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きんのまなざし ぎんのささやき

闇夜の狼(2)

はい、しれっと書いてしまいました、続き… うふふ

しかし、難しいです、時代物…
庶民はお茶なんて飲んでたのかな?
あと、芝居小屋ってどこらへんにあるの?


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「おカオ、おめぇも気を付けろよ」

ゴン造が唐突に声をかけてきたので、娘のおカオは驚いた。

ここは、一膳めし屋の倉橋屋。
この店の店主はゴン造だったが、店のほうはもっばら娘のおカオと通いの料理人でまかなっており、ゴン造自身は奉行所の御用聞きをしていた。
人間、めしを食べているときは口が軽くなるものらしく、ゴン造が店の隅っこに座って店の客に一言二言話を振ってやると、実体験といった信憑性のある話から他人からの又聞きのそのまた又聞きといった眉唾なものまで、実に種々多用な話が耳に舞い込んでくるのである。
そんなふうにして聞き集めた話の中から、大きな災い事に発展しそうなことに対しては先手を打って大事にならないように始末をつけ、仕事を探しているだの嫁を探しているだのといった人にはちょいと口利きしてやったりするのがゴン造親分の得意とするところであった。
その情報通で、穏やかな人柄から、ゴン造は ’福耳の親分’ と呼ばれてこの辺の者からは頼りにされていた。
そんなゴン造が、客もまばらな店の隅でうつらうつらしているところに、手下(てか)のひとりがやってきて、耳にゴニョゴニョと何やら報告をした。
すると、その話にゴン造親分は腕組みをして難しい顔をしてうーむと唸っている。
その一連の様子を見て、おカオは

(何かよくない事が起きたみたいね…)

と思った。
というのも、殺しや身投げなどといった血なまぐさい話は、お客の食欲が落ちるから店では大っぴらに口にするなと、普段からおカオはゴン造や手下にきつく言っているのだ。

「ご苦労さま…」

おカオは白湯(さゆ)の入った湯飲みを手下の前に置いてねぎらった。
そして、すぐに店の奥に引っ込もうとしたときに、ゴン造からの「気を付けろ」の言葉がかかったのだ。

「なあに、お父っつぁん。何かあったの?」

おカオは父親の前に座り、小声で尋ねた。
店では血なまぐさい話はするなと言いつつも、やはり事件が気になるのは御用聞きの娘として、また江戸っ子の性分として仕方がないのだ。

「おカオ。おめえ、近頃、浅草の見世物小屋で評判の役者を知っているか?」

「評判の役者?」

「音弥(おとや)とかいう役者なんだが…」

音弥… その名を聞いておカオは、あぁと思い当たった。

「すっごく綺麗な顔立ちをしてるって言うんでしょう? まるで冴え冴えと輝く月光のような、とか言う…
 あっ、確か ’月影の音弥様’ とかって呼ばれてるんじゃなかったっけ?」

おカオの友だちでも「音弥様、音弥様」とうるさいのがひとりやふたりはいた。

「で、その役者がどうかしたの?」

「ああ…
 この二月(ふたつき)ほどの間に若い娘ばかりの勾引(かどわ)かしが頻繁にあってな…」

「勾引かし」というのは、人さらい、誘拐のことだ。

「その音弥とかいう役者に熱を上げてた娘ばかりが、わかってるだけでもひい、ふう、…4人いなくなってやがるんだ」

そう言うと、ゴン造は憮然とした顔をした。
自分も年頃の娘のある身だ。
かわいい娘に突然姿を消されたら、親としてはたまったものではない。
ただ… 親の心、子知らずとはうまく言ったもので、おカオのほうはゴン造の気持ちを慮(おもんぱか)ることもなく、

「それじゃ、その音弥が怪しいって言うの?」

と興味津々で、目をランランと輝かせている。
自分と似たような年の女子(おなご)ばかり勾引かされていると聞けば、普通の娘なら怖がるところだが、おカオは違った。

(まったく、小さい頃に母親をなくしたせいか、俺の育て方が間違ってやがったか…)

そんなふうに思いつつ、ゴン造は小さな溜め息をついてから、おカオに答えた。

「いや、それがどうもそういうことでもねぇみてえなんだ」

「どういうこと?」

「音弥という男は、自分の人気に舞い上がるような軽い男じゃないらしくてな。
 天狗になることもなく、普段は慎み深く、真面目な奴らしい。
 音弥をよく知る誰に聞いても、あいつはそんな大それたことに関係あるはずがない、って言うんだとよ」

「へぇ」

うなづきながら、おカオは思案した。そして、

「でも、お父っつぁん、人は見かけによらないっていうじゃない。
 大人しい顔をした人ほど何するかわかったもんじゃないでしょ?

 けどまあ、あたしへの心配は無用じゃないかしら。
 だって、あたしは役者なんかには興味がないから」

と、実にあっけらかんと言い放った。

「まあな…
 でも、万が一ってこともあらぁな。おめぇもちったあ気をつけろよ」

普段は優しく笑っているゴン造の目が、いつになく真剣で厳しい。

「わかったわ。
 そういう、お父っつぁんももう若くないんだし、あんまり無茶しちゃ駄目よ?」

そんな娘の優しい言葉に少しほろっとなりつつも、

「けっ、おめえに年寄り扱いなんぞされたくねぇよ」

とゴン造親分は憎まれ口をたたくのだった。





浅草。
「月影の音弥」と大きく書かれたのぼりの立つ芝居小屋の裏から、若い男が人目を避けるようにして出てきた。
足取りは急ぐでもなく迷うでもなく、ただ、視線だけは誰かを探すようにきょろきょろとせわしない。
だが、その視線がとある娘に注がれると、吸い付けられるようにピタリと動かなくなった。
その娘は友達連れで、若い女子が好むような安いが見栄えのするかんざしを扱う露店や、派手な着物の端切れで拵(こしら)えた巾着などを並べた店を眺めては歩き、歩いては眺めしていた。
男はその娘を後をつかず離れずついていく。
そして、その女が友達と別れたところでいっきに足を速めた。

「もし、そこの娘さん…」

肩を軽く叩かれた娘は

「えっ」

と驚いた顔で振り返った。

「いきなり驚かせちまって、すいやせん。
 もしや、あんた、音弥の芝居を見にきていやせんでしたかい?」

「え、ええ…」

突然声をかけてきた男に不審に思いながらも娘はうなづいた。

「ああ、やっぱり。
 一番前にいた娘さんでございやしょ?」

「あ、はい」

「あっしの顔に見覚えはござんせんか?
 音弥の芝居で恋敵の清吉をやってたんですが…」

そう言われて娘はまじまじと男の顔を眺めてみた。
正直なことを言うと、娘は音弥ばかりを見ていたので、芝居の筋書きも音弥以外の役者の顔もうろ覚えなのである。
たが、男にそうだと言われればなんとなくそんな感じがする程度には見覚えがあった。

「ああ…」

「実は、ここだけの話なんですがね…」

と言うと、口元に手を添えて急に声を潜めた。
すると、それにつられて娘のほうも耳をそばだてるようにしながら近づく。

「うちの音弥が、もう一度おめえさんに会いたいと言っているんでさぁ」

「えっ、音弥様が? ほんとに?」

戸惑いつつも、娘の顔に喜色が広がる。

「ああ。ほんとのほんと、間違いのねぇことなんで…
 ただ、おめえさんもわかると思うが、音弥も客商売なんでね。ひとりの娘に愛想を振りまくと途端に音弥の人気にも響くことになる。
 だから、誰にも知られずこっそり会いたいと…」

そして男は駄目押しのように囁いた。

「生涯でただ一度の女に出会った。この機会を逃すとぜってぇ、おいらは後悔する。
 だから、おめえさんを見つけて連れてきてほしい…
 こういうことを頼めるのは、幼なじみのおめえしかいねぇ、って音弥がおいらに言うんだよ」

娘は、まるで音弥にそう言われたかのようにうっとりした表情になっている。

「だから、一緒に来てくれないかい?」

娘はどうしようかと思いつつも、

「え、ええ… ほんのちょっとだけなら」

と返事をすると、

「ああ、よかった。これで音弥に顔向けできる…
 恩に着ますぜ!」

と男は言った。



to be continued(3へ)
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も5年を経過しましたが、まだ飽きていない模様…



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