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きんのまなざし ぎんのささやき

いつの日か

お盆も真っ只中。
みなさんはどこで何をされているんでしょう?

帰省中?
それとも自宅に戻ってきてホッと一息ついているところ?

さて、今回の妄想は、故人に想いを馳せまして…
まだまだ消化しきれませんが、よろしければご覧ください。




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緑の絨毯に寝そべっている零の前髪を、柔らかな風が揺らしている。
その風は、空の高いところで鳴いている小鳥の声と、どこかで遠くで咲いているらしい花の匂いも零の元に運んできた。

いつの間にかうとうとと眠ってしまっていた零が、ゆっくりと目を開けた。
何度かまばたきを繰り返すうちに頭がすっきりとしてくる。

零の上に心地よい日陰を作っている周囲の木々は、空に向かって大きく手を広げるように、四方に枝を伸ばしていた。
そこにいたずらな風が枝を揺らすと、その向こう側に明るく輝いている太陽の光が零に向かって直接降り注ぐ。
その眩しさに目を細めた零は、手をかざして光を遮りながら気だるそうに身体を起こす。

(よく寝たな…)

ぼんやりとそう思っていた零の顔が、何かを察知して急に険しくなった。





  銀牙…  銀牙…

聞き覚えのある声が頭の中にこだまする。
銀牙。それは零がずっと前に捨てたはずの名前…
その名を口にするのは、今はもうこの世にいないはずの人だけだ。

油断なく辺りを窺う零。
やがて、その目に懐かしいその人の姿が映る。

柔らかな素材の白いワンピースの裾が風に揺れている。
そのワンピースの色よりも透き通るように白い肌。
髪も目も色素が薄く、その表情にはふんわりと優しい笑みが浮かんでいる少女の姿。
だが、どうやら彼女の目には零は映っていないようだった。
弾むような足取りのまま、零の目の前を何事もないかのように通り過ぎていこうとした。

ハッと息を飲む零。
何かの罠かもしれないと思い、周囲を窺う。
そして、すぐさま、

「シルヴァ!」

と左手のグローブに縫い付けられた魔導具に助言を求めるが、残念ながらシルヴァの答えは何も返ってこなかった。

(やはり、ホラーの仕業か…)

とそう思いながらも零は、目の前を過ぎようとする少女に声をかける。

「…静…香」

それでも彼女の歩みは止まらずに、そのままどんどんと零から離れて行こうとする。
たまらず、零は彼女に歩み寄る。
すると、ああ… これをどう説明したらいいのだろう。零は彼女の… 静香の体温を、匂いを… いや、彼女が確かにそこにいるという、存在というものを確かに感じた。
思わず、彼女の腕を掴んでしまう。
すると、彼女は驚いたように振り返り、そして、ようやく零に気付いたかのように微笑みを浮かべた。

「静香…」

まだ半信半疑ながらも、零は彼女を引き寄せようとした。
だが、どうしたわけか、確かに彼女の腕を掴んでいたと思われた零の手が空しく空(くう)を切り、静香は零からぐんぐんと遠ざかっていった。
あの、はにかむような、それでいてとてもしあわせそうな笑顔を浮かべたまま…

「静香っ!」

悲痛な想いでその名を叫ぶが、彼女にはそれが届かない。
胸が痛い…
だが、あれから、「あのとき」から長い時間が経過していることもまた、零は承知していた。
その時間のお陰なのか、いつの間にか悲しみをいなす術(すべ)を知ったからなのか、その胸の痛みはかつてのそれに比べると小さくなっていた。

(静香…)

零は、今にも消えようとしている、当時と変わらない可憐な姿の静香を見送った。

(静香、どうか安らかに…)





  零…  零…

今度は、また違う声で呼ばれた気がした。
振り返った零は、唇を噛んだ。

静香と同じく白いワンピース姿の少女。
だが、その少女の印象は静かとは全く異なっていた。
ハイネックのノースリーブにミニ丈のシンプルなデザインのワンピース。
そこから真っ直ぐに伸びる手足は健康的で、仁王立ちだ。
艶やかの黒髪に黒くて大きな瞳がこちらを真っ直ぐに見ている。

「アリス…」

絞り出すようにその名を呼んだ零は、ほろ苦い感情を抑え込むようにぐっと息を飲む。
だが、アリスのほうは何のわだかまりもないようだった。
涼しい顔をして、零の目の前まで近づいてきたかと思うと、フッとくったくのない笑顔を見せる。

「おまえ…」

哀しみとともに怒りのようなものが沸き起こる。
それは彼女に対して、というよりも自分に対してのものだ。

(なぜ、もっと早くに俺に話してくれなかった?
 なぜ、もっと早くにおまえの苦しみに気付いてやれなかった?
 なぜ… なぜ…)

身体が震え出しそうなほどの感情の高ぶりを、両手を握りしめて必死に抑えるしかない。
そうしているうちに、アリスもまた、スッと零から遠ざかっていった。

「待てよっ!」

(俺はおまえに言ってやりたいことがまだ山ほどあるんだ。
 おまえに見せてやりたかったものも、おまえにしてやりたかったことも沢山、沢山…)

「くそっ…」

留めきれない感情を吐き捨てるように悪態をつく零。
だが、言葉とは裏腹に、零は泣き出しそうな顔をしていた。





  ゼロ…  ゼロ…

遠くから聞こえる声に、零はハッとして目を覚ました。
シルヴァが零を呼んでいたのだ。
どうやら、今までのことは夢だったらしい。

『ゼロ、起きて。指令よ』

廃墟と化した洋館の一室。
色褪せて元の色も解らない壁紙。
鍵が壊れ、風に揺れている窓の鎧戸。
崩れた壁の破片が散乱する床。
傷だらけで塗装の剥げた丸椅子に座り、剥き出しになった柱に背を預ける格好でいた零は、シルヴァに答えた。

「ああ、シルヴァか…
 悪い、すっかり眠っちまってたようだな」

しっかり寝た割りには、くたびれたように生気のない零。
それも道理で、零は、あるときを境にして、

「とにかく、じゃんじゃん仕事くんないかな?
 どんな仕事でもいいからさ…」

とホラー狩りの仕事に今まで以上に打ち込んでいった。
どんな低級ホラーであっても、仕事をしているうちはアリスのことを忘れられるからだった。

  救えなかった生命…
  救いたかった生命…

何をどう考えても、行きつくところはそこだった。

『悪夢でも見たの?』

じっとりとかいた汗を零は拭(ぬぐ)っていた。

「…まあね」

言葉少なに返事をする零は、笑っているようで笑えていなかった。

「そんなことより、指令なんだろ?
 どっちに向かえばいいんだ?」

立ち上がって埃を払いながら、シルヴァに仕事の指示を尋ねる零に、

『貴方、最近ちょっと働き過ぎよ?』

とシルヴァは心配そうに言う。
いつもなら、

「だ~いじょうぶだ、って! 俺を誰だと思ってんの?」

とかなんとか軽口を叩く零で、シルヴァもそういう零を少しばかり期待していたのだが、零は、

「心配はない。さ、どっちだ?」

と答えた零に、シルヴァは小さく溜め息をついた。
だが、すぐに、気持ちを切り替える。

(ゼロ… わたしは貴方を精一杯サポートする… それがわたしの役目だから…)

そう思い直したシルヴァは、気を引き締めるようにグッと力を込めて零に檄(げき)を飛ばした。

『ここから西に2kmといったところかしら。
 相手は小兵(こひょう)。貴方なら、ものの5分で片付けられるはずよ!』

「OK!」

二ヤッと笑みを浮かべた零は、次の瞬間には窓枠から身を乗り出し、コートを翻してダイブしていた。
零は雑草が蔓延(はびこ)る庭へと降り立つと、次の瞬間にはターゲットへと風のように走り出していた。




悪夢から銀牙を守ってくれますようにと、ドリームキャッチャーを作った少女は、今はもういない。
だが、零の背には、ドリームキャッチャーの意匠が揺れていた。

いつの日か、彼の悪夢が消え去りますように…
いつの日か、そう願い、零が戻ってくるのを待ち続ける人たちがいることに、零自身が気付けますように…
そして、いつの日か、零の名を優しく呼ぶ声に出会えますように…

fin
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妄想の冒頭部分は、DRAGON BLOODの最終話のラストに近いシーンとオーバーラップする感じで書き始めてみました。
零が魔戒騎士のいつものスタイルではなく、白いブラウスを着ていて、道寺や静香たちと暮らしていた頃のいでたちで芝生に寝転んでいる、あのシーンです。

そう言えば、DRAGON BLOODのキャッチコピーは「これは、涼邑零の"新たな始まり"の物語である。」らしいのですが、新たな始まりとは? 何が始まったのだろう? 新たな「苦しみ」の始まりなんだろうか?

牙狼1期からずっと思い続けていることがあって、それは「いつの日か、零もしあわせに…」ということなんですが、10年以上経った今に至っても、いまだ公式様では彼のしあわせが見えません… 悲しいな… (ノД`)・゜・。

ところで、書いていて思ったのですが、零を取り巻く女性たちは、零のことをそれぞれ別の呼び方をしているのですね。銀牙、零、ゼロ…
そう言えば、カオルちゃんは「零くん」だ…

涼邑零という男は、相手によってそれぞれ別の顔を見せているんでしょうね。きっと…

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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も5年を経過しましたが、まだ飽きていない模様…



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