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きんのまなざし ぎんのささやき

…なんでもない(1)

仕事と恋人…

天秤に乗せるなど到底できっこない、このふたつですが、日常生活のうえでは、
ちょいちょい突きつけられる命題ではないでしょうか?

とある日の鋼牙さんとカオルちゃんは、こんなだったかもしれないなぁ、と
妄想してみました。

よろしければ、ど~ぞ!!

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(あっ、鋼牙!)


カオルは、図書館に来ていた。
今度の作品のモチーフに取り上げようと思っているものについて、ちょっと
調べ物がしたくなったのだ。
いや、正確には、まだ図書館には入っておらず、これから入ろうとしている
ところだった。

初秋の爽やかな風が頬をなで、とどまることなく通り過ぎていく。
カオルが図書館の入口前にある階段を上ろうとしたとき、風が少しだけ
強く吹いた。
その風になびいた髪を咄嗟に手で押さえたとき、ふと、カオルの視線が
右のほうに流れた。
視線の先には、図書館の茶色い建物の角を曲がり、隣の建物との間に
ある道を歩いていく、見慣れた白いコートの姿があった。

カオルは反射的にその背を追いかけ、走り出した。
少し大きな声で呼びかければ、足を止めてくれるくらいの距離だった。
だが、それをしなかったのは、追いついたときに驚いてもらえる、ただ、
それだけの子どもじみた考えのせいだ。

足音ができるだけしないように気をつけながら、カオルは走った。
だが、それでも彼の歩くスピードが速すぎる。

「はぁ、はぁ…」

息切れがして、足音を気にする余裕もなくなってきたが、鋼牙の背中は
一向に近付かない。
とうとう追いつけないまま、鋼牙を見失ってしまった。

(あれっ? どこいったんだろ…
 う~ん、やっぱり声を掛ければよかったかなぁ)

カオルは弾んだ息を整えると、肩を落として残念そうにしていたが、
やがて、気を取り直して、元来た道を戻っていった。



その少し前、カオルが鋼牙めがけて走っている最中のこと。
次の目的地であるオブジェへと道案内していたザルバが、鋼牙に声を掛けた。

『おい、鋼牙』

「なんだ」

鋼牙は左手を持ち上げ、相棒の言葉に耳を澄ました。
ザルバが何かを察知したのかと思い、厳しい表情で隙なく身構えた。

だが、ザルバは、予想とは全く違うことを口にした。

『カオルが後ろから追いかけてきているぞ』

その言葉に、鋼牙の高まっていた集中力は解放され、無意識のうちに四肢に
入っていた力が少しばかり抜けた。

「…そうか」

そう返事をすると、鋼牙は歩みを止めることなく、歩き続けた。

『おいおい、待っててやらなくていいのか』

てっきり、カオルが追いつくのを待っていてやるものだと思ったザルバが、
驚いて鋼牙に問い返した。

「あぁ、構わん」

鋼牙の答えは思いのほか早かった。
オブジェを浄化するほうが先だ、と、鋼牙は判断したのだろう。

「このまま真っ直ぐでいいのか?」

鋼牙は魔戒騎士の顔をして、鋼牙がザルバに念を押した。

『あぁ…
 この道を真っ直ぐ行って突き当りを右に曲がったら病院がある。
 オブジェは、その病院の裏手にあるぞ』

鋼牙がそのつもりなら、魔導輪である自分は道案内の役目を果たすだけだ、
とザルバも仕事に集中することにし、鋼牙の向かうべき方向を告げた。



果たして、ザルバの言う通り、そこには病院があった。

どこにでもあるような、特になんの特徴もない、白い四角い建物。
この中には、病気や事故で受けた怪我に苦しむ人がたくさんいて、そんな
人々に手を差し伸べるたくさんのスタッフが働いているはずだ。
たった今も、入口から杖を片手にゆっくりとした歩調で老人が出てきた。
だが、健康になんの問題もない者にとっては、それは、日常風景の一部で
しかない。

鋼牙は、病院の方には一瞥だけくれると、ザルバに導かれるままに、
病院の脇にある、職員用の駐車場のほうへと足を向けた。
車が何台も止まっているが、人気(ひとけ)はなく、見咎められる心配も
なかった。

やがて、舗装が途切れ、雑草が生い茂った場所に出た。
そこに、小さな物置小屋のようなものが見えてきた。

『鋼牙、あれだ。
 あの小屋の裏手のほうに陰我を宿すオブジェがある!』

「わかった」

力強く返事をした鋼牙は、歩く速度を速め、小屋の裏に回った。

「!」

そこには1cmほどの太さの鉄線がクシャクシャに丸められたようなものが
あり、元の色も解らないほどに色あせた布きれがぐるぐると巻かれていた。
その布きれも長い間、風雨に晒されたためなのか、ズタズタに千切れ、
風にパタパタとはためいていた。

どういう陰我を抱えているものかは知らない。
陰我あるものは絶ち切る… ただそれだけだ。

魔戒騎士の存在に気付いたのか、黒い霧状の邪気が動き出した。
鋼牙は、素早く剣を抜き放つと、それを絡め取るかのように、剣をくるりと
返してオブジェの影に突き刺した。

黒い霧が晴れるように、掻き消えていく。
それまで黒いフィルターにでも覆われていたような付近の空気も、透明さを
取り戻し、鋼牙はホッとした。
また、ひとつ、ホラーの出現を阻止できた、そのことに安堵していた。

そんなささやかな満足感に浸る鋼牙に、相棒が声をかけてきた。

『お疲れさん。
 これで、今日は最後のようだ』

「…そうか。
 では、帰るぞ」

返事をしながら、剣を鞘に収める。
そして、鋼牙は明るさの戻ったその場所に背を向け、歩き出した。

駐車場を抜け、病院が面する道路まで出たとき、今来た道をなぞるように
戻ろうとする鋼牙に、ザルバは慌てて声を掛けた。

『おいおい、そっちから帰るのか?
 それでは遠回りになるぞ!』

屋敷に戻るのであれば、元来た道ではなく、右に進路を取るほうが早かった。
ザルバの忠告に、鋼牙は一言だけ返事をした。

「いいんだ」

ザルバには目もくれずにそう言い切った鋼牙を見ながら、

(ふ~ん、なるほどな…)

と、ザルバは思った。
鋼牙の意図を敏感に感じ取った魔導輪は、

(どうやら、今日の俺様の仕事はこれで終わったな)

と思い、それ以上何も言わずに無言を貫くことにした。



to be continued(2へ)
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も5年を経過しましたが、まだ飽きていない模様…



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