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きんのまなざし ぎんのささやき

…なんでもない(3)

鋼牙とニアミスしながらも会えなかったカオルちゃん。

お仕事もしなきゃいけないけど、鋼牙さんにも会いたいよね?

さぁ、カオルちゃん、どうする?





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そろそろ黄昏も深まり、玄関灯を灯(とも)そうかというとき。
ふらりとカオルが屋敷に姿を見せた。

玄関でカオルを出迎えたゴンザに、

「こんな時間に、ごめんなさい。
 今日はすぐ帰るから…」

とカオルは謝った。

「いえいえ、カオル様。
 なんとなく今日あたりいらっしゃるのではないかと思っていたところです。
 お食事もすでにご用意してありますので、どうかごゆっくりしていって
 ください」

とにっこり笑った。

ゴンザの手際の良さに驚きながらも、その優しい応対に、カオルはほっとして
笑顔を浮かべた。
玄関から奥へと進み、いつものようにリビングに入ろうとしたカオルだったが、
ゴンザが声をかけてきた。

「カオル様。
 鋼牙様は書斎においでです。
 そちらのほうに、お顔を出されてはいかがです?」

「えっ、でも、仕事中でしょ?
 邪魔しちゃ悪いし、いいよ、いいよ。
 あたし、リビングで待ってるから…」

顔の前で手を振って遠慮するカオルに、ゴンザは自信たっぷりに言った。

「だ~いじょうぶでございますとも。
 きっと、鋼牙様も、カオル様のお顔を早くご覧になりたいと思いますよ。

 さぁ、どうぞご遠慮なさらず、書斎のほうへ… ささっ…」

ゴンザは、さりげなくリビングのドアの前に立って ’通せんぼ’ をすると、
廊下の先の書斎へと手で誘(いざな)った。

カオルは戸惑いながらも、ゴンザに見送られる形で書斎のほうへと足を
向けた。



勝手知ったる冴島邸ではあったが、書斎に、しかも鋼牙が仕事をしているで
あろうときに入るのは、そう何度とあったわけではない。
距離にして、ほんの数メートルだったが、どんどん緊張感が高まる。

カオルは、書斎のドアの前で立ち止まると、ちらっと、リビングのほうを
見た。
すると、ゴンザがカオルを励ますように大きく一度うなずき、それから、
リビングへと消えていった。

ひとり、廊下に取り残される形になったカオルは、大きく深呼吸をした。

(よし!)

何が、よし、なのかわからないが、とにかく気合いを入れて、ドアをノック
する。

  コンコン…

中から、開いてるぞ、という声がかかった。
カオルは、ごくりと唾を飲みこみ、真鍮のドアノブに手を掛けた。
そのヒヤリとした感触が、少しだけカオルの気持ちを落ち着かせてくれた。

  カチャ…

そぉ~っとドアを開けて、中の様子を窺(うかが)った。
重厚な造りの書斎机の向こう側に、鋼牙は座っており、机に肘をついて、
顎に手をやるような恰好で、何やら書物を読んでいた。

それを見たカオルは、書斎の中に入らず、戸口に立ったままで声をかけた。

「仕事中にごめんね。
 ちょっと顔を見に来ただけなの。

 じゃあね。 あたし、あっちにいるから」

リビングのほうを指差してそう言うと、カオルは開けたときと同じように
そぉ~っとドアを閉めようとした。
気を遣ったつもりではあったが、鋼牙に呼び止めてほしい気持ちもあった。
あともう少しで閉まりそうだったそのとき、鋼牙の声がした。

「カオル」

ぴたりと動作を止めたカオルは、細くなったドアのスキマから中を覗いた。
すると、 鋼牙の代わりにザルバがカオルを呼んだ。

『そんなところにいないで、中に入ったらどうだ、カオル?』

ザルバのいつもの軽い口調でそう言われると、少しだけ緊張も解けていった。
そこで、再びそぉ~っとドアを開けてみる。

「入ってもいいの? 邪魔じゃない?」

カオルは、もう一度確認した。
すると、今度は鋼牙がカオルに向かって答えた。

「大丈夫だ。
 特に、仕事というほどのことはしていないから」

そう言うと、手にしていた書物をパタンと閉じた。
それを見て、ほっとしたカオルは、ようやく書斎の中に入ってきた。

書斎机を挟んで鋼牙と向かい合ったカオルは、鋼牙に笑顔を見せた。

「よくきたな。
 絵の方は順調なのか?」

カオルを見上げるようにして、鋼牙が尋ねる。

「うん…  なんとか構想がまとまってきた感じなの。
 あとはそれをイメージ通りに絵に起こせればいいんだけど…
 うまくいくかどうかは、やってみないとね」

「そうか…」

鋼牙の温かい声を聞いて、カオルはにっこり笑って、小さくうなづいた。
穏やかに微笑み合うふたりの会話に、やがて、ザルバが割って入ってきた。

『そりゃあ、よかったな、カオル。
 今日のあの様子なら、俺はてっきり…』

「ザルバ!」

ザルバがすべてを言わないうちに、鋼牙が強い口調で遮った。
そして、指から魔導輪を外すと、机の上にある木製の小箱を引き寄せて、
中にある台座にザルバを収めた。

「おしゃべりはそこまでだ。
 しばらく、そこで黙っていろ」

と言い、有無を言わさずパタンと蓋を閉じた。


一方的に蚊帳の外に追い出されることになったザルバだったが、魔界に
通じる特別仕立ての箱の中で、ひとりほくそ笑んでいた。

(ふふっ、あとはうまくやれよ…  鋼牙…)

そう思ったのを最後に、ザルバの意識は魔界へと帰っていった。




さて、書斎では、ザルバを外してしまった鋼牙に、カオルが心配そうに
声をかける。

「いいの? 外しちゃって…」

「ほんのしばらくの間だけだ。
 すぐに出すから、気にしなくていい」

「そう…  なら、いいけど」

まだ心配そうに、ザルバの入った箱を見つめるカオル。
だが、すぐに、何かを思い出したように、鋼牙に視線を向けた。

「あっ、そういえば、あたし今日ね、鋼…」

そこまで言いかけて、なぜかカオルは急に口を閉じた。

「なんだ?」

穏やかに促されたものの、カオルは、

「…ううん、なんでもない」

と言って、曖昧に笑った。

今日は思いもしないところで鋼牙を見かけて、ちょっと嬉しかったこと。
急いで後を追いかけたものの、すぐに見失って、ちょっと残念だったこと。
そんなことを鋼牙に話して、なんになろう…
鋼牙の知らないところで、ひとり、一喜一憂しているだけのことなのだ。

少し寂しそうにも見える笑顔のカオルを見ていた鋼牙は、やがて、椅子から
立ち上がると、カオルの傍(かたわ)らへと近寄った。

鋼牙を見上げるカオルの頬に、そっと手をやると、鋼牙はぽつりと言った。

「今日、おまえを見かけた。 図書館で…」

えっ、と言う表情を見せるカオルに、

「だが、夢中で調べ物をしているの姿を見て、声をかけずにいた」

と、鋼牙は言葉を続けた。
その言葉に、カオルの眉が少し歪んだ。

「声… かけてくれればよかったのに…」

ほんの少しだけ、なじるように言う。

「…そうか。 かければよかったのかもしれないな。

 だが…」

そこまで言って、鋼牙は続きを言うのをためらった。

だが、あんまり熱心だったから…
  仕事に没頭しているのを邪魔したくなかったから…
    そして… 一心不乱に打ち込む姿が、あまりにきれいだったから…


「’だが…’  なぁに?」

尋ねるカオルに、鋼牙は、少し微笑みながら、

「…なんでもない」

と、返した。

「えぇ~
 教えてくれてもいいじゃない?」

カオルは思わず、口を尖らせた。
いつもの調子が戻り、甘えるように訴えるカオルを見て、鋼牙はその上に
覆いかぶさった。
鋼牙の温かな唇がカオルの唇を優しく包み込み、すぐに離れた。
カオルを熱く見つめる鋼牙の視線が、カオルにとってはなんだか恥ずかしくて、
もじもじしてしまう。

そんなカオルの耳に、鋼牙の心地よい声が響いてくる。

「教えてやってもいいが…
 では、おまえの ’なんでもない’ という話も、聞かせてもらうぞ?」

そう言うと、カオルの腰に回していた鋼牙の腕に力がこもった。

鋼牙の腕の中に抱きすくめられたカオルは、泣きたいようなしあわせの中で、
うん、と小さくうなづいた。



fin
続編へ
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::


カオルちゃんよりも仕事を優先した鋼牙さん。
仕事に夢中なカオルちゃんに声をかけなかった鋼牙さん。

男はそれでいいのかもしれません。  …でも。

仕事も大事だけど、恋する気持ちも大事にしたい…
カオルちゃんも女の子なら、そう考えるのは自然なことではないでしょうか?

だけど、そんな気持ちを吐露するのは勇気がいりますよね。
なんたって、相手は、「お仕事大事!」な鋼牙さんだから。



すれ違いなふたりは、いったいどうやって絆を確かめ合うのでしょう?
ホラーの血も浄化されて、カオルちゃんがホラーに狙われることも、
もうないし…

というわけで、ふたりが会える貴重な時間は、しっかりカオルちゃんを
甘えさせてあげてくださいな、鋼牙さん!


2013/10/02 追記
続編を書きました。
よろしければこちらへど~ぞ!!

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お互いが
お互いが変に気を使ってしまうと、すれ違いも悲しくなってしまいますが、カオルちゃんの微妙な感情を鋼牙が受け止めてくれてよかったです。仕事ってわかってるけど、ちょっとだけでも会いたいもんですよね~
くわい 2013/09/26(Thu)23:28:31 編集
Re:お互いが
くわい様、コメントありがとうございます!

大人ですもの、お仕事は大事!
でも、やっぱり恋も大事にしたいですよねぇ~?
いつもは「仕事が大事」な鋼牙さんも、せっかくカオルちゃんが会いに来てくれたのだから、少しだけ譲歩してカオルちゃんとの時間をつくってほしいな… っていう妄想でした!

ところで…
すぐに出すはずのザルバが、いつ出してもらえたのかだけが気がかりですが。(笑)
【2013/09/27 20:25】
selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も5年を経過しましたが、まだ飽きていない模様…



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