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きんのまなざし ぎんのささやき

牙 狼(冴 島 鋼 牙 Ver.)の世界を、気ままに妄想した二 次 創 作 サイトです

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言わず語らず(2)

いまだにあなたがいないと思うと胸が苦しいです、大河さん…
どんな経緯にしろ命が尽きてしまった今となっては、もう会えないという事実に打ちのめされます。
役のうえでしか知らない selfish ですらこんなですから、ご家族の方にしてみたらその喪失感は計り知れません。

あなたを想い、妄想という形で消化しようとすることしかできないことをお許しください。

拍手[6回]



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カオルの行方については英霊でもわからないという事実に鋼牙は打ちのめされそうになったが、カオルの行方のヒントとなるものがあるかもしれないということに、わずかな光明を見る思いの鋼牙は気がはやる。

『人界のあちこちに一斉に時空の裂け目が現れたとき、我らにはその向こうに白き女の姿をしたホラーが見えた。』

「ホラー?」

鋼牙は呟くように言い、その眉間により一層深い皺が刻まれる。

『そして、そのホラーに対峙している一人の若き魔界騎士の姿を…
 その魔界騎士は、牙狼の鎧を継承せし者』

そう言うと英霊たちは鋼牙の意識に直接、その像を流し込んだ。

フラッシュバッグのように浮かび上がる白いホラーの姿。それはかつて鋼牙が倒したメシアの姿にも似ていた。
そして、それに立ち向かう白いコートの男。指にはザルバ。
きりりとした眉の下には大きな瞳。すっきりと鼻筋が通り、薄い唇は食いしばるように強く引き結ばれている。
鋼牙にとって見知らぬその魔界騎士は、必死の形相でホラーに立ち向かっているが、どうやら劣勢のようだ。

すると、ふいにその像が切り替わり、人界のあちこちで時空の裂け目が現れ、場所も時代もそれぞれ違う人々を吸い込んでいるのが見えた。
その中には、カオルの姿もあった。

「雷牙ぁぁぁっ」

「母さぁぁぁんっ!」

必死に手を伸ばす息子の姿が、ふいに、白いホラーに対峙する魔界騎士の姿と重なった。
はっと鋼牙の目が大きく見開く。
英霊の見せる像は、再び、ホラーの放つ植物の蔓のようなものを魔戒剣で薙ぎ払いながら闘う騎士の姿を映し出していたが、鋼牙はその彼の姿をまばたきもせずに見つめる。

(雷牙…)

鋼牙は確かにその騎士の中に息子、雷牙の面影を認めた。

(そうか…)

鋼牙は、英霊の見せ像からひとつの仮説を導き出した。
今はまだ幼い雷牙が成長した後に立ち向かうホラーによって時空の裂け目が作られ、人々を異空間へと取り込んだということを。





『冴島鋼牙よ』

英霊の声に、考えに落ちていた鋼牙がハッとして顔を上げた。

『我らが見えたものはそれがすべてだ。
 時空の裂け目がどこにつながり、取り込まれた者たちがどうなったのかまでは、我らにもわからない』

淡々とした声がそう告げると、鋼牙は声を張り上げた。

「英霊よ。それだけでも助けになった。礼を言う!」

そう言うと、鋼牙はさっとコートの裾を翻し、その場から立ち去ろうとした。
すると、その背に英霊が呼びかけた。

『おまえはその者たちを救いに行くのか?』

その声に鋼牙はぴたりと歩みを止め、身体を半分だけ振り返らせて静かに言った。

「救いを待つ者がいる限り、俺は闘い続ける。それだけだ」

一片の迷いもないまなざしが向けられたのを最後に、鋼牙は英霊の塔を跡にした。





塔から出た後、鋼牙は足早に森を抜けていく。

『鋼牙。
 結局、カオルの行方はわからなかったな』

「…ああ」

『それじゃどうするんだ。
 助けに向かうにしても、どこに行けばいいのか皆目見当もつかないだろう?』

「それは… 手がないこともない」

『なに? その手とはなんだ?』

「…」

しばしの間、鋼牙は無言のまま歩き続けたが、やがて立ち止まった。
そして、左手を持ち上げるとザルバに向かい、こう言った。

「ザルバ。俺をガジャリのところへ連れていけ」

ザルバはカチカチと何度かまばたきを繰り返した。

『なんだって! ガジャリのところ?
 …そうか』

鋼牙の意図を察知したザルバは、ふむふむと合点がいったようにうなずいていたが、あることに気づくとハッとした。

『いや、待て、鋼牙。おまえ、雷牙はどうするんだ?
 カオルを助けにいくだけでも大変だというのに、ガジャリの力を借りたりしたら、それこそいつ帰ってこれるかもわからないんだぞ?』

焦るザルバに対して、鋼牙は落ち着いたままだ。

「大丈夫だ、ザルバ」

『大丈夫? 何をもってそう言い切れるんだ?』

訝(いぶか)し気なザルバに鋼牙は、ふっと表情を緩ませた。

「おまえも見ただろう、英霊の塔で。
 あいつは俺がいなくても、魔界騎士として成長し、立派に闘っている未来を…」

そう言った鋼牙は思いを馳せるように、遠いどこかへと視線をやった。

(確かに、そうだな…)

そう思ったザルバは、余裕を取り戻して笑った。

『くっくっくっ、まったくだ!
 あいつ、なかなかいい魔界騎士になったみたいだな』

ウインクしつつそう言うと、ザルバは

『よし、待ってろ、鋼牙。
 魔戒道を探してやる!』

と瞑想するように目をつむった。

「頼んだ…」

意識を集中させているザルバに声を掛け、鋼牙は再び顔を上げた。

あとは、ガジャリの元へ行き、カオルのところへ連れていけと願えばよいだけだった。
だが、不思議なことに鋼牙の表情は、どこか晴れない顔つきだった。

英霊の塔に行くと決めたとき、英霊の塔で英霊たちとやりとりしているとき、そして、ガジャリの元に行くと言ったとき。
そのどれもで鋼牙の言動に揺らぎなどなかったというのに、ここにきて、ただひとつだけ、鋼牙の心の中に小さく影を落とすことがあったのだ。
それは、英霊の塔で、英霊が見たという像を見せられたとき、最後の最後にガジャリの姿がちらりと見えたからであった。
ガジャリの前に立つのは、成長した雷牙だと思われるあの青年。
どこか焦りの表情を見せながらガジャリに何かを願っているようだった。

(雷牙…)

鋼牙は静かに目を閉じて、深い思考へと意識を沈めていった。




to be continued(3へ)
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…



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