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きんのまなざし ぎんのささやき

牙 狼(冴 島 鋼 牙 Ver.)の世界を、気ままに妄想した二 次 創 作 サイトです

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Shall we …(8)

舞踏会だっていうのに、カオルンがまだ踊っていません。
王子も踊っていません。
なんということでしょう、レイですらまだ…
(リーン王女は、まだ食べてるのかな?)

どうしてでしょう? (おかしいな~)



::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

~ side カオルン ~
カオルンは、今日、何回目かの溜め息をそっと漏らしました。

(あ~ぁ、あたしなんか誘ってくれる人、いやしないんだわ… はぁ)

カオルン自身は気付いていないようですが、実は、先程から、何人かの
男性が、ずっとカオルンのことを気にし出していたのでした。

(声をかけようかな…)
(でも、他のやつらも狙ってるみたいだし…)
(俺なんか誘っても断られるかな…)

いろいろな思惑が飛び交う中、互いに牽制し合って、声をかけられずに
いたのです。

そのとき…
そんな男たちの思惑をまったく気づきもせず、ひとりの男性がカオルンに
向かって真っすぐ近づいてきました。

俯きがちだったカオルンは、ハッとして顔をあげました。

カオルンの目の前には、振り仰ぐほど背の高い、見ず知らすの若者が、
はにかみながら微笑んでいました。

「あの… 間違ってたらごめんなさい。
 あなたは、カオルン?」

いきなり名前を呼ばれて、カオルンは怪訝に思いつつも、

「え、えぇ、そうですけど…」

と返事をしました。

「あぁ、よかったぁ~」

その青年のほっとして破顔した様子は、ひどく子どもっぽく見え、

(あっ、なんかかわいい…)

とカオルンは思いました。
男は少し顔を引き締めてから、改めて名乗りました。

「僕は、レオと言います。
 大叔母からあなたのことを聞いていて…」

「大叔母様?」

「あなたのそのドレス、大叔母のでしょ?
 グレイスは、僕の大叔母にあたる人です」

それを聞いて、ようやくカオルンは緊張が解けました。

「まぁ、伯爵夫人の?」

「はい。
 おまえも舞踏会に出るんだったら、カオルンというお嬢さんのことを
 よろしく頼む、と言われて…」

「そうだったんですか」

「でも、僕は正直、舞踏会って苦手なんです。
 あんまりダンスって上手くないんで…

 で、ちょっとつまらなくなってきたところに、あなたを見かけて…
 ひょっとしたら? と思って声を掛けたんです」

「まぁ…
 でもそれ、暇つぶし、ってことですか?」

冗談めかしてカオルンが言いました。
初対面なのにこんなことが言えるのは、レオという青年の持つ、邪気の
無い、優しげなオーラのせいかもしれませんでした。

「あっ、いや、そういうわけじゃなくて…」

慌てるレオを見て、カオルンはくすくす笑いました。



~ side コーガ ~
カイタン国のリーン王女が去り、王子はほっと一息つきました。
カオルンは? と見ると、相変わらず壁際に寂しそうに立っていました。

王子の眉間にまた、小さな皺が刻まれました。

そのとき横から声がしました。

「よっ!
 踊らないのかよ?」

王子にこのような声をかけられるのは、サエジーマ国ではこの男しかいません。

王子は声のするほうを見ました。

果たして、予想どおり、そこにいたのはレイでした。
レイの後方には、少し離れて、取り巻きの女性たちが固まっています。

「なんの用だ」

少し面倒に思いながらも王子は返事をしました。

「おいおい、ご挨拶だな…  まぁ、いいや。
 国王主催の楽しい楽しい舞踏会だっていうのに、その仏頂面、なんとか
 ならないの?」

口調こそは軽やかで、いつものレイのようでしたが、今のレイは目が
笑っていません。
王子はそれを敏感に感じ取り、視線を外しながら、半ば自棄(やけ)に
なって言いました。

「俺はもともとこんな顔なんだ」

王子がこんなふうに子どもじみた態度を取るのは、相手が気心の知れた
レイだからこそです。

(やれやれ…)

レイは呆れながらも、話を続けました。

「カオルンも来てるの、知ってた?」

「…あぁ」

レイは、カオルンの方を見ながら、話を続けます。

「あの子、滅茶苦茶、頑張ったんだよねぇ~
 ここのところ、ダンスの練習ばっかりずっと積んできたんだぜ?

 慣れないドレスに振り回されたり、高いヒールの靴に足を痛めながら、
 毎日、毎日… さ。
 それに付き合わされる男の俺のほうが、ギブしそうになったくらい!

 クックック…」

レイは突然、思い出したように笑い、王子を振り返りました。

「なんでそんなに頑張れるの? って聞いたらさ。 カオルン、なんて答えたと
 思う?」

「…」

王子の答えなど望んでいなかったかのように、レイはすぐに言葉を継ぎました。

「自分が舞踏会に出られるのは、きっと夢に違いないから、もうじき目が
 覚めちゃうだろう…ってさ。
 でも、一生懸命練習したら、目が覚める前に少しくらいは、舞踏会を垣間
(かいま)見れるかも… なんて言うんだぜ?

 夢なんかじゃないのにさ…」

レイは寂しそうに笑いました。

「おまえさ… カオルンをしあわせにする気、ないのか?」

「…」

相変わらず何も言おうとしない王子に、さすがのレイもイライラとして、
怒気を孕んだ声を投げます。

「その気がないんだったらさ、あの子に無駄な夢を見続けさせんなよ」

親友どうしの間で、しばし、睨み合う恰好となりました。
すると、ようやく王子が絞り出すように呟きました。

「…俺には俺の考えがあるんだ」

その言葉を聞いて、レイは内心、少し期待を持ちましたが、表面的には
そんなことはちらとも見せず、少し小馬鹿にしたような態度で言いました。

「へぇ~、考えてるばっかりじゃ、何にも伝わらないと思うけどね」

(くっ…)

悔しげな表情を浮かばせた王子に対しても、レイは平然としたものです。
ちらっとカオルンの様子を確認したレイは、ニヤッと笑いました。

「ほ~ら、誰かさんがモタモタしているから、他の奴らがカオルンを
 狙いだしたぞ。

 あっ、あいつ、アプローチするつもりか? いいねぇ、いいねぇ。

 おぉ~、声かけたぞ。

 話してる、話してる… なんか、いい雰囲気じゃん。

 よかったぁ~ カオルンがやっと笑った!」

レイが腕組みしながら、嬉しそうに、うんうんとうなずきます。
そして、王子を盗み見ます。

王子は分かりやすいくらいに、見事に不機嫌そうです。

(ざまぁみろ… ってんだ)

そんなふうに思い、レイの怒りも少し収まりました。



そこへ、ゴーザンが王子の元に足早に近づいてきます。
そして、小声で

「王子」

と、声をかけました。
王子は一瞬のうちに感情を押し込め、無表情に近い顔で、

「なんだ?」

と問いました。

「王子の命(めい)を受けていた者が、たった今、東方から戻って参りました。
 すぐにお会いになりますか?」

その報告を聞いた王子は、顔色が変わりました。

「すぐに会う!
 ここに連れてこい… いや、俺が行こう」

待ち切れないといった様子で、王子はゴーザンに案内させて、後からついて
いこうとします。
ですが、その足をふと止めると、レイを振り返って、

「おまえも来るか?」

と尋ねました。
何があるのか気になっていたレイは、

「いいのか?」

と尋ねます。

「好きにしろ」

それだけを言うと、王子はさっさと大広間を後にしました。

「…」

レイは少し考えてから、すぐに王子の後を追いました。



to be continued(9へ)
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…



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