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きんのまなざし ぎんのささやき

牙 狼(冴 島 鋼 牙 Ver.)の世界を、気ままに妄想した二 次 創 作 サイトです

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おまえのせい(9)

なかなか直接対決に行きつけない…
今夜こそは!  …と書き始めてみましたが、やっぱり。

いいかげん飽き飽きしている頃でしょうが、もしもお情けがありましたら、今しばらくお付き合いくださいませ。 (;人;) お・ね・が・い!


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薄汚れた窓ガラスを通して、ねじれたような月光が忍び込んでくる。
闇の中で目を覚ましたジョアンは、隣に眠る男の顔をじっと見つめていた。
小さな部屋の中には夜具の他には家具らしい家具もなく、オリトの寝息だけが規則正しく響いているだけだったが、ジョアンにとってはそれだけあれば十分と思えた。
ふと、ジョアンはオリトの額にかかる前髪に手を伸ばしかけた。
だが、あと数cmというところでその動きを止め、哀しげに吐息をついて手を引っ込めた。
オリトの寝顔には、どことなく苦しげな表情が浮かんでいた。
それは間違いなく、’あのこと’ が関係しているのだろう…



今日の午後、いつもより早い時間に戻ってきたオリトの様子にただならぬものを感じ、ジョアンは不安を覚えた。

「どうしたの? 何かあった?」

早鐘を打つような鼓動を感じながら、ジョアンはオリトに尋ねた。

「ジョアン…
 俺たちの追っ手は、あの冴島鋼牙だ」

死刑宣告でもするかのような重々しい口調でオリトは告げた。

(サエジマ… あの黄金騎士の!?)

人を喰らうことに空腹を満たす以上の意味を見いだせないような、ホラーとしては落ちこぼれのようなセクメトであっても、その魔戒騎士の名は知っている。
’ホラーは斬る’ という魔戒騎士の使命を、どんな相手だろうとその男は必ず果たす… と聞いたことがあった。奴には決して近づくな、とも。
そんな男が相手だとすれば、セクメトにとっては万に一つの望みもないだろう。

「…」

無言のうちに、オリトとジョアンはそれぞれ考えに耽(ふけ)っている。
だが、そうたくさんの選択肢があるわけではない。

  オリトも自分も共に生き残ること
  どちらか一方が犠牲になり、一方は生き延びること
  そして、ふたりとも冴島鋼牙の前に倒れること…

これからどうすればいいのか、どうなる可能性があるのかを懸命に考えてみるものの、自分の望むような結果は見えそうにない。
セクメトが唯一この世に縋(すが)りついている理由… オリトと一緒にいたい、という願いは、どこをどう間違えたって叶わないのだ。

「ジョアン…」

重苦しい雰囲気の中、オリトが口を開いた。

「ザリに言わせると、お前から感じる邪気はものすごく弱いらしい。だから…
 おまえひとりなら冴島鋼牙の目を逃れてこの街を離れ、どこか遠いところで生き延びることもできるかもしれない」

鋼牙に会ってからずっと考えていたであろうオリトは、ジョアンにとって… いやホラー セクメトにとって、最もよいと思われる選択肢を口にした。

「…」

ショックを受けた様子で黙ったままのジョアンにオリトはさらに畳みかけるように言った。

「俺と行動を共にしていたのでは、おまえが助かる道はない。
 奴の関心を俺が引きつければ、ひょっとしたら…」

「…」

同意も反発もせずジョアンは黙ってうつむいていた。

この提案を彼女が承諾しても跳ねつけても、オリトは心から得心することはできないだろう。
彼女がどういう決断をくだすのか…
答えの出せないジョアンのことを、オリトは哀しみをたたえた目で見つめるしかなかった。



暗闇の中でジョアンの目が光った。
潤んだような瞳には、ある決断をした強い光が宿っている。

(オリト… ありがとう。 …あたし、行くね)

ジョアンはオリトを起こさないようにそっと寝床を離れると、音もなく部屋を後にした。





姿を消してしまったジョアンを追って、オリトはとりあえず外に飛び出したはいいが、案の定、ザリがセクメトの邪気を感じることはできなかった。
どういう陰我から生まれたホラーなのか判然としないが、セクメトには人を喰らいたいとか、おのれの欲に溺れたいとかいった邪気が非常に希薄だったからそれも仕方がない。
このままぼぉーっと立ち尽くしていても仕方がないので、オリトは気の向くままに歩き回ってみることにした。
そうすることでうまくすればジョアンが見つかるかもしれないと思ったし、もし見つけられないとしても… そう悲観することはないだろう。
ザリに見つけられないとしたら、冴島鋼牙の持つ魔導具だって同じようにジョアンを見つけられないはずだ。
そう思うことで、オリトは自分の焦りを鎮めようとした。


『ねぇ、ひとつ聞いていい?』

あてもなく徘徊しているところで、少女のように無邪気な声のザリがオリトに話しかけた。

「なんだ?」

『もしも… もしも、よ?
 ジョアンがオリトのそばを離れようとしてたら、どうするの?
 黙ってそれを許すの?』

「ああ… そのときは好きなようにさせるさ」

『そっか…』

「とにかく、今はできるだけ急いでジョアンを探してほしいんだ。
 冴島鋼牙よりも早く…」

『うん、わかった!』

ザリは、少し弾んだ声で返事をした。

これまで、ザリはジョアンを失ってからのオリトの行動を、魔戒騎士として正しいことだとは思っていなかった。
だが、彼と契約を結んだ以上、彼の望むことを(たとえそれが間違っていたとしても)叶えてやるのも魔導具として取るべきスジだとも思っていた。
その彼が、ようやくセクメトとの別れに踏み切ろうとしているのだ。
このまま何事もなくセクメトとの関係が切れれば、ひょっとしたらオリトに魔戒騎士としての生きる可能性もあるかもしれない。
魔戒騎士としての彼を失うのは、その腕前や人柄から言っても実に ’惜しい’ ことだと思っている。
ザリは、オリトの未来にわずかばかりの望みを持ちながら、セクメトの探索に集中することにした。

あちこち彷徨うこと、1時間あまり。
ひょっとしたら、セクメトはすでにこの街を抜け出したのかもしれない… と考え始めていた頃、ザリが鋭く叫んだ。

『オリト!
 ホラーの気配だよ』

「なに!」

ザリの言葉に、ジョアンはまだ街を出ていなかったのかという大きな失望と、自分のそばにいてくれるかも… というほんの少しの安堵感をオリトは感じた。

『街の南西、高台にある住宅地のほうだよ』

「…」

オリトは返事をするのももどかしく、風のように走り出した。





その頃。
オリトと同じように、ホラーを追っていた鋼牙たちにも張り詰めた空気が流れた。

『鋼牙、邪悪な気配だ!』

低い声で注意を促すザルバに無言でうなずく鋼牙。

『やっこさん、とうとう出てきやがったぜ。
 思いのほか長い遠征になっちまったが、今夜でケリを付けるとしようか?』

ザルバはいつものように力の抜けた口調で鋼牙に声をかけると、鋼牙は表情を変えずに短く答えた。

「承知!」



to be continued(10へ)
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…



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