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きんのまなざし ぎんのささやき

…なんでもない(2)

オブジェの浄化が終わった鋼牙さん。
さぁ、どこへ行く?
何をする?


…続きはこのあとすぐ!



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今日最後のオブジェの浄化を終え、あとは屋敷に帰るだけの鋼牙は、
真っ直ぐに屋敷に向かうわけではなく、別の方角に向かって歩き出した。
その歩調は、心なしか、普段のそれに比べて速いものだった。

来るときに通った道を逆にたどり、図書館の脇に出てきた。

(確かこの辺だったはず…)

と、それとなく辺りの様子を探った。
1週間前よりは数段高くなった秋晴れの空の下、そこには人影ひとつ
見当たらなかった。
少しばかり気落ちした様子で、鋼牙は歩き続けたが、先程の歩調よりは
格段にスピードは落ちていた。
らしくない鋼牙の様子に、ザルバはすべて気付いていたが、何も言わずに
ただニヤニヤしている。

惰性で動く足が、やがて、鋼牙を図書館の前に運んできた。
鋼牙が気にも止めずに図書館の前を通り過ぎようとしたとき、ふいに
ザルバの口が開いた。

『鋼牙、おまえ、図書館など入ったことはないのだろう?
 どうだ、ちょっと覗いていかないか?』

「…」

鋼牙はザルバの言葉を訝(いぶか)しみ、少し考えた。
確かに、鋼牙が読むような書物は人界(じんかい)の図書館などには
ありえない。
従って、鋼牙が足を運ぶ必要はないのだが、かと言って、まったく行った
ことがないか、と言えば、そういうわけでもない。
故に、今、このタイミングでザルバがこのようなことを言い出すことには、
何か裏がありそうに思えた。

「少しだけ寄っていくか…」

誰に言うともなしに呟(つぶや)くと、鋼牙は図書館の入口へと向かった。

『…』

ザルバは、ニヤニヤ笑いながら、黙って左手で揺られていた。



この図書館は、市内の中でも一番大きな図書館で、地上3階建て、地下2階で、
図書室は1階と2階にあった。
まず、鋼牙は、1階の広くスペースが取られた図書室に足を運んだ。

平日とあって、それほど大勢の人がいるわけではないが、それでも、予想
していた以上の人の姿が見受けられた。
しんと静かで穏やかな時間が流れている。
鋼牙は、きれいに並んでいる書架の間を、ゆったりとしたペースで歩いて
いった。
ちらりちらりと目を配っているが、その目は決して書架に並んだ本には
注がれていなかった。



「!」

とある書架の前で、鋼牙の足が止まった。

その書架には「38 風俗習慣、民俗学、民族学」のプレートがかかっていて、
ひとりの女性が手にした書物を熱心に眺めていた。


カオルだ。


鋼牙は声をかけようとしたが、すぐに躊躇した。
そして、しばらく黙ってカオルの姿を見つめていた。

程なくして、書物を見ていたカオルが、うん、とひとつうなずくと、
その書物をパタンと閉じた。
そして、それを脇に抱え、書架に並ぶたくさんの本に目を移した。
指でなぞるようにして、本の背表紙にあるタイトルを追っていく。

鋼牙は知らず知らず、穏やかに微笑んでいた。

鋼牙が見つめているとも知らず、カオルは、次々と書物を選んでいく。
やがて、鋼牙のいる場所とは反対のほうに足を進めると、あらかじめとって
おいたらしい席に座った。

鋼牙はそっと、カオルの斜め後ろになる位置に場所を移した。

カオルは時折、はらりと落ちてくる髪を耳にかけながら、書物を見ながら
何か一心にメモしていた。

5分ほどその姿を見ていた鋼牙は、やがて、そのままその場を後にした。



  ブィ~ン…

自動ドアが開き、鋼牙は図書館から外に出た。
爽やかな風が正面から吹いてきて、鋼牙は少し目を細めた。

ここまで来ればカオルに気付かれることもない、とばかりに、それまでじっと
無言でいたザルバが鋼牙に声をかけた。

『鋼牙、カオルに声をかけなくてよかったのか?』

その口調には、わずかに非難めいたニュアンスが含まれていた。

「あぁ… いいんだ」

柔らかい表情をした鋼牙が、真っ直ぐに進行方向を見つめたまま答えた。

『…』

それでも、なんとなく合点のいかないザルバだったが、それ以上は何も
言わなかった。




屋敷に戻った鋼牙は、ゴンザの淹れてくれたお茶を飲みながら一息ついた。
黙ってお茶を飲む鋼牙の横では、ザルバがゴンザを相手に、先ほどのことを、
ああだこうだと話して聞かせていた。

「なんとまぁ… そのようなことがあったのですか」

『あぁ、そうなんだ、ゴンザ。
 まったく、こいつときたら…

 今日みたいなすれ違いばかりで、カオルとこの先、大丈夫なのかと、
 さすがの俺様も心配するぜ』

ゴンザはちらりと、この屋敷の当主の様子を窺(うかが)った。

鋼牙は、といえば、ザルバのおしゃべりに目くじらを立てるわけでもなく、
平然とお茶を飲んでおり、その姿にゴンザは何がしか感じるものがあった。

「それでは、今日あたり、カオル様はこちらにお見えになるかもしれませんね」

ゴンザは、誰に言うともなく呟いてみた。
すると、

『そうかな?
 カオルのやつ、ずいぶん熱心に何か調べてたみたいだからな。
 創作意欲ってヤツが高まって、そのまま絵を描くのに熱中しちまうかも
 しれないぜ?』

と、ザルバが自分の考えを披露した。



数日前のことになるが、カオルは、

「新しい作品に取りかかろうと思うから、アトリエに籠るね」

と告げて、ここのところ、ずっと姿を見せないでいたのだ。
今日のあの様子からは、その作品に、何かいいアイデアが浮かんだようだと
いうことが容易に想像できる。
ザルバの言うように、そのまま制作に没頭することも十分考えられた。



だが…
ホラーのことで読み違えることはまずないザルバだったが、人間の気持ちに
関しては、時として予想を外れることもあった。

その日、夕方遅くになって、カオルは屋敷に姿を見せたのだった。



to be continued(3へ)
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も5年を経過しましたが、まだ飽きていない模様…



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