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機械なんかじゃ…
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「うっ… っ痛(つう)…」
涼邑零は口の中で感じた痛みに、思わず左手で口元を覆い、その整った顔を歪ませた。
右手にはフォーク。
そのフォークには今しがた口の中に入れようとしていたケーキのひとかけらが、まだ食べられずに残っていた。
『どうしたの、ゼロ?』
気遣うようなシルヴァの声が囁かれる。
ここはとあるカフェ。
小高い丘の上にあって眺望もよく、ドリンクはもちろん、スイーツやパスタなどの軽食もおいしいという評判のため、店内はなかなか賑わっていた。
なので、シルヴァの声もそう目立たない。
とはいえ、それだけ人目も多いので、声を潜める形で会話が為されていた。
「いや…
昨日ドジって口の中を切ってたこと忘れてた。
大口開けたら、また傷口開いたかも…」
口の中にわずかに広がる鉄さびのような味に、零は小さく溜息をついた。
昨日… 正確に言えば、昨晩のこと。元老院から指令を受けた零はホラーを斬っていた。
だが、その闘いの最中、零のわずかな油断から、ホラーの太い尾が彼の横っ面にクリーンヒットしたのだった。
いや、ヒットするその寸前に腕で庇ったため、頭部への直撃は免れていた。
けれども、零の身体は横に大きく吹っ飛ばされて、近くにあった立木(たちき)に強く打ち付けられていた。
そのときに、少しばかり口の中を切っていたのだ。
零は、フォークの先のケーキを見つめ、
「あーあ、せっかくのご褒美が台無しだ…」
と言いながら、少しでも血の匂いを消そうとコップに手を伸ばして一口飲んでから、今度はあまり大きな口を開かないよう注意しながらケーキを口に運んだ。
しばらくもぐもぐと口を動かしていた零だったが、やがてその顔がぱぁっと明るく輝いて
「うまっ!」
と呟いた。
評判通りのケーキの味に、途端にご機嫌になった零は夢中になってケーキを口に運ぶ。
もはやケーキにしか意識のいっていない零に、シルヴァは苦言を呈する。
『はーっ、今回は口の中を切ったくらいですんだけど、ホラーとの闘いの最中は十分気をつけなさい? 何が命取りになるかわからないんだから…
ちょっと、ゼロ? ちゃんと聞いてるのっ?』
相変わらず、ニコニコとケーキを貪り食っている零に、シルヴァは苛立たし気に言う。
「でもさぁ、俺だって機械じゃないんだし、たまにはあんなミスだってするさ。
あっ、いや、でも、もちろんわかってるよ。うん、わかってる!」
『んもう、ゼロったら、もう少し真剣に私の話を…』
となおもシルヴァが言いつのろうとすると、それを零の呑気な声が遮った。
「はぁ~ それにしてもこのクリーム! なにこれ? もうとんでもなく絶品なんだけどっ!」
そう言って、なおもケーキをせっせと口に運ぶ零に、シルヴァは深い深い溜め息をつくしかなかった。
もちろん、シルヴァだってわかっている。
黄金騎士、牙狼の称号を継ぐ冴島鋼牙に見劣りしない実力のある零は、態度で示すよりもずっと、シルヴァの言わんとすることを理解し、肝に銘じていることを。
(そうよ、ゼロ。あなたは機械なんかじゃない。
ダメージを受けたら、血も流すし、命だってなくなるかもしれないの。
だから、気をつけて…)
しこたま ’ご褒美’ を堪能した零は、大満足のうちにカフェを出て、街のほうへと足を向けて坂道を下っていた。
右手には海が見え、正午をずいぶん過ぎてしまって少し勢いを失くした陽光を受けた波がキラキラと光っている。
そのとき、ふと、零の足が止まった。
それは一瞬のことだったが、零の身体を強張ったのをシルヴァは感じ取っていた。
零は、すぐにまた歩き始めたが、その足取りは心持ちゆっくりに感じられた。
しばらく行くと、零はある人物とすれ違った。
その人物は、若い女性だった。
坂道の途中で立ち止まり、海の方へ向けたファインダーを覗いている。
眼下に広がる美しい景色に夢中で、何回もシャッターをきっている。
その女性とすれ違うとき、わずかに零の顔が苦し気に歪み、目をつむったのをシルヴァは見た。
だが、零は立ち止まらず、また、通り過ぎてからは振り返りもしなかった。
ゆっくりだったが、一歩一歩歩みを止めない。
零が、カメラを構えたその女性に誰の姿を重ねているのかは、シルヴァには痛いほどわかっていた。
だから、彼女は何も言えず無言を貫いた。
やがて、坂道を下り終え、視界からも完全に海が消え去った後、零が立ち止まり、俯きがちにふぅっと息を吐いた。
何かを耐えているのか、何かを噛みしめているのか、それはシルヴァにもわからない。
「…ゼロ、あなたは機械なんかじゃないわ」
気づいたら、そんなことを呟いていた。
「ん?」
零がシルヴァに訊き返す。
「…いいえ、なんでもない」
「そう…」
伏し目がちだった零の目は、意識的にぐいっと天を仰いだ。
「なぁ、シルヴァ?」
『なあに?』
「どっちに行けばいい?」
気づけば道はY字となっていて、ふたつに分かれていた。
『そうね… 左ね』
「おっけ!」
零はシルヴァの示した通り、左に進路をとって歩き出した。
彼の歩みが生み出す規則的な揺れを感じながら、シルヴァは思っていた。
(ねぇ、ゼロ。 あなたは人間よ。
機械だったら、一度覚えた記憶はずっと変わらず残るでしょう。
でも、静香を失った哀しみも憎しみも、あなたからは決して消えないけれども、心に刺さったその棘は今では少し柔らかなものになったんでしょう?
だったら…
だったら…
あの子のことも…
あなたは人間なんだから… ゼロ…)
シルヴァのとても優しく少し切なげなまなざしは、真っすぐに前を見て歩き続ける零に向けられ、やがて、祈るように閉じられた。
fin
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
すいません、一気に辛気臭くなりました…
でも、安心してください。
零くんの切ない系の妄想を書いたら、今度はその反動が出るはずっ!
楽しい妄想か、バカげた妄想か、はたまた、甘い妄想か…
何が出るかな? 何が出るかな?
うふふ、お楽しみに~
コメント
selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…
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