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きんのまなざし ぎんのささやき

女というヤツは(3)

いよいよ扉が開いちゃうよ!
開けられちゃうよ!

ここまで焦らしておいて、自分でハードルを高くしちゃった感じがあって、かなりドキドキしてます。
こんな展開でどうかな~? どうかな~?


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「誰かいるのか?」

少し警戒するような鋼牙の声がして、ガラス戸の向こうに黒っぽい影が見えた。

(ちょ、待って、待って、待ってぇ!)

カオルは慌てまくってしまい、なかなか声にならない。
ようやく、

「開けちゃだめっ!」

という声が出たのは、ガラス戸が開かれ始めたときとほぼ同時だった。

 ピタッ

10数cm開かれた状態でガラス戸は止まった。
浴槽の隅に身を縮こませて、カオルは息を飲んでドアを見つめる。
こめかみの部分に心臓があるみたいにドクドクという強い鼓動を感じながら、固唾を飲んで相手の出方を待った。

すると、

「なんだ、おまえか…
 どうして電気もつけずに入ってるんだ?」

と拍子抜けするほど平然とした声が聞こえた。
てっきり覗かれるものと思っていたが、ドアにかかっている右手が見えるだけで、それ以上鋼牙がこちらに姿を見せることはなかった。

「そ、そんなこと… あ、あたしの勝手でしょ?
 このほうがあたしは好きなの!
 それより…  そのドア、早く閉めてよ!」

カオルは薄暗い風呂の中から、見えない鋼牙を睨んで言った。
しかし、そう言った後になって、カオルは「しまった!」と思うのだった。
だって、そうだろう? これまでの鋼牙とのやりとりを振り替えると、こんなケンカ腰に言ったのでは向こうだってヒートアップするのは容易に想像できたからだ。
カオルとしてはできるだけ早くこの男にこの場から立ち去ってもらいたいなのに、これでは逆効果になってしまう。

それに…
こちらは素っ裸なのだった。
鋼牙がぐいっとドアを押し開いてこっちを見る… たったそれだけで、カオルのほうは立ち直れないほどの強烈なダメージを受けることになる。

「…」

しばらく沈黙が続いたが、それも時間にしてみれば数秒のことだったろう。

「あがったら、声を掛けてくれ。
 書斎にいる…」

鋼牙は不機嫌そうな声でそう言っただけで、カオルの返事も聞かずにバタンとガラス戸は締められた。

緊張感の中、風呂の中で身を固くしていたカオルは、鋼牙が脱衣所から出ていったらしい気配を確かめてから、ふ~っと力を抜いた。

(焦ったぁ…)

まだドキドキしていた。
だが、そうのんびりもしていられない。
モタモタしたせいで、あいつがまた戻ってくるのは困る。ものすご~~~く困るのだ!
それに、あいつだって雨で冷えた身体を早く温めたいはずだ。
よく考えてみれば、いつもよりはずっと紳士的に接してくれたのだから、こっちも誠意を込めて応えたいではないか?
エイッと立ち上がったカオルは、そそくさと身体を拭いて風呂からあがると、用意しておいた着替えを手早く着こんだ。



憮然とした顔で廊下へと出てきた鋼牙が、小さく息を吐いた。
すると、

『くっくっくっ』

と、それまで笑いをかみ殺していたザルバが鋼牙をからかう。

『どうした、鋼牙ぁ~
 てっきりいつものようにあのお嬢ちゃんに喰ってかかるのかと思ってたが…
 今日はずいぶん大人しかったな?』

「…」

ザルバに無言で忌々しそうな視線を送っていた鋼牙は、

「フンっ」

と鼻を鳴らしただけで書斎へと歩き出した。
が、歩き出してすぐに、とある後悔の思いがよぎった。

(しまった!
 タオルのひとつも持ってくるんだった…)

髪から滴(したた)る水滴が襟足から侵入してくるのだ。
とは言え、タオルを取りに今戻ると、風呂からあがったカオルと鉢合わせしてしまう可能性が非常に高いので、戻るわけにはいかなかった。
もしそうなれば、先程の何倍もの勢いで非難の言葉を吐きつけられるだろう。

(そんなのは御免だ…)

諦めにも似た気持ちを抱えて書斎にたどりつくと、黒革の椅子に身を投げ出すようにして座った。

『ここはお前の家だっていうのに気の毒なことだな。
 あんなお嬢ちゃんひとりのために、風呂のひとつも自由に入れないばかりか、濡れた髪を拭くことすらできずにいるとは…』

言葉とは裏腹に面白がっている気持ちを隠そうともしないザルバが、鋼牙を苛立たせる。

「なんとでも言ってろっ」

そう言うと荒々しく魔導輪を指から抜き、卓上の木箱の中から出した台座にカチャリと戻した。



それから、さほど待たずに、お風呂あいたから、と書斎のドア越しにカオルの声がした。
鋼牙が、わかった、と返事をすると、なにやらボソボソという彼女の声が聞こえた。
待たせて悪かった… とかなんとか聞こえた気がしたが、鋼牙は聞こえなかった振りをして何も答えなかった。

白い湯気が立ち込める中、なみなみと張られた湯の中にゆっくりと身を沈めると、鋼牙の冷え切った身体にチクチクとした痛みが走った。
だが、それも束の間のことで、強張った筋肉がじんわりとほぐされていくような感覚に代わっていく。
そして、鋼牙の頭の中から何もかもが消え去っていく。
冷たい雨のことも、ホラーのことも、魔界のことも…
そう、ホラーの血に染まりしあの女のことも。

…と、鋼牙の目に、彼女が来てから並ぶようになったカラフルな色のボトルが見えた。
それに気づいたとき、たった今、消えていたあの女のことが思い出され、鋼牙の嗅覚は花の香りのようないい匂いを意識しだした。
あの女… 御月カオルの髪から香ってくるのと同じ匂いだった。
そう言えば、これまでのゴンザとふたりだけでの暮らしは、(よく言えば)シンプルで合理的で整然としていて(悪く言えば殺風景で!)華やかさなど欠片もなかった。
それが、この数日の間に、浴室だけでなく屋敷のあちらこちらに少しずつ変化がもたらされているのが、目に、鼻に、耳に感じられた。

(フッ… おかしなものだ)

鋼牙の顔が少し緩んだ。
彼女と顔を合わせればいつだって子供じみた喧嘩になるというのに、今は彼女のシャンプーの香りに心が和んでいるのだから。
そのことに不思議な感覚を覚えながら、鋼牙は目を閉じて湯に深く身体を沈めた。



to be continued(4へ)
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も5年を経過しましたが、まだ飽きていない模様…



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