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きんのまなざし ぎんのささやき

もしもの話(15)

パカ、パカ、パカ、…
馬の背に揺られる王子様とお姫様。
おとぎ話の世界ではとても美しいシーンですが、こちらのふたりはこのまま「めでたし、めでたし」とはいきません。
さてさて、どうなることでしょう。


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コーガは愛馬ゴーテにヒラリと跨りました。
そして、カオルンに向かって無言で手を差し出します。

いつもの目線よりもさらに高いところから見つめられて、カオルンはちらっと見上げましたが、すぐに決まりが悪そうに目線をそらしました。
ですが、その手を取らなければゴーテに跨ることはできなません。
おずおずとコーガに自分の手を近づけたところ、コーガの手がぐいっと近づいてカオルンの手を掴みました。

(あっ)

と思ったときには、ごつごつとしてそのくせとても温かい手に包まれて、カオルンの身体は軽々と宙に浮いていました。
コーガの後ろにストンと腰を落ち着けると、首だけを後ろに向けてコーガは言いました。

「しっかりつかまっていろ」

カオルンは

「うん…」

と小さく返事をしてコーガの腰に手を回します。
けれども、気まずさのため遠慮があります。

「…」

そのカオルンの様子にコーガは少し眉根をひそめましたが、何も言わずにゴーテの首を城の方に回しました。
いつもよりもかなり乱暴な馬の扱いのため、ゴーテの背は大きく揺れました。

「あっ」

小さく声をあげたカオルンは、落ちないように慌ててコーガに捕まる手に力を込めます。
すると、ほぼ同時に、カオルンの手の上からコーガがしっかりと握り締めました。

「言ったじゃないか。しっかりつかまっていろ、と…」

コーガの声が、しがみついた背中を伝ってカオルンに届きます。

「…ごめん」

そう呟いたカオルンの声も、コーガは背中で感じます。





そのまま会話もないまま、コーガはゴーテを進めます。

ゴーテの蹄が地を踏む音とそれに合わせた規則的な揺れ。
そして、感じるコーガの背の温もり。
けれども、こんなに近くにいるのに、コーガをどこか遠くに感じることを、カオルンは寂しく感じていました。

しばらくして、ふぅっとコーガがひとつ、ため息にも似た息を小さく吐きました。
それを機に、カオルンは

「…ごめんなさい」

と謝罪の言葉を口にします。

「何を詫びる?」

コーガの低い声に、カオルンは心臓をきゅっと掴まれたような心地がします。

「あたしがホラーに捕まったりして… コーガやレイくんを危険な目に遭わせたりして…」

「…」

コーガの無言がより一層、カオルンを苦しくさせます。
少しの間をおいてから、コーガの穏やかな声が聞こえます。

「ゴーザンや城の者もみな心配したぞ?」

「そうだよね… それは、考えないことはなかったけど、それでもあたし…」

そう言って唇を噛むカオルン。

「ひとりでずっと悩んでいたのか?」

穏やかな中にも少し哀しさの混じったコーガの声が尋ねた。

「ずっと?
 自分ではあまり意識してなかったかもしれないけど… そうだね、多分、心のどこかにはあったのかも…」

そう言いながら泣きそうな自分にハッとして、深呼吸を繰り返し、必死に気持ちを落ち着かせようと試みるカオルン。
だが、それも長くは続かなかった。

「…つらかっただろう?」

コーガの労(いた)わるような声が、カオルンの気持ちを震わせます。

「コーガ…」

大きな瞳から涙が零(こぼ)れるととともに、潤んだ声が呟いていました。
流れるままに溢れた涙を流すカオルンに、コーガは何も言いません。
いえ、慰めたい気持ちはあるのですが、何をどう言えばよいのかわからないのでした。
コーガはただ、腰に回された彼女の手を優しく優しく撫でることしかできません。

やがて、ひとしきり泣いた後、ひっくひっくとしゃくりあげる声が聞こえだすと、カオルンはまた謝りました。

「…ごめんなさい」

それを聞いて、コーガの顔が切なげに歪みます。

「謝るのは俺のほうだろう?
 おまえひとりを苦しませていたようなものなのだから…」

「ううん、ううん、そんなこと…」

コーガの背で、カオルンは懸命にかぶりを振ります。

「コーガは悪くないっ!
 あたしがちゃんと子どもが産めてたらこんなことにはっ…」

「それを言うなら」

カオルンにみなまで言わせず、コーガは少し強い口調で言葉を被せました。

「俺だって同じだ。
 相手が俺でなければ、今頃、おまえは子を産めていたのかもしれないだろ?」

「そんな…」

「そんなことはない、とは言い切れないはずだ。

 とにかく、子どものことはふたりの問題だ。
 どちらか一方だけのせいじゃない」

きっぱりとそう言い切るコーガにカオルンは嬉しさを感じつつも、やはり避けては通れない事実から目をそらすことはできません。

「でも… コーガはこの国の王なんだよ? だから、やっぱりふたりだけの問題じゃないでしょ?
 王の子を産むのが妃の務め。だったら、その務めを果たせないなら、あたしは…」

それを聞いて、コーガはとうとう馬の脚を止めました。

「降りろ…」

「えっ?」

「いいから、降りるんだ」

「…」

静かな低いコーガの口調に、カオルンは戸惑いながらもコーガの手を借り、降りました。
カオルンに続いてコーガもゴーテの背から降りると、カオルンの前に立ちます。
その表情は厳しく、怒っているようにも見え、悲しんでいるようにも見えます。

「王の子を産むのが妃の務めだと言うのなら、妃に子を孕ませるのは王の務めということになる。
 だとしたら、俺は王としての務めを果たしていないということになる。違うか?」

「えっ? そんなことない!」

カオルンは慌てて否定します。

「コーガはいつだって国のために働き、国の民たちも身を賭して守っているもの!
 コーガはこの国の立派な王だよ?
 王としてちゃんと務めを果たしているよ?」

「ならば、おまえも務めを果たしているのではないか?」

そう言うと、コーガはカオルンの腰を引き寄せました。

「妃の務めは、王を支えること…
 俺の許しなしにどこにも行くな」

カオルンを引き寄せる手に力がこもり、コーガは熱い唇をカオルンに押し付けました。

「… ん…」

思わずこぼれるカオルンの吐息に、コーガは一層強くキスを深めます。
名残りを惜しむように、何度か離れてはつき、ついては離れることを繰り返してから、ようやくコーガはカオルンの唇から離れました。
そのときにはもう、カオルンはコーガの支えなしに自分の足だけでは立っていられないくらいになっています。

「すまない。加減ができなかった…」

コーガはカオルンに謝り、優しく頬を撫で、髪を梳(す)きました。

目の端に涙を貯めたカオルンは、

「コーガ…」

と名を呼び、すがるようにその胸に顔をうずめました。




to be continued(16へ)
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も5年を経過しましたが、まだ飽きていない模様…



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