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きんのまなざし ぎんのささやき

just for me(4)

長らくお待たせいたしました!

スーパーのろのろ各駅停車、そろそろ発車のお時間となりました。
どなた様もお乗り間違えのないようお願いいたしま~す。

あ、到着地点にご不満がある場合でも、運賃の払い戻しには応じかねますので、その点はあらかじめご了承くださいませ。

それでは、ドア、閉まりま~す。




::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

「えっ?」

カオルは驚いた顔で振り向いた。

「…」

鋼牙は無言のままだ。

「どうしたの?」

不安な表情で覗き込むようにしてカオルに尋ねられ、それが契機となったのか、ようやく鋼牙は掴んでいたカオルの腕を放し、口を開きかけた。
だが、まだ迷っているのか、その口はすぐに閉じられる。

こうなってくると、俄然、カオルのほうに余裕が生まれてくるから不思議だ。
見上げるばかりの長身で、痩身ながら鍛え抜かれた肉体に、魔戒騎士の最高峰、牙狼の系譜を受け継ぐ者としての堂々とした佇まいを持った、端正な顔立ちの彼。
並みの者ならこんな完璧な人を前にすれば平静ではいられないだろうが、カオルにはなんの威力もない。
身を守る術も知らず、法術が使えるわけでもないカオルだが、そんな非力な女に対して今の鋼牙は迷っているのだから。

カオルは嫣然と微笑んで、小首をかしげて鋼牙が何か言うのを待った。
直接的には何も言わないのに、なんでも聞くよ、というカオルの気持ちが鋼牙には十分伝わってくる。
程なくして、決心がついたのか鋼牙の口が開いた。

「…正直なことを言うと、だ…」

「ん?」

カオルに促されて、鋼牙は正直に告白した。

「ドレスを着たカオルの写真は、あまり見たくない…」

鋼牙の言葉を聞いて、カオルの瞳に一瞬驚きの表情が現れたが、すぐにそれは消え去った。
その代わりに、どこかもの悲しげな色が浮かんできた。

「違うんだ。その…」

カオルを悲しませていることにすぐに気付いた鋼牙は、自分の胸が痛み、辛そうな表情になる。

「着ているドレスが問題なだけで…
 あ、いや、ウェディングドレスだから、というのでもないんだが…」

鋼牙のひどく歯切れの悪い言葉が、カオルの表情を複雑にさせた。
ここまで来ると、カオルは、’悲しい’ を通り越して ’苛立ち’ すら覚えてきた。

「あたしには似合わない、ってこと?」

拗ねたようにそう言うと、思わず俯いてしまいてしまいそうになる。
だが、そんな自分を鼓舞してなんとか顔をあげ続けた。

「違うっ」

低く強い否定の声が響く。
鋼牙は、カオルの肩に手を置いて彼女の目を見た。
そこには優しいが、強い光を宿していた。

「そのドレスは、カオルの友だちが選んだものだろう?」

「えぇ…」

「それは、その… 誰か、他の男のために着るドレスじゃないか?」

「…へ?」

きょとんとなるカオル。

「だから!
 そんな、どこのどいつだか知らない男のために選ばれたドレスを、カオルが着ているのはっ …見たくない、とそう言っているんだ」

察しの悪いカオルのために、打ち明けたくなかったホントのトコロを口にする羽目になり、鋼牙は少しぶっきらぼうに言い放つ。
「見たくない」の部分は若干声が小さくなったが、カオルには確かに聞こえた。
あまりのことに拍子抜けしたカオルは、呟いてしまった。

「やだ… なに、そんなこと?」

ウェディングドレス姿を見せることで ’早く結婚してくれ’ って思われるんじゃないか?
とか
そんな押しつけがましいあたしが嫌だから ’写真は見たくない’ って思ってるんじゃないか?
とか
そもそも、ドレスを着て綺麗な(と自分では思う)あたしには興味がない?
とか、鋼牙が写真を見るのを避けている理由をあれこれ考えていたので、あまりの意外さからの呟きだった。
だが、それを聞いて、今度は鋼牙のほうが少し拗ねてしまう。

「’そんなこと’ で悪かったな」

そんな鋼牙を見て、カオルは堪(たま)らずクスクスと笑い出す。
眉間が険しくなっていた鋼牙も、やがてそれに釣られてフッと穏やかな顔に戻る。
彼女が笑うと、こちらが気分を害していることでもとても些末なことのように思えてしまうのだ。
それはとても不思議な感覚だったが、思えば、出会ったときからそうだったかもしれない。
しかし、カオルは、鋼牙がそんな感慨を抱いていることも気付かないらしく、会話を続ける。

「でもさ、鋼牙はそう言うけど…
 亜佐美の選んだドレス、ほんとに素敵だったんだよ?」

「そうだろうな、一生に一度のものだからな…

 …さっきは、ああ言ったが、実は少し見てみたい気もしている」

鋼牙の言葉に、カオルの顔がぱぁっと輝く。

「じゃあ、見ようよ!」

けれど、鋼牙は即座に断った。

「いや、やっぱり…」

「え~っ!」

口を尖らせるカオルを見て、つい気が緩んでしまったのであろう。
鋼牙の口から、思わず不用意な言葉が出かかった。

「そうだな。
 どうせ見るなら、俺のた…」

(俺のためのドレスを着たカオルが見たい)

そう言ってしまいそうになり、慌てて途中で言葉を切った。

「ん?
 俺の、何?」

「なんでもない」

「え~、なんでもなくないよ~
 ね、何? 教えて?」

しつこくねだるカオルに鋼牙は困ってしまい、その結果、カオルの口を塞ぐことにした。
唇に触れる感触はどこまでも優しくどこまでも甘くとろけそうだったが、カオルの腰を抱く腕には徐々に力がこもってくる。

甘い吐息を貪(むさぼ)り合ったふたりは、しばらくして、ようやく離れた。
とろんとしたまなざしのまま、カオルは鋼牙に尋ねていた。

「あたしもいつか…
 誰かさんのために、素敵なドレスを着る日が来る?」

優しく見つめていた鋼牙のまなざしが、一層、優しくなる。

「もちろんだ。
 そのときは、ゴンザがおまえのために最高級のドレスを用意するだろう」

それを聞いて、頬を赤らめたカオルがくしゅっと笑う。

「ゴンザさんのことだもの。
 すごく素敵なドレスになっちゃいそう… うふっ♡

 でも、あんまり素敵過ぎるドレスを作ったら、中身が貧相で釣り合わなくなっちゃうわ」

冗談なのか、ほんとに心配しているのか、カオルがそんなことを言った。

「どんなドレスを着ようが、カオルはカオルだ。
 むしろ、ドレスなどなくても俺は構わん」

あからさまな鋼牙の言葉を聞いて、カオルは赤くなって言った。

「もう、鋼牙ったら!」



鋼牙のために純白のドレスを身に纏(まと)う日を夢見て、カオルは鋼牙の胸にそっと頬寄せた。
少女のようなそんな夢を、必ず果たしてやろうと鋼牙は心に誓い、腕の中の華奢な身体をそっと抱きしめた。

カオルの戻ってきた冴島邸の秋の夜は、今、始まったばかりだった。



fin
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ご乗車ありがとうございました。
なんとか、終着駅までたどり着きました。

えっと… この先をもう少し延長した地点を終着駅に! とご希望される方もいるでしょうが、まぁ、それは皆様方の妄想にお任せいたします、はい。 (^▽^;)

さて…
女性がきれいなドレス姿を彼氏に見せたいと思うのは、ごく普通のことだと思いますが、殿方はそういうのってどうなんでしょうか、ね?
自分のためだけに着てほしい、っていう独占欲のようなものは感じるのかなぁ? などと思って、今回は「just for me(俺だけのために)」と題して書いてみました。

秋の夜長に、この妄想で少しでも楽しんでいただけたら幸いです♡

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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も5年を経過しましたが、まだ飽きていない模様…



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