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きんのまなざし ぎんのささやき

牙 狼(冴 島 鋼 牙 Ver.)の世界を、気ままに妄想した二 次 創 作 サイトです

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最近の’お礼’

癒えぬ傷(7)

サバックも無事(?)終了!
ホッとしたところで、まだあるの? という感じですが…
もう少しだけおつきあいくださいな。



::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

今、零の目の前にひとりの男が立っていた。

その姿に一瞬大きく目を見開いた零だったが、すぐにフッと笑みが浮かぶ。

「ちゃーんと帰ってくると思ってたよ」

男はそれには応えず、零の手に握られているものに目を留めて言った。

「やはり、おまえが優勝したか、零」

零は、その手にあったサバックの優勝者に渡されるメダルを持ち上げ、挑戦的な目を男に向けた。

「どうする? ほんとうの決勝戦をやるか、鋼牙?」

メダルを突き出した零に対して、それに応えるように鋼牙は赤鞘を握る手に力を込める。

『馬鹿なことはやめさない、ふたりとも!』

咎めるシルヴァに

『おいおい鋼牙。ほんとうにやるつもりなのか?』

と呆れたザルバの声が重なる。





海風に吹かれながら、零は自然に頬が緩むのを感じていた。

「楽しい…」

サバックで翼相手に鉄製の剣で戦ったときももちろん楽しかった。
だが、今、最高の友を相手に思いっきり剣を振るえることは、それこそ、心が震えるほどの喜びを感じていた。

そこから無事に帰ってくることはないと言われた ’約束の地’ から五体満足に、いや、恐らくは見事にガジャリからの試練を果たして帰ってきた鋼牙のことがとても誇らしいとともに、そんな鋼牙が自分を相手にガチの勝負をしてくれていることが嬉しくて堪(たま)らない。

この感覚は、鋼牙以外の他の魔戒騎士では絶対い味わえないものだと零は思った。





「あーあ、負けちゃった…」

海岸線を望む小高い丘の上に両手を頭の下に組んだ状態で寝そべった零が、吐息とともに呟いた。
すっかり日も暮れた空には月が出ていて、零の顔を青白く照らしている。

『残念だったわね』

寄せては返す単調な波の調べだけが聞こえていた零の耳に、慰めるようなシルヴァの声が届いた。

「もうちょっとだったのにな…
 あのとき、ああやったら… いや、その前にこうしてたら?」

零は鋼牙との戦いを思い起こしながら思わずそう言っていたが、やがて、くくっと笑いだした。

「だめだな。いくら考えたところで負けは負けだもんな。
 ’タラレバ’ の話をするなんて女々しいだけか…」

自嘲気味にそう言う零にシルヴァは

『あら、わたしはそうは思わないけど?』

と言う。

どういうこと? と言いたげにシルヴァを見る零に、シルヴァは続けた。

「闘いを振り返ることは大事だわ。
 それを次の闘いに生かすためには… そうでしょ?」

「…」

零は何も言わず、シルヴァの言葉に耳を傾ける。

「猪狩重蔵、だったかしら?
 あなたが彼に勝ったのもそういうことだったんじゃないかしら?」

零の脳裏に、くたびれた風貌の、異様に力強い目をした野武士の姿が思い浮かんだ。
強い者と戦いたいというそれだけの想いで邪悪なホラーをも抑え込ませた重蔵の強い精神力にただただ驚き、命のやりとりをしながらも、まるで師匠に稽古をつけてもらっているような感覚を楽しんだことは忘れられない記憶だ。

そんな重蔵のことを思い返している零に、シルヴァはなおも言う。

「零、あなたは強いわ。
 …いいえ、これからもっと強くなる」

穏やかだが、しなやかに力強くシルヴァは言い切った。




零は思う。

道寺を失った。
静香も失った。

あのときよりは強くなったと思っていた。

けれども、また、アリスも…



強さが足りない。
弱いことがつらく、たまらなく悲しい。



嗚呼、強くなりたい。
嗚呼、強くありたい。



もうこんな悲しいことはたくさんだ。



だが、切なげに曇っていた零の視線に、やがて、力強い光が浮かんでくる。



中空をじっと見つめていた零がポツリと呟くように声を発した。

「なあ、シルヴァ?」

『なあに、ゼロ?』

「ありがとう…」

『えっ?』

驚いたシルヴァが目を見開く。
そんなシルヴァに目も向けないまま、零はなおも言った。

「シルヴァ、これからもずっと一緒にいてくれ」

それを聞いたシルヴァは、ふふふ、と忍び笑いを漏らして、

『あたりまえじゃない。
 わたしはあなたの ’シルヴァ’(旧魔戒語で「家族」) だもの…』

と答えた。
その答えに零はフッと笑い、静かに目を閉じた。
その顔はとても穏やかだった。




空には青白く輝く月。
時折頬を撫でる風と、心落ち着く波の音。

癒えぬ傷を抱えた零であったが、今はただ、静かで、優しく、温かなものに包まれているような感覚の中にいることをしっかりと感じていた。



fin
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::


はい、終了~
最後に、「御大(おんたい)」の登場でした!

鋼牙とのシーンが先週の話では収まり切れずに、もう1週必要になったのはちょっと計算外でした。
あっ、いや、いつもゆきあたりばったりなので、「計算」などというものはしていないんですけどねっ!

レオや翼、そして鋼牙と、なんだかこの妄想は男臭い展開でしたが、最後になってシルヴァに行きついた感じで、う~ん、実はこれも「計算外」でした。
多分、鋼牙とのシーンで終わるんだろうなと思っていたんですよ、当初は。
いやあ、気ままに書いていると多すぎですね、「計算外」が…

さてさて。
零に限らず、心の傷というものは、今後も何度となくぶり返すものでしょうが、その傷と零がうまく付き合っていくことを願って止みません。
できれば… その傷を埋めてくれるようなしあわせが彼に訪れんことを!

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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…



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