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きんのまなざし ぎんのささやき

牙 狼(冴 島 鋼 牙 Ver.)の世界を、気ままに妄想した二 次 創 作 サイトです

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最近の’お礼’

癒えぬ傷(5)

ひとまず勝った! よかった!
まだ続くのかなぁ、サバック…
戦闘シーンは苦手なので、なんとかせねば…


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いまだ昂奮の冷めやらぬ試合会場を後にした零。
喧噪から離れたところまで来ると、足を止めて小さく息を吐く。
そして、もう間もなく次の試合が始まるであろう会場を振り返った。
すると、こちらへと歩いてくる人物が目に入り、ほんの少し目が泳いだ。

(レオ…)

零が自分のことに気づいたとわかったところで、レオが、

「零さん!」

と、にこやかな表情を浮かべて手を挙げる。
そして、そのまま小走りに零に駆け寄ろうとしていた。
が、すぐに誰かの手がレオの肩に掛かり、引き留められてしまう。
慌てて振り返ったレオと同様に、零もまた彼の後方へと目を凝らす。
すると、そこにいたのは翼だった。

(翼…)

零の顔が一層陰りを見せ、事の成り行きを見つめた。

レオを引き留めた翼はレオに向かって静かに首を横に振り、そして、零の方へと視線を伸ばした。
レオは少し戸惑った表情を浮かべながら、翼と同じく零の方を振り返って見た。レオの心配そうに眉をひそめている顔を見て、零の胸がチクリと痛んだ。
零はほんの少しだけ迷ったが、今はまだ彼らの前でうまく表情を作れそうもないと思い、小さく手を挙げてから踵(きびす)を返してその場を立ち去ることにする。




段々小さくなる零の背を見守りながら、レオは呟いた。

「初戦突破おめでとうございますって、伝えたかったんですが…」

それを聞いて、翼は小さく鼻を鳴らした。

「フン… 無駄にヒヤヒヤさせるなと、俺は文句を言いたかったがな」

口ではそう言いつつも翼の目は心配そうに零を見つめているようで、レオはこっそりと笑みを浮かべた。
ふたりして、しばらく零の姿を目で追っていたが、レオはあることを思い出して翼を振り返った。

「そう言えば、翼さんの試合は、零さんの試合の次の次じゃありませんでしたっけ?」

「ああ、そうだ。
 今回は運営に絡んでることもあって辞退することも考えたんだが…
 やはり、サバックの開催自体そうあることではないのだから、と思ってな」

実際のところ翼の立場ではあれこれ気配りや目配りが必要で、試合だけに集中できないのであろうが、今の翼はそんなことを微塵も感じさせずに、実にゆったりと構えていた。
それは、鋼牙や零たちと最初に出会った頃から数年の時を経て、翼なりの魔戒騎士としての時間を歩んできたという重みを感じさせる、自信と余裕の表れであった。

「やるからには目指すのはひとつ。
 たとえ、涼邑零が相手であっても俺は負けるつもりはない」

翼は涼しい目で穏やかに言い切った。
そして、チラッとレオを見て続ける。

「そして、おまえであってもな…」

それを聞いた途端、レオの背筋はピンと伸びた。
けれども、以前のようなおどおどしたところはない。

「光栄です。
 もちろん、翼さんたちに比べたら俺の実力はまだまだでしょうが、俺だって恥じない試合はするつもりです」

静かだがどこか熱さを秘めて、レオは言った。
そのときレオの脳裏には、’約束の地’ で今も戦っているであろうあの人の姿が浮かんでいた。

レオのその言葉を聞いて、翼は内心驚いていた。
これまではどこか頼りない印象のあったのに、今のレオからは、しなやかな強さが感じられたからだった。

(こいつもこいつなりの濃い時間を積み重ねてきたんだろうな…)

翼はそう思うと、フッと表情を緩めた。

「レオ、おまえとの対戦が楽しみになった。
 変なところで負けるなよ」

そう言った翼はポンとレオの肩を叩いて、試合会場へと戻っていく。

レオは翼の背を見送った。
そのとき、わっと試合会場から歓声があがる。ひょっとしたら、勝負が決まったのかもしれない。
そう思ったレオは、零の消えていった方角をもう一度見てから、ふと空を見上げた。

(よし、僕も頑張ろう…)

心の中でそう決心すると、レオもまた試合会場のほうへと足を向けた。





零に引き続き、翼もまた危なげなく勝ちを決め、レオも初戦を突破した。
サバックの試合は何事もなく進んでいき、二回戦、三回戦と進むうちに、対戦相手どうしの実力も拮抗してきて、手に汗握る戦いが続いていた。

相変わらず、零は他の魔戒騎士たちとの接触を避けているようで、レオも翼も彼の姿を見かけても言葉を交わすことはほとんどなかった。

けれども、零は少しずつだが自分の中に変化があることを感じていた。

ホラーを相手にした日々の闘いでは、斬っても斬っても晴れないやるせなさや切なさが零を苦しめた。
けれども、サバックで人間相手に鉄の剣で戦うことは、それとは違った感覚を零にもたらしていたのだ。

ソウルメタル製の剣を振るえば精神的に負荷がかかるが、鉄製の剣では体力が削られた。
試合が長引けば長引くほど、腕も足も重くなり、痛みを覚えていく。
特に、左右で2本の剣を操る零の場合は、試合を重ねていくうちに体中に疲労が蓄積されていった。
けれども、それが零にとっては心地よかった。

「動きたくねぇなぁ…」

と呟きながら、大地にごろんと横になり、流れる雲をぼんやり見ていると、余計なことは何も考えずにいられたのだ。



それに、サバックへの取り組み方を変えたことも功を奏した。

もともとサバックの参加に対して積極的になれなかった零にとって、

  相手に一滴でも血を流させたら勝ち

というルールを

  自分が一滴でも血を流さなければいい

というふうに解釈を変えてみたのだ。
そうすると、

  相手を倒そう

とする殺伐とした感覚ではなく、

  うまく逃げてやろう
 (そのついでに、相手にちょっと傷をつけよう)

という、どこか遊びに似た感覚でサバックに取り組むことができたのだ。



それに、仲間の温かいまなざしにも救われていた。
今の、他を寄せ付けようとしない自分の様子に、レオや翼は間違いなく心配してくれている。
けれども、ずかずかと無遠慮に近づいてはこない。
まるで、そう、泳がされている気分だ。
放置や無視といった冷たいものではなく、零が自分でいつか克服する、克服できることを信じてくれているという大きな信頼感を感じさせてくれていた。
そのことが、零にとってはとてもありがたかった。



to be continued(5へ)
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…



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