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きんのまなざし ぎんのささやき

鳴らない鈴(4)

G.W.が終わってしまう… 嗚呼…

でも…
黄金週間が終わっても、黄金騎士、牙狼の妄想は終わりません!
明日からのお仕事、頑張りましょう! (…と自分に言い聞かせる)


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異空間。
この世界は本当に不可思議な場所だった。
黄金騎士として幾多のホラーと闘ってきた鋼牙は、ホラーの見せる幻影の世界などもいくつも経験してきた。
だが、そのどれとも違うような異質さがそこにはあった。

第一、空間自体がひどく ’曖昧’ なところだった。
地面だと思えるところに何気なく足を下ろすと、目の前の景色は変わらないというのに何十メートルも落ちていくようなゾッとする感覚が襲ったこともあった。
また、ゴーストタウンのような不気味に静まり返った荒れ果てた町の中で、いつ果てるともなく長い崩れかけた壁伝(づた)いに歩いていたはずなのに、あっと気付くと一面の草原が広がっていたりした。
だが、それだけではない。
風になびく草原の中、人っ子一人いないはずの場所にいるというのに、耳元ではなぜか子供のような甲高いクスクス笑いがずっと聞こえていたりするのだ。
目に見えるもの、耳に聞こえるもの、手に触れるものといった実際に体で感じるものが奇妙にチグハグな世界…
魔戒騎士の強い精神力をもってしても、時として挫けそうになる。

そして、何よりも不思議なことがもうひとつ。
鋼牙の指に嵌まる魔導輪の存在だ。
カオルの連れ去られた異空間に鋼牙が飛び込むとき、ザルバは置いてきたはずだった。
妻であるカオルと同じくらい愛おしく大切な存在である息子のそばに。自分がいてやれない、その代わりに、と…
ところが、今、鋼牙の元には以前と変わらずザルバはあった。
その存在を何かの罠かと訝(いぶか)しみ、彼の様子を注意深く気に掛けていた鋼牙だったが、ザルバはこれまでどおり鋼牙を導き、相談相手となっていた。
そうしたことが続くうちに、いつしかザルバに対する警戒心も徐々に薄らいでいった。

ただ、このザルバはどうやら息子のそばに残してきたザルバとは何のつながりもない、まったくの別物らしかった。
鋼牙の手元にあるザルバからは、残してきた息子の様子は何一つわからないというのだ。

(異空間の中でだけ存在するものなのか…)

鋼牙はそんなふうにも考えたが、それ以上追及することはしなかった。
そんなことに時間を割くよりも、まず成し遂げなければならないことがあるのだ。

(一刻も早くカオルを見つけ出す!)

その一事(いちじ)に鋼牙は集中した。
鋼牙と同じ不可思議な状況に置かれているであろうカオルは、どんなに心細く思っているだろう。
自分はまだいい。ザルバがいるのだから。
ただひとり、この異空間に放り出されたカオルの心と身体にかかる大きな負荷を考えると、彼女が無事であることを願わないときはなかった。

どれだけの時、どれだけの日が過ぎただろう。
そんなとき、ようやく…





ザルバがニヤリと意味深な笑いを浮かべた。

『鋼牙ぁ、喜べ…』

「なんだ?」

逸(はや)る気持ちを抑えつつ、期待を込めて鋼牙は尋ねた。

『今、カオルの気配を感じた!』





カオルに逢えた…

鋼牙は、この瞬間、我が身が震えるほどの喜びを感じていた。
だが、次の瞬間、全身の血の気が引くような感覚を味わうのだった。

カオルは記憶を失くしていた。
鋼牙のことも息子のことも、もちろん自分自身のことでさえよく覚えていないと言う。

(もっと早くに探し出せていれば…)

悔やんでも悔やみきれない思いに苛(さいな)まれる鋼牙。
カオルにとって、確かにこの異空間は酷な環境だったのだ。
カオルとようやく出会えれば、必ず事態は好転すると思っていたのだが、現実には不安の中にいたカオルをいたずらに刺激しただけのようだ。
今のカオルは、精神的にもかなり不安定で、少しのことでも感情が大きく振り切れてしまう。
繊細な心が些細なことにも耐え切れずに悲鳴をあげているような様を見るのは、鋼牙にとってもつらく哀しかった。
今、鋼牙にできることは、思い通りに感情をコントロールできずに混乱するカオルのそばにいて、黙って見守ることだけ。
抑えきれない感情が涙となって溢れ出て止まらなくなったカオルに、鋼牙はずっと寄り添い続けた。

やがて、カオルの涙も枯れ果てたのか、いつの間にか泣くのをやめていた。
濡れる頬をそのままに、どこか吹っ切れたように弱々しい笑顔を作るカオル。

「ごめんなさい、取り乱しちゃって… なんだか恥ずかしい。
 あたし、ぐちゃぐちゃだよね…」

そう言って、涙を拭いながら鋼牙から顔を背けたカオル。
鋼牙の目に彼女の細い肩が映る。
そのあまりに儚げな彼女の後ろ姿に、思わず後ろから力任せに抱きしめたくなったが、鋼牙の記憶がない彼女にとっては、その行為は安心感よりも不要な緊張感を与えてしまうだろう。
鋼牙はカオルのほうに伸ばしかけた手をぎゅっと握りしめて堪えた。
そして、ゆっくりと呼吸を整えてから、カオルの肩にそっと手を置くのだった。





(温かい…)

肩に置かれた鋼牙の手から、彼の優しさが溢れ出るようにカオルは感じていた。

カオルにしてみれば、突然目の前に現れた男から、おまえは俺の妻だ、と言われても記憶が急に戻るわけでもなく、男のことをすぐに信用できるわけでもない。
けれども、この男、決して口先が上手(うま)そうな人間には思えないし、カオルを騙そうとする狡猾さも下心も感じられない。
彼から感じられるのは、カオルのことを心底心配しているような深い思いやりの心。そして、過敏になっている彼女をすべて受け入れてくれる大きな包容力。

(この人といるとなんだか安心できるかも…)

カオルがそう思えるようになるのに、さほど時間はかからなかった。
もちろん、すぐには鋼牙と夫婦であることを受け入れることはムリだったが、カオルを大事に扱ってくれる彼のためにも

(何か少しでも思い出せたらいいな)

と思えてくる。
この異空間に来て初めて、カオルの心は少し軽くなり、温かくなった。
カオルは鋼牙のほうをおずおずと降り返る。

「あの… 鋼牙さん。
 あたし、まだあなたのことは何も思い出せないんです。でも… あたしのそばにいてくれますか?」

少し赤くなりながらも、はっきりとした落ち着いた口調でそう言った。
カオルと再会した直後のどこか落ち着きのない不安げな様子と違って、鋼牙の目をしっかりと見据えて話す彼女を見て、鋼牙はホッとするとともに、うなずき返した。
それを見てカオルも、よかった、とばかりホッと息をついた。
ふたりが微笑み返す穏やかな時間…



だが、その時間も長くは続かない。
フッとカオルの顔から表情が消えると、瞼がじわじわと塞がろうとする。

「カオル! どうした!」

不自然過ぎるカオルの変化に、鋼牙は少し慌てて彼女の肩を揺さぶる。

「…なんだか急に眠たく…なって…
 こういうこと… よくある…の…」

眠気と闘うように、塞ぎかかる瞼を二度三度と押し開けようと頑張っていたカオルだったが、それも段々難しくなっているようだ。

「ザルバ、これはどういうことだ?」

ホラーの仕業かと尋ねる鋼牙にザルバは答える。

『落ち着け、鋼牙。
 ホラーの気配はどこにもない。

 何度も言っているが、ここにはお前たち以外の人間はいないようだ。
 人間がいないならば、ホラーは存在しない。

 だが、カオルのこの様子…

 確信は持てないが、どうやらこの森に原因があるのかもな』

冷静なザルバの言葉に、鋼牙も落ち着きを取り戻す。

「そうか…」

鋼牙は、腕の中でぐったりとして眠りに落ちているカオルの顔を見下ろした。
頬にはまだ乾ききっていない涙の痕。

「ザルバ…」

何かを決心した鋼牙が低い声で呼びかける。

『なんだ?』

「…この森を出る!」

『ああ、そうだな。
 カオルとようやく会えたんだからな。
 こんなところに長居するだけ無駄ってことだ』

鋼牙はカオルを抱きかかえて立ち上がった。
少女のような顔で眠るカオルに鋼牙はそっと呟く。

「カオル、帰るぞ…」

前方をキッと見据えた鋼牙は、コートの裾を翻して歩き出した。



to be continued(5へ)
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も5年を経過しましたが、まだ飽きていない模様…



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