数歩行ったところですぐに壁に阻まれてしまう。
逃げ場のない邪美に、あっという間に翼が迫る。
翼の右手が邪美の顔のすぐ横の壁にドンと置かれる。
ふたりの身長差があまりないので、邪美の目の前に翼の顔がある感じだ。

「邪美」

気持ちの高ぶりを無理に押し殺したような翼の低い声が響く。
邪美は驚きのため、身体が思うように動かず固まったようになる。

「おまえの言いたいことは、よくわかった。
 だが、それはそれ…

 俺の気持ちを無視して、勝手に話を終わらせないでもらおう」

翼のいつにない迫力に、邪美はごくりと息を飲んだ。

「自分の生まれや育ちのことをおまえは言うが、俺とて魔戒騎士の家系に生まれたわけではない。だから、そんなことにこだわることはあるまい。

 俺たちのいる世界では、実力がすべて…
 ならば、この里の誰にも引けを取らぬ力を持つおまえなら、なにも引け目を感じなくてよいではないか。

 それに、おまえは自分のことを可愛げがないなどと言うが…」

そこまで言うと、急に翼は赤くなり、目を伏せて、言葉の切れが悪くなった。

「あ、あのときのおまえはとても… その… 可愛かったぞ…」

そう言うと、翼は邪美の反応を確認するようにチラッと邪美のほうを窺った。
途端に邪美の脳裏にもひとつの情景が蘇る。
そして、翼に負けないくらいに頬を赤らめることになるのだった。

「な、なにを言ってんだい! 急に変なこと言わないでおくれよ!」

そう言って、グイッと翼を押しのけようと手を突きだす。
が、その手はすぐに翼に掴まれて、それ以上の抵抗ができなくなってしまった。

「変なことなどではない! 俺は本心からそう思った!
 あんな邪美は他の誰にも見せたくない、俺だけのものにしたい、とな!」

すごい剣幕でそう言った後、ハッと我に返ったような翼は、きつく掴んでいた邪美の手を放して恥ずかしそうに脇を向いた。
そして、絞り出すように、こう続けた。

「俺は… 妻にするならおまえがいい。そう思っている」

小さな声ではあったが、邪美の耳にははっきりと聞こえた。

「だが、安心しろ。
 俺の気持ちをおまえに押し付けるつもりは毛頭ない。
 おまえの気持ちが俺にないというのであれば、それで構わん。

 ただ…
 鈴には、これまでどおり親しく接してやってくれないか?
 それだけは頼む…」

そう言うと、翼は頭を下げた。そして、

「邪魔したな」

と言って出ていこうとした。

(あ、待て…)

邪美は、言葉より先に身体が動き、翼の腕を掴んでいた。

「!」

驚いた顔で振り向く翼。
そして、自分の行動に驚く邪美。

「あっ、違… その…」

うまく冷静さを演じられないと観念した邪美は、翼に顔を見られたくないと思い、そのままスルッと翼の懐に滑り込んで顔を翼の胸に埋(うず)めてしまった。

「誰が ’あんたに気がない’ なんて言った?
 あんたがいいって言うんだったら、あたしは…」

気を持たせるようにそこで言葉を途切らせると、少しの間をおいて、

「…あんたのものになったっていいんだからね」

と言った。
そう言いながら内心では、

(どうして素直に言えないんだろうねぇ)

と溜め息をつく邪美。

「それは本当か? 邪美!」

だが、喜色の浮かんだ翼の声音(こわね)を聞いて、邪美は少しだけ落ち着きを取り戻した。

「さあね…
 本当だ、って言ったらどうするんだい?」

いつものように、ちょっと意地悪に翼を試すような感じで答えることができた。

(おや! 風向きが変わったようだね。
 これで主導権はあたしに戻ってきたかも…)

そんなふうに心の内でほくそ笑んでいた邪美だったが、すぐに事態は一変する。

「ならば、すぐさま我雷法師に報告せねば…」

翼はそう呟いたかと思うと、邪美の肩をガバッと抱き、そのまま押し出すように家の外へと歩き出した。

「え! ええっ?」

翼の勢いに押され、我雷法師の家の方向へとグイグイ歩かされることに邪美は慌てた。

「ちょ、ちょっと待っとくれよ、翼…」

そう言って抵抗すると、翼は歩みをピタリと止めて怪訝そうな顔で尋ねた。

「なんだ? まだ何かあるのか?」

もう迷うこともあるまい、とでも言いそうな翼を見て、邪美はクスッと笑ってしまった。
主導権がどうこうと姑息なことを考えたところで、相手がこの翼ではどうにも思うようにはいかないらしい。

「いや… 何でもないよ」

観念したようにそう言う邪美。
邪美の言葉通りに素直に受け取った翼は、

「そうか。ならば行くぞ」

と声をかけ、邪美の手を引いて歩き出した。





のんびりとした閑岱の里の小道を、翼に手を引かれて邪美は歩く。
暖かい昼下がりの日差しの下で、邪美の手を包む翼の手の大きさと力強さを感じながら、邪美は自然と顔がほころんでしまうことに抵抗できずにいた。

(ああ…
 こうして引っ張ってもらうってのも、なかなかいいもんだねぇ)

少し前を歩く翼の姿を見ながら、邪美はしあわせな気分を噛みしめていた。



fin
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日曜では書き切れなかったのですが、本日、なんとか公開できました。(ふう~っ)

ふたりの仲の「主導権」を競い合って、翼と邪美が面白おかしく攻防を繰り広げてくれるといいなぁと思っていたのですが、残念ながら selfish にそんな力はありませんでした。 (がっくり)
どうしたら、余所様のように、楽しいコメディタッチのものが書けるんでしょうね?
う~~~ん。所詮は、selfish に無理な話なのか…

結局のところ、自分の出来る範囲で妄想するしかない、っちゅうわけですね。

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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も5年を経過しましたが、まだ飽きていない模様…



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