忍者ブログ

きんのまなざし ぎんのささやき

呪縛を解き放て(10)

よいこのみんな~!
もうちょっとだけお話が残っているんだよ?
眠たい目をもう少しだけ開けていられる?

王子とカオルンが、’ウィドーの館’ を出て帰るところだったよね?

さぁ、今夜のお話が始まるよぉ~


::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

森の小径をゴーテの背に揺られながら、王子とカオルンは城に向かって
戻ります。
数時間前に同じこの道を行ったときは、不安で不安でたまらなかった
カオルンも、今は王子の温もりを感じながらすっかり安心しきって
います。

ですが、ひとつだけ気になっていることが…
そう! 帰り際にターリアが渡したあの荷の中身です!

先程から王子はずっと黙ったままでしたので、この分ではカオルンから
聞かない限り、何も教えてくれないでしょう。
そこで、思い切ってカオルンのほうから聞くことにしました。

「あの… 王子?」

首を王子のほうに捻り、見上げました。
木立の間からこぼれる光を受け、それがあまりにまぶしくて王子の顔は
よく見えません。

「なんだ?」

王子はカオルンの方は見ずに前を向いたままのようでした。

「あの荷物の中身はなあに?」

「それは…」

どうしたわけか、王子は即答できずにいました。
そのとき、ふたりを乗せたゴーテが大きな木陰に入りました。
すると、それまでまぶしかった日光が遮断されたために、カオルンの目に
王子の表情がはっきりと見えました。
王子は心なしか顔が赤くなっているようでした。

「城に帰ってから渡してやる」

カオルンの視線を気にしつつ、王子は照れ隠しのためか、わざと
ぶっきら棒に言いました。

「えっ? あれって、あたしにくれるの?

 それって… あたしへのプレゼントってこと?」

カオルンはワクワクしながらも、その興奮を抑えて聞き返しました。
なぜなら、カオルンは今までに王子から何ももらったことがないから
です。

「…そうだ」

王子は肯定こそしましたが、それ以上は何も言ってくれないようです。

  カッポ、カッポ、カッポ…

ゴーテの蹄(ひづめ)の音だけが聞こえます。

「…」

並みの人間であれば、自分から話したがらない王子の様子を見ると、
すごすごと引き下がるところですが、相手がカオルンでは話も
変わります。

「ねぇ? 今、見ちゃだめなの?
 あたし、すぐに見てみたいなぁ~」

王子の顔を下から覗き込むようにして、素直にねだってみました。

「…

 城に帰ってからでいいだろう?」

王子の眉間に不機嫌そうにシワが入ります。
でも、カオルンは諦めきれません。

「え~っ!
 今見たい! ここで見たい! すぐに見たい!
 ねぇ、いいでしょ? いいでしょ?」

カオルンは今度は王子の胸にすがりついてグイグイと迫ります。
そのあまりの迫力に、王子は思わず手綱を引いてゴーテを止めました。

「おい、あぶないだろ! まったく…

 ここで見ても、城で見ても一緒だろう?」

不機嫌そうに言う王子でしたが、カオルンにとってはそんなことは
少しも気になりません。
’見たい’ という好奇心のほうがずっとずっと強くて、どうにも
我慢ができませんでした。

「王子にとってはそうかもしれないけど、やっぱり、あたし…
 すぐに見たいっ… です」

最後だけ取ってつけたようにしおらしく言いながら、カオルンの目は
’早く見せて’ と訴えてます。

カオルンを見下ろすようにして見ていた王子は考えます。
’ウィドーの館’ で魔法をかけられていたところを、カオルンは
みずから救い出しに来てくれたのです。
それを思うと、王子としてもあまり強くも言えません。

「しょうがないな…」

王子はそう言うと、ゴーテから降りました。
そして、カオルンも抱き下ろすと、もう1頭の馬の背にくくりつけた
荷物の袋を下ろし始めました。
袋の口の紐をほどき、中から大きな箱を慎重に取り出します。
そして、

「開けてみろ」

とカオルンに言いました。
カオルンはドキドキしながら、箱の前にしゃがみました。
箱の蓋に手をかけ、そっと開け、中を覗き込みました。

「わぁ~♪」

中身を見て、カオルンは声をあげました。
目をキラキラさせているカオルンの横顔を見て、王子の眉間から
シワは消え、少し優しい顔になりました。

カオルンは箱の中に両手を差し込むと、中の物を注意深く取り出し、
取り出したものを箱の横にコトリと置きました。
ほぉっと息をついたカオルンは、置いたものをしげしげと眺めます。

それは、植木鉢でした。
植木鉢からは水仙の葉に似た細長い葉っぱがピンピンと元気よく出ていて、
濃いピンク色の蕾がいくつも空に向かって突き出ていました。
細くとがった細長い蕾は、どこか凛とした風情もあります。

しばらく見ていると、暖かな日差しを受けたために、蕾が少し開いて
きました。



「これ、何の花?」

花の形はチューリップに似ていますが、葉っぱの形がカオルンの
知っているチューリップのものとは全然違います。

「レディ・ジェーン…
 別名を ’貴婦人のチューリップ’ というらしい」

「へぇ… 素敵ねぇ」

カオルンはうっとりと見とれていました。
が、すぐにハッとして王子を振り向きました。

「ひょっとして!
 この花のために、王子はあの館に行ったの?」

「…まあな」

「どうして?」

「いつか、おまえが言っていただろう?
 花の絵を描きたい… と」

(そう言えば…)

王子の言葉を聞いて、カオルンは記憶をたぐりました。

サエジーマ王国には四季があり、冬は真っ白な雪に閉ざされることも
ありました。
とは言え、城のあちこちには美しい花々が花瓶に活けられていたので、
絵を描くことが好きなカオルンは、それを絵の題材にすることもありました。
でも、やはり、早く暖かい春が来て、小さくても力強く野に咲く花々を
描きたいな、と王子にこぼしたことがあったのです。

言った本人は、そんなことをとうに忘れていたことでしたが、王子は
それを覚えていたらしいのです。

「森の奥に珍しいチューリップを咲かせる者がいると聞いたことが
 あってな。
 それを分けてもらおうと、訪ねてみたのだ。

 ところが、行ってみると、そのチューリップを育てていた男は
 2年前に死んだという。

 とはいえ、チューリップのほうは、夫人とターリアというあの女中が
 ずっと大切に温室で育てていたそうだ。

 あの者たちが森の奥の館に留まっていたのも、今は亡き主人の遺した
 この花を、森の外に運び出す術(すべ)もなく、あの場所でずっと
 育てるためでもあったのだ…」

王子はそう言うと、カオルンのそばで片膝をつき、開きかけている
蕾のひとつに手を差し伸べました。
その目は優しく、そして少し寂しそうでした。
かつての館の主人を想う気持ちから、森を離れられず、その気持ちを
魔物につけこまれた老婦人のことを思いだしているのかもしれません。

カオルンは黙って、王子に寄り添いました。

「あの方たちが森を出て城下に暮らすのをお手伝いできないかしら?
 ご主人が遺していった花々も一緒にお引越しできたら、どんなに
 いいでしょうね?

 そしたら、ほんの少しでいいから、お城にもこのお花を分けて
 もらいましょ?」

カオルンはにっこり笑って王子に言いました。
王子の目がカオルンを見て、より一層優しいものになりました。

「あぁ、そうだな」

微笑み合い、寄り添い合って、王子とカオルンはレディ・ジェーンを
眺めます。



「ところで…」

カオルンはふと疑問に思ったことを王子に聞いてみました。

「この花を手に入れるのは、何も王子がじきじきに足を運ぶ必要は
 なかったんじゃないの?」

そうです。
サエジーマ国は小さいとはいえ、れっきとした王国であり、王子とも
あろう人が気軽にどこにでも出歩くわけにはいきませんでした。
城にはゴーザンをはじめとして何人もの使用人がいますし、王国を
守るためのたくさんの兵隊もいます。
もし、誰かに頼んでいれば、王子はこんな危ない目に遭わずにすんだ
はずです。

「それは…」

王子は口を開きました。

「誰か他の者に取りに行かせたとして…
 そんなものをもらったら、おまえは嬉しいだろうか?」

その答えを聞いて、カオルンの顔は眩しいくらいに輝きました。
王子は、カオルンに贈るものを、自分で手に入れようとしてくれたの
です。

「王子!」

そう言うと、嬉しさのあまり王子に抱きつきました。
王子はそんなカオルンをしっかりと抱き留めると、やがて、見つめ合った
ふたりの顔がひとつに重なりました。




その後、王子の助けを借りて、老婦人とターリアはお城のすぐ近くに
小さな家を借りて暮らすことができました。
ターリアは、使用人としての高い能力とゴーザンの強力な後押しのお蔭で
お城に勤めることになり、すっかり弱って小さくなってしまった老婦人の
お世話をしながら、王子やカオルンたちにも一生懸命ご奉公しました。

そして、森の奥の温室で育てられていた花々は、お城の大勢の人の手に
よって、すべてお城の庭に運ばれました。
庭師のノーマンと孫娘シャロンは、ターリアからいろいろ教えてもらい
ながら、’貴婦人のチューリップ’ を大切に育て、年々数を増やして
いきました。

春になったら、お城の庭を覗いてみてください。
風に揺れるレディ・ジェーンが元気に咲き誇っているでしょう。

そして…
王子とカオルン、レイとシャロン、そして、ゴーザンとターリアの
しあわせそうな笑顔が、あなたを迎えてくれるでしょう。


fin
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::



(またまた)囚われの身となった王子を助けるお話でした。
なぜだか、ヒロインじゃなく、いつだって王子が魔法にかかっちゃう…

そして、今回のお話も、救出成功でおしまい、とはすんなりいかず、
どうして王子があの館に行ったのか? という種明かしをしたところで
ようやく ’めでたし、めでたし’ です。

今回出てきたチューリップ!
お話を書いている途中で

「そうだ! もう春だし、チューリップを出そう!」

と急遽思いついてネットで検索した次第です。
(毎度のことですが、行き当たりばったりですね… ┐(-。ー;)┌ヤレヤレ)

そんなわけで、チューリップの画像をいろいろチラ見していたのですが、
なんとも ’らしからぬ’ 姿のチューリップを発見!
それが、このレディ・ジェーンという原種系のチューリップでした!

事のついでに、チューリップの花言葉を調べてみたのですが、色に
よって違うのですね。

 赤  愛の告白・愛の宣告
ピンク 恋する年頃・愛の芽生え・誠実な愛
 紫  不滅の愛・永遠の愛・私は愛に燃える
 黄  実らぬ恋・望みのない恋
 白  新しい恋・失われた愛・失恋
まだら 疑惑の愛

ピンクの「誠実な愛」はコーガ王子のカオルンへの想いでしょうか?
そして、白の「失われた愛」は旦那様を亡くした老婦人…
それとも、ゴーザンとターリアの「新しい恋」かな?

なんだか結果的に、このお話にはぴったりのお花みたいですね。

さて、チューリップって球根を埋めたり、掘り起こしたりといった
お世話が面倒なイメージですが、原種系のチューリップは植えっ放しで
いいんだとか…
色や種類もいろいろあるみたいですよ!

レディ・ジェーンは蕾がとっても素敵です。
ピンク色のツンと尖った姿は気品があります。
でも、開花すると白い花びらがパッと開き、実にチャーミングなんですよ。



素敵な画像は
http://sozai.yutorilife.com/h_tyu-rippu02.html
こちらからから頂きました。
素敵なお花の画像がいっぱいです。

拍手[23回]

コメント
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
すみません!
本日の妄想アップはできそうにありません。
どんなふうに展開しようかまだ迷ってまして…
うまくしたら明日にでも、とは思うのですが、
きちんとお約束するのも難しく…
どうか、どうか気長にお待ちくださいませ!

2017/11/19
selfish

selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も5年を経過しましたが、まだ飽きていない模様…



夕月 様[07/15]
夕月 様[07/14]
夕月 様[06/16]
夕月 様[06/15]
ナサリシチ 様[06/08]
こちらから selfish 宛にメールが送れます。
(メールアドレス欄は入力しなくてもOK!)

こちらからゲームが楽しめます!
(もちろん無料!)



脳が飛び出す回転パズル くるポト
PR
忍者ブログ [PR]
Template by repe