きんのまなざし　ぎんのささやき

いつも1回分が短めな　selfish　ですが、今回の妄想はさらに短い！
何て言うか…　雰囲気を楽しんでくださいませ。

[29回]

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創作の手を休めてキッチンへ向かおうとしているカオルが、リビングのドアの前で足を止めたのは、

　　ほんの少し、ドアが開いている

ただそれだけの理由からだった。

（あれ？　誰かいるのかな？）

そんなことを思いながら、カオルはドアをもう少し開けて顔を覗かせてみる。

（あ！）

カオルが目を留めたのは、1人がけのソファだった。
そこは、この家の主（あるじ）、冴島鋼牙が好んで座る場所でもあるのだが、今もその姿があったのだ。

足音を忍ばせて、カオルはそっと鋼牙に近付いた。
鋼牙は目を閉じていて微動だにしない。
すぐ近くまで近づき、

「鋼牙、寝てるの？」

とささやくように問いかけてみた。
彼は寝ているように見えて、いつだって神経を研ぎ澄ましているようなところがあるから油断がならない。
けれども、今は安心しているからなのだろうか、返事がないところをみると、どうやら束の間の微睡（まどろみ）に身を委ねているようだ。

窓から差し込む秋の柔らかい日差しが心地いい。
そこに、おひさまの溜め息のような風が気まぐれに吹いてきて、窓辺のレースのカーテンをゆっくりと揺らしている。
その度に、鋼牙の整った顔立ちに注ぐ光の加減が微妙に変わり、カオルはその美しさから目が離せずにいた。

けれども、ここに自分がいたのでは、鋼牙の邪魔になるだけだろう。
カオルは名残惜しい気持ちを抑えつつ、その場を離れようとした。
けれども…

行きかけた足を止めたカオルは、ふわりと鋼牙に顔を寄せた。
カオルの唇が鋼牙に触れたか触れないかといった感触を残しただけで、すぐに鋼牙から離れた。

恥ずかしいような嬉しいような、何やらくすぐったい余韻にカオルが浸っていると…

『カオル』

と、遠慮がちにザルバが声をかけてきた。
驚いたカオルが声を上げそうになり、慌てて出かかった声を飲み込み、自分の口を塞ぐ。

まったく…
魔戒騎士相手では、甘い余韻に浸ることもできやしない。
いつだって、彼らのそばには魔導具がいるのだ。

「あのな…」

「ザルバっ、今のは鋼牙には内緒だからね！
　喋ったりしたら許さないからっ！」

何かを言いかけたザルバの言葉を遮り、カオルは早口でそう言うと、後ろも見ずに小走りに出ていった。

　　パタン

ドアの閉まる音の後に、カオルの足音が遠のいていくのが聞こえる。

『…だそうだ、鋼牙』

ザルバは、そう鋼牙に声をかけた。
鋼牙は相変わらず目を閉じたままだったが、微妙に眉間に皺が寄っていた。
どうやら、平静を装おうとして変に力が入っているようだった。

「…」

『おいおい、俺相手に寝たふりか？
　無駄なことはやめとくんだな』

いつもの少し皮肉めいた口調のザルバに、鋼牙は渋々口を開く。

「…ザルバ」

『ん？　なんだ？』

「このことはカオルには黙っておけ」

『なんだって？　こんな面白いことを喋るなというのか？』

ニヤニヤしてこちらを見ているザルバに、鋼牙は目一杯怖い顔をしながら、

「いいから！
　黙って言うことを聞いてろ！」

と押し殺した低い声で言う。

『別にいいじゃないか。
　カオルにキスされて、おまえさんが喜んでた、と話すくらい…』

「ザルバ！」

『クックックッ』



果たして…
ザルバは、カオルに内緒にしておけるのだろうか？


fin
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どうでしょう？
雰囲気…　味わっていただけましたでしょうか？

これ、いつ頃のふたりなのかは明らかにしていませんが、
　　1期だったら…
　　2期だったら…
　　子供が生まれた後だったら…
と想像してみると、いろんなふうに楽しめませんか、ねぇ？