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きんのまなざし ぎんのささやき

鳴らない鈴(2)

お気づきの方もいらっしゃるでしょうが、この妄想は「魔界ノ花」でエイリスにより異空間に飛ばされてしまったカオルちゃんと、彼女を救うために追ってきた鋼牙さんのお話であります。
そして、「魔戒烈伝」の最終話で、いまだ彼女にまだ会えずに探し続けている鋼牙さんに愕然とし、「何してんだよぉ! そんな不甲斐ない鋼牙さんなんか、カオルちゃんは忘れちゃうんだからねっ!」という想いから書き殴った「誰か…」という妄想の続きでもあります。
カオルの中から消えかかろうとしている鋼牙の記憶…
さあ、どうなるんでしょうねぇ~


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鋼牙は走った。
遠くに見えていたと思った森だったが、あっという間に到達していた。

『その茂みを越えろっ!』

『あの大きな木の右へっ!』

ザルバが指示する声にもおのずと力が入る。
それはそうだろう。
歴代のどの牙狼をも凌ぐと言われた冴島鋼牙が、すべてを賭けて長い間ずっと探してきた大切な人にようやく会えるのだから…

張り出した草の根が鋼牙の足元をすくい、小枝が頬を打つ。
流れる汗が頬を伝い、藪を掻き分ける手は傷だらけだ。
それでもスピードを緩めることなく、ザルバに言われるまま薄暗い森を駆けていた鋼牙だったが、目の前をカーテンのように垂れ下る蔓に阻まれた。

『鋼牙、もう近いぞ!』

ザルバの励ましの声に、鋼牙は無言でうなづく。そして、蔓に手をかけて力任せに脇へと押しやった。
右へ左へ…
やがて明るい場所に出た。

「くっ」

森の暗さに慣れていた目が、その眩しさに一瞬眩(くら)んだ。
そこは、そう広くはないが、森の中にぽっかりとできた開けた場所だった。
上を見ると、小さいけれど空が見えた。白い雲がひとつ、ゆっくりと流れている。
目が慣れたところで、鋼牙は辺りを窺いながら左手の握りこぶしを自分に向け、ザルバに指示を仰ごうと声をかける。

「ザルバ、次はどっち… だ…」

鋼牙の目は一点を見据えて動かなくなった。
ザルバはニヤニヤしている。

『なんだ、鋼牙。俺様の指示はもういらないだろう?』

鋼牙の問いにザルバはそう答えたが、その声も鋼牙の耳に届いていないかもしれない。
鋼牙の視線の先、右手前方のひときわ大きな木の陰に、こちらを窺う人の影が見える。

「カオ…ル…」

茫然としながらもその人の名を呼ぶ。

「カオル!」

相手が自分の愛しい人だと確信した鋼牙は叫び、彼女目がけて駆けよった。

だが、どうしたことか、彼女は木の陰から飛び出しては来ない。
そればかりか、慌てて身を引っ込めようとしているではないか…
カオルの様子がおかしいことに気付いた鋼牙は、すぐさま足を止めた。
理由はわからないが、自分に対して怯(おび)えているようなカオル。
鋼牙は、カオルをこれ以上怯えさせないようにゆっくりゆっくりと近づいた。

「カオル、どうしたんだ?
 もう大丈夫だ、安心しろ…」

いたわるように優しく声をかける。
そして、少し離れたところで立ち止まると少し手を広げて立った。

(俺だ、カオル。ようやく会えたんだ…)

それを見たカオルは、木の陰から少しだけ身体を現わした。
陰になっていてよく見えなかった表情がはっきりとわかるようになった。
だが、鋼牙の予想に反して、彼女の顔に喜びの色が浮かんではいない。
大きな瞳は不安げにこちらを見ていて、ひどく戸惑っているようにも見える。
そればかりか、耳を疑うような言葉が彼女の口から聞こえてきた。

「あなたは誰? あたしを知っているの?」

途端に鋼牙の顔が険しくなる。

「カオル…」

低く呟いた声に、カオルはなおも問いかける。

「カオル? それがあたしの名前なの?」

縋(すが)るようにカオルは鋼牙を見つめる。
鋼牙はザルバに尋ねた。

「どういうことだ、ザルバ?」

『さあな、ホラーの気配のようなものは何も感じないからそのせいではないだろうな。
 だとしたら、どこかで頭でも打ったか精神的なものか…
 いずれにしろ、カオルの記憶がひどく曖昧なのは確かなようだ』

ザルバの言葉に唇を噛む鋼牙。

「ねぇ、誰と話しているの?
 ううん、それよりもここはどこ?
 どうして、あたし、こんなところにいるの?」

このわけのわからない場所に来てから初めて見る自分以外の人間に、カオルは興奮気味に詰め寄ろうとしたが、すぐにがくんと体勢が崩れた。
感情の高ぶりに身体の方が追いつかなかったのだろう。
鋼牙はすぐさまカオルのそばに飛んで行き、彼女を支えた。
力強く、温かく、優しい腕の感触。

虚ろな意識で、カオルはか細い声で礼を言った。

「ありがとう… ごめんなさい…」

自分に一番近い存在であったはずの彼女にそんな他人行儀な言葉を言われた鋼牙は、寂しさとも悔しさとも言えない苦々しさを感じつつ、

「いいんだ、カオル。このまま少し休むといい…」

と優しく言うと、カオルを包み込むように抱きしめた。
はっきりとはわからないが、カオルはそこにとてつもない安心感を覚えた。

(この腕… とても気持ちいい…)

ぼんやりそんなことを思いながら、カオルの意識がフッと途切れた。




to be continued(3へ)
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も5年を経過しましたが、まだ飽きていない模様…



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