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きんのまなざし ぎんのささやき

林檎騒動(2)

あ~ 懐かしい、ケンカップル!
カオルちゃんってば、どうしてあんなに喧嘩腰なのかな~?
けど、あれがあったから、極力避けてきた人間との付き合いに否応なく引きずり込まれちゃったんだろうな、鋼牙さん…
グッジョブ、カオルちゃん!


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「そんなこともあったわねぇ」

カオルはフフフと笑い、鋼牙の方にまなざしを向けた。
ドレープのたっぷりきいたシフォン素材のカットソーにベージュのスカートといった「いいとこ」の若奥様といった風情のカオルが、その落ち着いた出で立ちにはそぐわない、いたずらっぽい輝きを瞳に宿した。その笑顔は、10年以上前のものと変わりがないように見えた。

『あのときのお前たちときたら…
 犬とサルでももうちょっとマシだと思うほどだったぜ』

鋼牙の中指からカチカチとした金属音とともに、ザルバが茶々を入れる。

「んもう、ザルバったら。
 あ・の・と・き・はぁ、鋼牙の方が、あたしの言うことにいちいち突っかかってきたんだもの、しょうがないじゃない」

そんなカオルの言い草に、鋼牙も静かに(けれども、若干、食い気味に)抗議する。

「おいおい。
 突っかかってきたのはそっちのほうじゃないのか?」

カオルは、信じられないことを聞いたかのように、目を大きく見開いた。

「えぇ? そんなことないよぉ!
 あたしは居候の身だし、自分のことをなんとか気に入ってもらおうと思っていろいろ頑張ってたんだよ?
 それなのに、鋼牙が失礼なことばっかり言うから…」

「いつ俺が失礼なことを言ったんだ?
 俺は真実を言ったに過ぎないが…」

口調は穏やかだったが、鋼牙はきっぱり否定する。

「真実って…
 めしがまずい、だの、うるさい、だの、邪魔だ、だの… あたし、結構言いたいこと言われてた気がするんですけど?」

出会ったばかりの頃のように敵意丸出しという言い方ではないが、それでもあの頃を思い起こすような言葉のラリーが始まり、ザルバは、右に左に目だけをキョロキョロさせて双方の言うことを聞いていた。
が、やがて盛大に溜め息をついた。

『はぁぁぁ』

鋼牙とカオルは互いに見つめ合って(睨み合って)いたが、ザルバの溜め息に気付くとそちらのほうに注目した。

『お前たち…
 ふたりともいい大人なんだから、くだらないことで喧嘩なんかするなよ、まったく。みっともないだろう?』

心底呆れたと言わんばかりにザルバに言われ、ふたりは顔を見合わせた。

「別に、喧嘩なんかしてないわよ。これはね、これは… そう、コミュニケーションみたいなものなんだから!」

カオルの言葉に鋼牙は苦笑したいのを我慢している。
ここで下手なことをすれば、カオルがムキになるのは長年の付き合いで目に見えている。

『ほお、コミュニケーションねぇ』

「そう!
 だって、あたしも鋼牙も全然怒ってないもの、ね?」

カオルはそう言うと、鋼牙に目で訴える。
鋼牙のほうはというと、曖昧にうなづいている。
繰り返しになるが、ここで下手なことをすれば… である。

『なるほどね… ところで、カオルぅ~』

何か企んでいそうな声音でザルバが声をかける。

「ん? なあに?」

『さっきから気になってるんだが…』

そう言うとザルバは意味ありげに片眉を器用にあげて、視線を移動させた。
それにつられてカオルも視線の先に目を向ける。

『鋼牙の奴、おまえさんの切った林檎はひとつも食べていないようだが?』

ザルバの視線の先には、林檎の乗った皿があった。
どうやら、それはカオルが切ったもののようで、昔と同じく、いや、あのときよりはずっときれいに飾り切りされた林檎たちが並んでいた。

「え?」

ザルバに言われて、カオルは、いち、に、さん、し、… と数えてみる。
すると、言われた通り、鋼牙はひとつも食べていないようだった。
それじゃあ、と、今度は隣に置いてあるもうひとつの皿の方に目を転じる。
そこには、あのときと同じように、ゴンザによって極めてシンプルに切られた林檎が乗っていた。
そちらを見れば、数えるまでもない。明らかに減っているのは確実だ。

「ちょっとぉ、鋼牙!」

そう言ったきり、カオルは唇を尖らせて、じとーっと鋼牙を睨む。
カオルに睨まれて、鋼牙は居心地悪そうに目を泳がせている。

(ザルバの奴、余計なことを…)

そう思いながらザルバを睨むが、いつものように涼しい顔をして事の成り行きを眺めているだけだ。
その様子がなんとも腹立たしいが、ザルバを責めるよりも、まずはカオルだ。

「こっちはその… 綺麗だから、食べるのが惜しい気がして…」

言葉を慎重に選びながら、そう言うと、じっと見ていたカオルの表情が少しだけ緩んだ。
だが、まだ疑ってはいるようで、

「本当に?」

と念押ししてくる。

「もちろん、本当だ」

しかつめらしく、きっぱり言い切ると、ようやくカオルは笑顔になった。

「な~んだぁ~
 もう、そんなの気にしなくていいのにぃ~」

カオルのその様子にホッとした鋼牙。
だが、

「じゃ、はい、どうぞ♡」

とお皿を目の前に差し出されて、一瞬のうちに顔が凍り付いた。

「いや、でも、もう十分食べたから…」

とやんわり断ろうとしてみる、
だが、

「そんな…」

と表情を曇らせるカオルを前にしては、強くも断れなくなった。

『ひとつくらい食ってやれよぉ~』

「そうだよ、一個でいいから食べてみて?
 これなんか小さいよ?」

そう言って、小さめのをフォークに差し、はい、と差し出すカオル。
こうなっては、食べないわけにいかない。


to be continued(3へ)
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も5年を経過しましたが、まだ飽きていない模様…



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