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きんのまなざし ぎんのささやき

癒えぬ傷(6)

さてさて、1日遅れのアップです。(すいませんでした!)

いよいよサバックも佳境です。
物語のほうも佳境… なのかしら?
いまひとつ、盛り上がりに欠ける気もしないでもないですが、零の心の澱(おり)がそうさせるのでしょう、と自分で自分を奮い起こして…

少しでもお楽しみいただければ幸いです。


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大会7日目。
いよいよ試合は、残り1つとなった。

「ただいまから優勝決定戦を開始する!」

頭の上からのような、はたまた腹の底からのような、不思議に響いてくる厳かな ’声’ が聞こえると、試合会場を包んでいたざわめきが一瞬のうちに消え去り、その場の空気が固まってしまったかのような静寂に支配された。
その静寂を破って、なおも ’声’ が響いた。

「山刀翼! 前へ!」

’声’ に応えて、山刀翼が試合会場の中央付近へゆっくりと足を進める。
実に堂々とした歩みを止め、先端に鉄製の穂をつけた槍で地面をトンと突く。
彼を包むその自信と余裕のオーラに、

  おおお

という観客の声にならないどよめきが、空気を震わせる。

一拍置いて、すぐに対戦相手の名が呼ばれた。

「涼邑零! 前へ!」

すると、零は、まるで長時間待たされたラーメン屋で「お次のお客様どうぞ~」とでも呼ばれたかのようにホッとひとつ息をついてから、首を回しつつ翼の前までやってきた。
これから決勝戦だというのに、その気負いのひとつも見られない様子は、実に ’彼らしい’ と言えば ’らしい’。

「よう、翼。お手柔らかに頼むぜ」

ニヤリと口角は上がっているが、零の目は笑っていない。

「何を言う。
 おまえ相手に手を抜いていたら、ひどい目に合うのは目に見えているではないか」

表面上は穏やかな翼も、その声のトーンはいつもよりかなり低い。
互いの目を見つめ合ったまま、しばし、声なきままで視線だけで会話するふたり。
その一部始終を、固唾を飲んで観客が見守っている。

やがて、試合開始を告げる ’声’ が…

「両者とも、構えて… はじめっ!」

ふたりの魔戒騎士は自分の獲物を手に一瞬腰を沈ませると、一直線に相手目掛けて大地を蹴った。





「そこまでっ!」

そう ’声’ が告げたとき、翼はすぐに槍を引いて地面にストンと垂直に立てた。
一方、片膝をついた姿勢であった零はゆらりと立ち上がり、双剣をくるり回して大きく息を吐いた。
最後の怒涛のふたりの仕掛け合いは、見ている側が息をするのも忘れるくらいに激しく、一進一退の戦況を目で追うことも難しいくらいで、実際のところ、どちらが勝ったのかを正確に言える者は、ほとんどいなかったのではないかと思われた。

「どちらが勝ったんだ?」

「いや、わからん」

「零じゃないのか?」

「いや、翼の槍が届いたようにも見えたけどな」



そんなざわめきの中、おもむろに翼が左腕を顔の前に突き出した。
見れば、腕の内側、上腕の中ほどの魔法衣が切り裂かれており、一筋の血が流れていた。
そして、零のほうはというと、胸元が少し破けていて黒いシャツの下の白い肌が見えていた。
すると、零は、大胆にもシャツのボタンをいくつか外してシャツの前を大きくはだけさせた。
観衆の注目が集まる中、零の胸には傷はなく、血は一滴も流れていなかった。

「勝者っ、涼邑零!」

その瞬間、

  うぉぉぉぉ

大地を揺るがすような歓声が一気にあがった。




騒然としている中で、会場の中央に立つ零に翼が近づく。

「おまえの勝ちだ、零」

潔く負けを認め、どこか吹っ切れたような、晴れやかな笑みを浮かべる翼。

「まあ、今日はたまたま… ってとこかもな。
 おまえの厳しい攻めに、こっちは何度も肝が冷えたぜ」

肩をすくめて見せながら、零は翼の健闘も称えた。

「フッ、そのくらいでないと、おまえと決勝では戦えるわけがないだろう?
 だが… そうだな、おまえには礼を言わせてくれ」

「礼?」

「ああ。久しぶりに全力でぶつかり合えることができた。
 おまえに届くことを、おまえを超えることだけを目指してな…
 とても楽しい時間だった。おまえと戦えてよかった」

そう言うと、翼は拳を突き出した。
その言葉を聞いた零は少し目を見開いたが、すぐに

「翼… ありがとな、俺も楽しく戦えたよ。何も考えず、無心になれた…」

零は自分の握りこぶしを、翼の拳にコツンとぶつけた。
そして、ニヤリと笑う。

「それにしても、翼。
 おまえ、何気にキザなこと言うんだな?
 俺、思わず惚れちまいそうになったよ」

と一言茶化すように言うことも忘れなかった。
翼は眉根を寄せてしまう。

「何を馬鹿なことを…」

「いや、ほんとほんと。
 ’おまえとヤれて楽しかった’ だなんて言われたら…
 俺が女だったら真っ赤になっちまうところだった」

「はぁ? おまえはまたそんなことを…」

呆れ顔の翼は、ものすごーく冷たい声で言った。

「今初めて思ったよ。
 そんなくだらないことを言うおまえなんかに負けて悔しい、ってな…」



けれども、翼は心の中では違うことも考えていた。

(ああ、初めて会った頃の零が少し戻ってきた感じがするな…)

と。
ただ、それは言葉にはせず、翼はフッと笑うと、零とがっちり肩を組んで、ともに手を振り、観客たちからの賞賛の声に応えるのだった。





サバックの行われた異空間を抜け、魔戒騎士たちは閑岱の地に戻ってきた。
この後、閑岱ではささやかな慰労の宴を開催する予定になっていたが、零はこのまま帰ると言う。
村の広場の外れまで見送りに来た翼とレオを振り返り、零は言った。

「いやあ、やっぱり強い、翼は…」

「何を言う、勝ったのはおまえだ」

ふふんと笑った零が答える。

「そうだった…
 また会おう」

翼の後ろからズイッと前に出たレオが、思いを込めて声を掛ける。

「零さん、気をつけて!」

「ああ、世話になったな」

しっかりとした足取りで去っていく零を見送り、翼は小さくうなずいた。





サバックの開催期間中、零との接触が制限されていたシルヴァが、ようやくいつもの零の左手に落ち着いて、声を掛けて来た。

『この時間、ここから一番近い魔戒道はこっちよ。
 でも、少し歩かなきゃいけないわ』

「了解…
 それにしても久しぶりのシルヴァの声、なんだか安心するよ」

『そうね、わたしもあなたの側にいられてホッとするわ。
 ゼロ、改めて言うわ。優勝おめでとう!』

「ああ、ありがとう」

「フフッ、ゼロったら、なんだかちょっと感じが変わったわ」

「ん? そうかな?」

「ええ…」

シルヴァの声には安心したような響きがあった。
けれども、零の顔が微かに悲し気なものに変わった。

「変わりたくても変われない…
 変わりたくなくても変わっていく…
 俺はどうすればいいんだろうね?」

シルヴァに言うでもなく独り言のような零の呟きが漏れていた。

『ゼロ…』

シルヴァにはそれ以上何も言えず、遠くを見つめる零の横顔をじっと見つめることしかできなかった。

やがて、零は歩き出した。

「さあ、またホラー相手に闘う日々が始まるよ。
 また、よろしく、シルヴァ」

『もちろんよ、ゼロ…』

歩き出した零はもう振り向かず、閑岱の地を後にした。



to be continued(7へ)
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も5年を経過しましたが、まだ飽きていない模様…



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