忍者ブログ

きんのまなざし ぎんのささやき

牙 狼(冴 島 鋼 牙 Ver.)の世界を、気ままに妄想した二 次 創 作 サイトです

最近の’妄想’
2025/12/31 ・・・ ようこそ
2023/12/24 ・・・ 金牙新年!
2023/12/03 ・・・ 冬ごもり大作戦(2)
2023/11/19 ・・・ 冬ごもり大作戦(1)
2023/10/15 ・・・ とある秋の日
2023/08/06 ・・・ いちばんの存在(6)
2023/07/30 ・・・ いちばんの存在(5)
2023/07/09 ・・・ いちばんの存在(4)
2023/07/02 ・・・ いちばんの存在(3)
最近の’お礼’

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

この気持ち(7)

世間はG.W.ですか? 9連休? なにそれ、おいしいの?
selfish はカレンダー通りです。
娘(言語聴覚士)なんかは3~6日も出勤だし、義母のデイサービスだって休みなし!
(医療従事者そして介護職のみなさん、ご苦労様です! ほんとうにありがとう!)

たとえ休みだったとしても主婦のみなさんは休みがないも同然ですよね!
そんなあなたの癒しになればうれしいのですが… お楽しみくださいませ。

拍手[2回]



::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
マユリの外出はその後も続いた。
そして、最初に出会ったあの女性の店にも顔を出して、ちょっとした手伝いをしながら、合間にはその日の社会科見学の成果報告や乾燥などを聞いてもらっていた。

この日も

「ちょっと休憩しましょ」

と言って入れてもらったココアをマユリは両手に包むようにして口に運び、ほっと一息ついていた。
甘い匂いに包まれながら、思わず表情を緩ませているマユリを、微笑ましく見ていた女性が声をかける。

「マユリ、興味の持てそうなもの、そろそろ見つかったかい?」

そう聞かれたマユリは手に持っていたマグをテーブルにコトリと置き、少し考えるように視線を下げた。

「…まだ、これだ、ってものは…
 でも、人の相手をするのは、わたしには難しいということは感じた」

「小さな子どもとか動物とか… は?」

マユリは、ちらっと目線をあげて女性と視線を交わした後、今度は上の方を見て考える。

「かわいいと思う気持ちはなんとなくわかる。
 …だけど、いざ接してみるとどうすればいいのかわからないし、傷つけそうでこわいなと思うんだ」

「そうかい…
 じゃあ、何かを作る仕事は? 陶芸とか木工とか…」

「…わたしにはそういうセンスはないみたいだ。
 あっ、でも、写真を撮ったのはちょっと楽しかった。…けど、のめり込むほどではなかったし…」

「料理は… ああ、あまり関心がないんだったねぇ。
 じゃあ、メイクとかファッションとか?
 モデルとか女優とか歌手とかには興味はない?」

「正直、あまり…」

「絵を描いたり、詩やもの物語を描いたりとか?」

「うーん…」

「人と接するのが苦手だというなら、なかなか難しいものがあるねぇ。
 あっ! 農業とかは?
 野菜を植えたり、果物を育てたり… 土を触るのは嫌いかい?」

「土? いや、あまり触ったことがないからわからない」

「そうなのかい?
 うーん、そうだねぇ… マユリの住んでいるところには庭はないのかい?」

「庭? 庭ならあるが…」

「なら、花とか木とか植わっているだろう?
 その世話は誰がしているんだい? その人に言って少し手伝ってみたらどうだろう?」

「花の世話…」

うん、と女性は大きくうなずいた。

「あとはそうだねぇ。
 料理はともかく、掃除とか洗濯とか、家事の経験は?」

「掃除はここで初めてやってみた。でも、洗濯はしたことがない」

「じゃあ、そういうこともやってみたらどうだい? というか、やるべきだね。
 あんたは、身の回りのちょっとしたことの経験もないみたいだから。
 もしも、ひとりで暮らしていこう、となったときにそれじゃあ困るだろう?

 仕事なんてのは、人と接しようが接しまいが、誰かの役に立たなきゃ ’仕事’ にはなりゃしないんだ。
 自分のことができなきゃ、誰かのためになることもできゃしないだろ?」

マユリは軽くショックを受けた。
仕事さえあれば屋敷から離れて、雷牙たちに迷惑をかけずに暮らしていけるだろう、としか考えていなかった。
言われてみればそうだ。
ひとりで生きていくには、料理とか洗濯とかそういうことは自分でしなければならないのだった。

かぁーっと顔に熱が上がっていく。
そんなことも言われないとわからない自分が恥ずかしくなっていた。

(料理も洗濯も、ゴンザに教えてもらおう)

そう思ったマユリだったが、次の瞬間、それはちょっと避けたいと思ってしまった。
途端に表情が暗くなる。
その変化に気付いた女性は、気づかわし気にマユリを覗き込む。

「ん? どうしたんだい?」

聞かれたマユリは眉尻を下げて困り顔だ。

「料理とか洗濯とか教わらなきゃと思ったけど、家では難しいかなと思って…」

これには女性、首をかしげる。

「どうして? 家の人には聞きにくい?
 そんなに怖い人たちなのかい?」

マユリは慌てて首を振る。

「違うんだ。みんな優しい。
 いつまでもいてくれていいって言ってくれるくらい優しいんだ」

「なら、どうして?」

それにはマユリ、すぐ答えられずにもじもじする。

「それは… 教えて、って言ったら、きっとすごく丁寧に教えてくれると思う。
 でも、そうすると屋敷にいる時間が増えるだろ?
 そしたら、会いたくない人に会う可能性が増えてしまう…」

「会いたくない人が家にいるの?」

「会いたくないっていうか…
 会うとなんだか苦しくなるんだ」

「苦しいの?」

「ああ… あっ、でも怖いとか嫌いとかそういうんじゃない。
 その人はすごく優しい。優しくっていつも笑っててなんでも受け入れてくれる、そんな人…」

「優しい人なのに、苦しいの? どんなふうに?」

「目が合うと胸がぎゅっと掴まれたみたいになって… でも、どこか別の場所を見ているとこっちを見てほしいって思うんだ。
 でも、いざ見られると困ってしまう…

 近くにいたいけど、わたしでは役に立たないからいられないし、いちゃいけないんだって思う…
 でも… それが寂しい…」

泣きそうな顔でマユリがぽつりぽつりと言う。
そんなマユリを見ている女性は、甘酸っぱい気持ちでいっぱいだ。
微笑ましい気持ちでありながらも、マユリの事情に深く立ち入るわけにもいかないちょっぴり切なさも感じつつ女性は複雑な微笑みを浮かばせるのだった。
そして、何気なく店の外に視線が流れたとき、それを見てはっと目を見開いた。
つい、笑顔がこぼれる。

「ねえ、マユリ」

女性は優しく声をかけると、マユリは顔を上げた。

「あんたにお迎えが来てるみたいだよ?」

そうして、くいっと顎で外を指し示す。
マユリは怪訝に思いながらも振り返った。

「あ…」




レストランのドアを開け、マユリが外へ飛び出す。

「雷牙!」

狭い道を斜めに渡った先にある電柱の陰からゆらりと白いコートの裾が見えていた。
気まずげな顔で雷牙が姿を見せた。

「やあ、マユリ」

『なあにが、やあ、マユリだ』

ザルバの呆れたような声が聞こえる。

「どうしたんだ、こんなとこで?」

「いや、ちょっとね」

『いや、ちょっとね、っておまえな…』

しつこくそう言うザルバに

「うるさいぞ、ザルバ」

と苛立たし気に雷牙は言う。
そして、マユリには

「偶然通りかかったらマユリの姿が見えたから…
 もう帰る? 一緒に帰ろうか?」

と優しく微笑みかけた。
もちろん、偶然なんかじゃない。
ゴンザにはそっとしておけと言われたものの、毎日毎日いそいそと(雷牙にはそう見えた)でかけていくマユリのことが気にかかり、邪気を纏(まと)うオブジェの浄化の帰りの足で、ザルバに探らせてマユリのいることに立ち寄ったのだ。

『偶然、ね…』

懲りないザルバがそう言うのにギロッと睨みを利かせた雷牙に、マユリは思わずくすっと笑い、目じりに涙を光らせた。

「雷牙…」

ザルバを睨みつけていた雷牙は、名を呼ばれてはっとしてマユリを見た。
そして、いつもの優しい笑みを浮かべて言う。

「帰ろう?」

マユリは笑っていた。
ここ最近、雷牙にはやや強張ったような表情ばかりだったマユリが、今はとても自然に笑っていた。
その笑顔を見て雷牙はふっと力が抜けた。

「さあ、帰ろう。一緒に…」




店の外に出た女性は、遠ざかっていくふたりの背中を見送っていた。

「はぁ… いいねぇ。
 あたしにもあんなときがあったかねぇ」

微笑ましさと羨ましさと、ほろ苦さと…

「さてと…」

女性は気持ちを切り替えるようにエプロンの裾をパンパンとはたくと、開店準備のため店の中に戻っていった。


to be continued(8へ)
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
コメント
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…



hitori 様[07/08]
tomy 様[07/27]
麗羽 様[08/23]
夕月 様[12/22]
夕月 様[07/15]
こちらから selfish 宛にメールが送れます。
(メールアドレス欄は入力しなくてもOK!)

PR
忍者ブログ [PR]
Template by repe