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きんのまなざし ぎんのささやき

怒ってますっ!(3)

見切り発車は、やっぱコワイですね。
ちょっとずつ、ちょっとずつ、ズレていってる気がします。
大丈夫かな…  う~ん、大丈夫かなぁ?

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ザルバがカオルをいじって楽しんでいるところへ、ゴンザが木製のワゴンを
押してリビングに入ってきた。
その途端、紅茶のかすかな芳香が鼻をくすぐった。

「お待たせいたしました…」

ティーセットの乗ったワゴンが、ガラガラと近づいてくる。
そのとき、それまで目を閉じていた鋼牙が、目を開けてサッと立ち上がった。
えっ、という感じでカオルもゴンザも鋼牙を仰ぎ見る。

「俺は書斎で調べ物をする。
 ゴンザ、すまないが、俺の分はそっちに用意してくれ」

ゴンザの方を見てそう言うと、鋼牙はスタスタとドアの方へ歩きだした。

「は、はい、かしこまりました」

ドアを開け、その向こうに消えてしまいそうになっている主(あるじ)の背に
向かって、ゴンザは慌てて返事をする。

  パタン…

ドアがしまり、カツカツと規則正しい靴音が遠のいてから、ゴンザはカオルを
振り返って尋ねた。

「何かあったのでございますか?」

てっきり鋼牙は、久しぶりに屋敷を訪れたカオルと一緒に、リビングでお茶を
楽しむものと思っていたゴンザは、カオルに何ら言葉もかけずに出ていった
主人の態度を不審に思って、カオルに尋ねた。

「ううん、何も…」

そう答えつつ、カオルは考えた。

「ただ、ザルバと一緒にいろいろ喋っていたから、うるさく思って逃げてっ
 ちゃったのかも…」

思いついたことを呟いてみる。

「さようでございますか…
 それにしても、カオル様とご一緒できる久しぶりのお茶の時間ですのに…」

ゴンザは残念そうにそう言ったが、すぐに笑顔を作って、カオルを励ます
ように笑顔で言った。

「まぁ、鋼牙様の分は、後ほど書斎のほうにお持ちいたしましょう。
 どうかお気になさらず。

 では、カオル様の分はこちらにご用意いたしますね」

カオルは、小さく笑顔をつくって、うん、とうなずいた。
ゴンザが、ワゴンから手際よく、ティーセットをテーブルの上に並べて
いく。

  カチャカチャ

まるで食器同士がおしゃべりでもしているかのような、食器の触れ合う
軽やかな音だけがリビングに響いた。

「うわぁ~ 今日のは本格的なんだね?」

テーブルの上に置かれたティースタンドを見て、カオルは小さく歓声を
あげた。
3段のティースタンドには、季節のスイーツや高級そうなチョコレートが
美しくセッティングされていた。

「はい、今日はカオル様もおられて、せっかくなので…」

そう答えているゴンザは、カオルが屋敷に顔を見せたことをとても喜んで
いるようだった。

カオルは、ティースタンドの1段1段を、キラキラした目で見つめている。

(あれっ?)

カオルの心に何か引っかかるものがあった。

(なんだろう?)

何が引っかかったのかは、判然としない。
今度は、ひとつひとつ、真剣な目で見つめていく。

そのカオルの様子にはお構いなしに、ゴンザが突然クスクスと笑い出した。
それに気づいたカオルが、ゴンザを見る。

「どうしたの、ゴンザさん?」

「いえね、いつもはこのような甘いものには関心の無い鋼牙様ですが、
 先日、このマロングラッセをお出ししたときのことです。

 飲み終わったティーセットを片付けているわたくしに向かって、
 『ゴンザ、これを大目に用意しておいてくれないか』
 と、そう仰(おっしゃ)られまして、珍しいことがあるものだと思ったので
 ございますよ。

 ですから、今日もほら、ここにご用意しておいたのです」

そう言うと、ゴンザはティーセットの最上段を指し示した。

そこには大振りで形も整った栗が、つやつやとした照りも美しく、ちょこんと
行儀よく並んでいた。

(ん?!)

何かがよぎった。

「ねぇ、それって、いつの話?
 …ひょっとしたら、この前あたしが来たときじゃない?」

カオルは、できるだけ平然とした態度で尋ねようとしていた。
だが、カオルの真剣な目を見れば、只事でないことは、ゴンザの目から
見ても明らかだった。

「そうでございますね…  あぁ、はい、確かに。
 この前カオル様がいらしてたときでございますね。

 栗の時期には、まだ少し早いので、少しだけしかご用意できなかったの
 ですが…

 カオル様がいつの間にか帰られてしまった後、鋼牙様からそのように
 お聞きしたのでした」

そのゴンザの答えを聞いて、カオルは、やっぱり…、という顔をした。

(思い出した!
 あのとき、このマロングラッセが原因で、ここから飛び出したんだ!)

「ゴンザさん、あたし、書斎に行ってくる!」

カオルは、ソファから立ち上がると、ゴンザにそう断ってからリビングを
飛び出していった。

「…はい?」

ゴンザの返事は、カオルの消えたドアに向かって、力なくぶつかった。

(やれやれ… お茶の時間は、もうしばらく後になりますかな…)

そう考えて、ゴンザはテーブルの上に広げたティーセットを眺めながら、
小さく息をついた。




書斎への廊下を、カオルは急ぎ足で歩いていた。

(思い出した、思い出した、思い出した!
 あの日もマロングラッセが出されて、最後のひとつを、鋼牙に勧めたんだ!
 おいしいよ、って…)



「これおいしいよ。
 鋼牙も食べたら?」

「そうか…
 俺はいいから、おまえが食べればいい」

読みかけの書物から顔をあげた鋼牙に、優しいまなざしを向けられて
そう言われて、

(そうか… 鋼牙はいらないんだ。
 じゃあ、あたしが食べてもいいんだね。
 ん~、でも、やっぱりもう一度聞いてから…)

と、本心は食べる気満々なくせに、再度、鋼牙に話を振ってみた。

「えぇ! そう…
 でも、とってもおいしいから、鋼牙も食べるといいのに…」

そのとき、カオルの電話に着信が入り、

「あっ、鋼牙、ごめん。 電話だ…」

と、カオルは席を離れた。
リビングの外の廊下でほんの少しの間、電話で話をした。
電話を終え、リビングに戻るまでは、時間にして、ほんの数分だったと
思う。

「ごめんごめん、ちょっとお仕事の電話だった…」

そんなふうに話しながら鋼牙の元に戻ってみたときには、お皿に残っていた
最後のマロングラッセが消えていた。

「あれっ? ここにあったやつは?」

何気なく鋼牙に尋ねる。

「あぁ、それなら食べたぞ」

「へっ?」

「おまえがあまり熱心に勧めるから…」

「…あ、あぁ、そう」

「確かにうまかった。
 だが、ずいぶん甘いものなんだな? 1個も食べれば十分だ」

「…」

鋼牙に返す言葉も見つからず、頭の中でグルグルと何かが渦巻いている。

(せっかく、食べる気十分だったのに…

 あんまり、ほしくなさそうだったくせに…

 鋼牙が食べても、なんだかあんまり満足してないみたいだし…

 あたしがおいしく食べてあげた方が、マロングラッセだって、ずっと
 ずっとしあわせに違いなかったのに…

 なんだか… なんだか… なんだか…)

きつく握りしめた手が真っ白になるくらいで(あとから自分の手を見たら
爪の痕がくっきりと残っていた!)、ちょっぴり涙も浮かんでいた。

「んもう… 鋼牙のバカ…」

俯き加減で、低く押し殺した声で言った言葉が、鋼牙に届いたかどうかは
わからない。
感情が爆発してしまう前に、と思い、カオルは急いでバッグを引っ掴んで、
リビングを飛び出した。

「あたし、帰るね!」

それだけを言うのが精一杯だった。



to be continued(4へ)
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も5年を経過しましたが、まだ飽きていない模様…



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