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きんのまなざし ぎんのささやき

牙 狼(冴 島 鋼 牙 Ver.)の世界を、気ままに妄想した二 次 創 作 サイトです

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いつもと変わらぬお茶の時間の前に

あっと今に桜が咲いて、散ってしまい、駆け足で春が行き過ぎようとしています。
今しか書けないものを! ということで、こんな冴島家の1コマを妄想してみました。
よろしければ、お付き合いください。

拍手[6回]



::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

「うわぁ、きれいだねぇ」

そう言って花壇に咲いた色とりどりのチューリップに目を見開いたカオルは、自分の隣に視線を移した。
彼女の隣には雷牙が母親と同じようにしゃがんで花をじっと見つめていた。
少しだけ冷たい風に花首が揺れるのを興味深そうに見ている息子に、カオルは思わず笑みがこぼれる。
その視線に気づいたのか、雷牙は小さな指を1本突き出して見せ、チューリップを指差す。

「な? な?」

雷牙はまだ1歳の誕生日を迎えて数カ月といったところで、言葉もそう多くは話せない。
が、そこは母親だ。雷牙の言いたいことは、カオルにはなんとなくわかった。

「うふふ、そうだね。お・は・な、だね。
 チューリップのお花だよ? チュー・リッ・プ」

カオルは雷牙によく見えるように、大きく口を動かしながら、チューリップとゆっくり何度か繰り返して言って見せた。
すると、雷牙もそのぷっくりとした口を前に突き出して

「ぷ? ぷぅ?」

と言ったので、

「そうそうっ! チューリップ、だよ?
 雷牙、ちゃんと言えたねぇ」

と頭を撫でながら少し大袈裟なくらいに褒めてあげた。
それに気をよくした雷牙も立ち上がって

「ぷっ! ぷっ! なっ!」

と興奮気味に言ったので、カオルの笑顔は自然と一層深くなるのだった。




「それじゃあ、雷牙。
 どのお花にしようか?」

カオルは雷牙の顔を見ながら、これにする? それともこれ? と目についたチューリップの花を指差して見せた。
指差した手とは反対の手には花切ばさみが握られていて、どの花を切ろうか、と雷牙に尋ねているのだった。
雷牙は子供なりに真剣な目をしながらチューリップの花を見ていて、これは? というカオルの声掛けに首をぶんぶん横に振っていた。
どうやら、今のところ雷牙のお眼鏡にかなう花がないようだ。

「えぇぇぇ、どれも違うの? どうしよう… じゃあ、どれも切らないでおく?」

少し困ったように眉尻を下げたカオルが雷牙にそう言うと、雷牙は突然1本の赤いチューリップを差して

「こえっ! こえっ!」

と言ってカオルの顔を見た。

「これ? これがいいの?」

はっとしてカオル雷牙に確認すると、雷牙は大きくうなずきながら

「こえぇ」

とにっこり笑う。
そうやって、カオルと雷牙は厳選された3本のチューリップを無事切り終えることができた。




書斎から出てきた鋼牙がリビングに赴くと、ゴンザがテーブルセッティングの手を止めた。

「鋼牙様。
 そろそろお呼びしようかと思っていたところでございます」

テーブルの上には、雷牙の好きそうな焼き菓子とオレンジジュース。そして、大人たち用のコーヒーも、あとはカップに注がれるばかりというところまで用意されていた。

「雷牙たちは?」

「カオル様と雷牙様は庭に… 今、お呼びしてきます」

そう答えたゴンザが小さく礼をしてその場を離れようとしたところを、鋼牙は片手を上げて制した。

「いや、俺が呼んでこよう」

「鋼牙様が?
 はい、それではお願いいたします。カオル様達は花壇にいらっしゃるかと思います」

鋼牙はゴンザにうなずいて見せてから、リビングを後にして庭へと向かった。




庭に通じるフランス窓から外に出て、まっすぐに花壇へと向かう。
すると、程なくして、花壇からこちらへと戻ってくる親子の姿を見つけた。
雷牙を抱きかかえたカオル。そして、雷牙の手には3本のチューリップ。
互いに目を合わせながら楽しそうに笑顔を浮かべている姿はとても微笑ましいものだったが、鋼牙は次の瞬間、脱兎のごとく走り出した。

「あっ、お父さんだよ、雷っ…」

こちらに近づく鋼牙に気付いたカオルだったが、鋼牙のただならぬ様子に言葉を飲み込んだ。
あっという間にカオル達の元に駆け付けた鋼牙は、カオルの腕から雷牙をものすごい勢いで奪うと、雷牙の手をこじ開けてチューリップをその場に捨てさせた。
驚いたのはカオルばかりではない。雷牙は火が付いたように泣き出した。
でも、それにも構わず、鋼牙は雷牙を抱きかかえたまま、すぐに元来た道を取って返す。

「鋼牙っ! ねえっ、どうしたのっ!?」

カオルは何がなんだかわからないまま、鋼牙の背中を追って駆け出した。
だが、鋼牙はカオルの問いには答えず、足を緩めることもなかった。
フランス窓を乱暴に開け放ち、飛び込むように中に入ると洗面所に直行する。
カオルがようやく追いつき、洗面所の戸口に立ったときには、鋼牙は泣きわめく雷牙の手をジャージャー流れる水で洗っていた。

「はぁ、はぁ、鋼牙…」

まだ荒い息の元でようやくそれだけを言うと、鋼牙はちらりとカオルを見たが、すぐにまた雷牙の小さな手に視線を戻す。

「…こんなものでいいか」

呟くようにそう言った後、キュッと水を止めて雷牙の手を振る。
あっと気づいたカオルはタオルを取って待っていると、

「ママーッ」

と泣きべそ顔の雷牙がカオルに向かって両手を広げた。
鋼牙はカオルの胸に雷牙を預けると、雷牙の頭を大きな手で包むように撫でた。

「驚かせたな、雷牙」

カオルは雷牙の手を拭き、震える息子の背中をゆっくり優しく撫でた。

「大丈夫よ、雷牙。びっくりしたようね?
 でももう怖くないよ。ほら、大丈夫だからね?」

泣きじゃくる雷牙を宥(なだ)めていると、雷牙の泣き声を聞きつけたゴンザも駆け付けてきた。

「どういたしました? 雷牙様に何かあったのですか?」

そう尋ねられてもカオルには答えられなくて、鋼牙を見るしかできない。
カオルとゴンザの視線が鋼牙に集まったところで、鋼牙は静かに口を開いた。

「チューリップを雷牙が持っていた」

「…」

確かに、室内に飾ろうと思って切ったチューリップの花を3本、雷牙は持っていた。
でも、それがどうしたというのだろう?
わけのわからないまま、カオルもゴンザも首をかしげる。

「…チューリップ?」

「…ああ」

多くを語らない鋼牙に何とも言えない沈黙の時間。
だが、すぐに、ゴンザはハッと何かに思い当たり、

「チューリップでございますね!」

と言うと、カオルの胸に顔を押し付けて、ひっくひっくとしゃくりあげている雷牙に近づき、

「雷牙様? ちょっとゴンザにお手てを見せてくださいね?」

と声をかけてからそっと小さな雷牙の手を両手とも丹念に確認した。
そして、なんともないことを確認してほっと安堵の息をついてから、

「申し訳ありませんでした、鋼牙様。
 これからは十分気をつけます」

と頭を下げた。
それに対して、鋼牙は

「ああ、そうしてくれ」

とだけ言った。
どうやらチューリップに何か問題があったらしい。それだけしか理解できなかったカオルは

「ねぇ、どういうこと?」

と鋼牙とゴンザの顔を鋼牙に見た。
すると、

『俺様から説明しよう』

と鋼牙の左手から声がかかった。
鋼牙が左手のこぶしを前に突き出すと、カチカチと金属音に混ざり、ザルバがしゃべりだした。

『チューリップにはツリピンという毒があるんだ。
 食べると嘔吐、呼吸困難、血圧降下を起こす可能性があるし、皮膚につくと皮膚炎を起こしたりする場合がある。
 とは言え、毒性は弱いからそう神経質にならなくてもいいようなもんだが、雷牙のような小さな子どもは皮膚も弱いから用心するに越したことはないな』

ザルバの話を聞きながらゴンザはうんうんとうなずき、カオルは顔を強張らせた。
そして、

「ごめんね、雷牙。ママ、知らなくって…
 今度からもっとちゃんと気を付けるから、ほんとにごめんね」

と泣きそうな顔になりながら雷牙に謝った。
鋼牙はそんなカオルの頭を、先ほど雷牙にしたと同じようにそっと撫でた。

「大丈夫だ、カオル。
 すぐに洗ったことだし、心配はない」

「でも…」

なおも不安そうに言いあぐねるカオルに

「大丈夫だから」

と鋼牙はきっぱりと言う。

「雷牙は大丈夫だ… 大丈夫」

言いながら、そっと抱き寄せ背中をゆっくりとさする鋼牙に、カオルもだんだん落ち着いてきた。
すると、今度はこめかみの辺りを撫でる感触を覚えて見てみると、雷牙がその小さな手でカオルを撫でていた。

「ぶーよ? ママ、ぶーよ?」

どうやら大丈夫だよ、と言っているらしい。
思わず、くすっと笑ったカオルが

「ありがとうね、雷牙。大丈夫だね? うん、ありがとう」

と返すと、雷牙はまだ瞳や頬が乾ききらない顔でにっこりと笑った。
鋼牙も、そんな息子が愛しくて頭を撫でようと手を伸ばしたのだが、雷牙はそれを見て

「やっ! とーたん、やーの!」

と身体を引いた。

『やれやれ、どうやら嫌われたようだぞ、鋼牙?』

溜息交じりにザルバに言われて、鋼牙の顔が曇る。
そこで慌ててカオルが雷牙に言い聞かせる。

「雷牙? 父さんはね、チューリップを触った雷牙が、お手て痛い痛ーいになると可哀想だから慌ててただけだよ?
 雷牙のことを怒ってるわけじゃないよ?

 雷牙は今お手て痛くないでしょ?
 父さんがお手てを洗ってくれなかったら、今頃雷牙はお手てが痛くなってたかもしれないよ?
 痛いよーって泣いてたよ、きっと」

「たいの?」

「そうだよ? 痛いよー、痛いよーって」

カオルは手を目元に当てて泣く真似をしながら言った。

「雷牙、今お手て痛い? 痛くない?」

「ないっ!」

「そうだよね? 父さんがすぐに洗ってくれたからだよ?
 よかったねぇ。父さん、すごいねぇ」

それを聞いて雷牙もようやくわかったのか、

「とーたん」

と舌ったらずに鋼牙に呼びかけ、両手を広げて態度でもって抱っこをせがんだ。
それにはさすがの鋼牙も表情を緩め、カオルの腕の中から雷牙を抱きとる。

「雷牙、手は痛くないんだな?」

雷牙はううん、と首を横に振る。

「よかったな」

「うんっ!」

『よし、雷牙。
 おまえの機嫌も直ったところで、おやつを食べようぜ!
 ゴンザが待ちくたびれてるぞ?』

「えっ? あれっ? ゴンザさん、いつの間に…」

カオルがきょろきょろと辺りを見回すが、ゴンザの姿はどこにもなかった。

『なんだ、カオル。おまえ気づかなかったのか?
 おまえがメソメソしだして鋼牙が優し~く慰めて出した頃に、ゴンザの奴、気を使って出て行ったゾ』

それを聞いて

「やだぁ…」

とつぶやいたカオルの頬が染まる。
くすっと笑いがこぼれたような音が聞こえたのでカオルは顔をあげたが、すでに鋼牙の顔はすでにいつも通りの表情で

「さあ行こう」

と言って、カオルの背を押しリビングへと向かうのだった。
そして、雷牙を抱いた鋼牙と、少し恥ずかしそうなカオルがリビングに姿を現し、ゴンザがにっこりと迎え入れると、いつもと変わらないあったかくて幸せな冴島家のお茶の時間が始まったのだった。


fin
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::


今回初めて知ったのですが、チューリップにも毒性があるんですね。
いやあ、知りませんでしたぁ~
水仙やスズランほど強くはないそうですが、いずれにしろ小さいお子さんのいるご家庭は気を付けないと、ですね。
コップなんかに差して飾って、花が終わって捨てた後にその水を誤って飲んでしまって… ということなどないように!
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…



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