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きんのまなざし ぎんのささやき

牙 狼(冴 島 鋼 牙 Ver.)の世界を、気ままに妄想した二 次 創 作 サイトです

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笑顔の理由

お盆も過ぎて、早く涼しくなってくれないかな、と思う今日この頃。
暑さにも負けず、今宵も妄想をお届けします。
少しでもお楽しみいただければ、よきかなと…


拍手[4回]



::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

「では、行ってくる」

そう言うと、鋼牙はさっと踵(きびす)を返した。
この瞬間で、鋼牙の意識はここではなく、これから対峙しようとしているホラーにのみ集中していた。

迷いなく遠ざかるその背に向かって、ゴンザは

「行ってらっしゃいませ」

と声をかけ、鋼牙が見ているわけでもないのに深々と頭を下げて見送った。
その隣で、カオルは何も言わず、いや、何も言えないままに、ただひたすらにじっと彼の後ろ姿を見つめていた。
ただ、言葉の代わりに、彼の無事を祈るかのように両手を胸の前で握りしめられていた。

  パタン

玄関ドアが無機質な音を立てて閉じられた。
鋼牙の姿が夜の闇に消えていった後、ゴンザは折っていた腰をゆっくりと戻して頭を上げた。

今回の指令はホラーの残した痕跡が乏しく、少々時間がかかるかもしれないと鋼牙は言っていた。
とはいえ、ホラーの正体は割れており、ザルバも

『俺様の探索能力にかかれば、なんてことはないさ』

とカオルやゴンザを安心させるように力強い言葉を残していったのだった。

そうは言っても、何が起こるのかはわからない。
鋼牙を信じつつも漠然とした不安はぬぐえないのは、仕方のないことだった。
いつまで経ってもその場を動かないカオルの様子をちらりと見たゴンザは、遠慮がちに

「…カオル様?」

と声をかけた。
その拍子に、魔法でも解けたようにハッと我に返ったカオルは、寂し気な笑みをふっと零(こぼ)してから目を伏せた。
そして、

「ゴンザさん…」

といつになく弱々しい声で呼びかけるものだから、ゴンザは一層心配になって、身体ごとカオルの方に向けて

「はい」

と応じた。
カオルは、ゴンザのほうを見ることなく、廊下の一点をぼんやりと見たまま

「あたし… 鋼牙のために何ができるのかなぁ…
 信じて… 待ってることしかできないのかなぁ…
 もっと… もっと、鋼牙のために、あたしにでもできることがあればいいのに… って、そう思ったりするんだ…」

とぽつりぽつりとそう言うと、はぁ、と深い溜息をついた。
そんなカオルを、ゴンザは痛ましい表情で見守っていたが、やがて穏やかな笑みを浮かべて、

「カオル様?」

と彼女を下から覗き込むように言った。
それにつられて、カオルはふっとゴンザに目を向ける。

どこか不安げな少女のような儚(はかな)さを見せるカオルに、ゴンザは元気づけるようににっこり笑って見せてから口を開く。

「笑ってください」

「えっ?
 笑っ、て…?」

「はい。

 いつだったか、鋼牙様はおっしゃっていました。
 カオル様が笑っているとほっとする、と…」

そう言ったゴンザはカオルから視線を外し、その時を思い出すかのように中空を見上げた。

「あれは… そうそう、カオル様が庭でシャボン玉を飛ばしていたときだったかと思います。
 外から戻られた鋼牙様が庭の片隅にいらっしゃるのが見えたのでお声を掛けようとしたら、わたくしの気配を先に察知した鋼牙様は振り返りざまに、こう指を立てて…」

ゴンザは人差し指を立てて唇の前に当てて見せる。

「わたくしに、黙っているようにと示されました。
 そして、視線をカオル様のほうに戻されたので、わたくしもカオル様へと目を向けたのです。
 カオル様はそれはもう楽しそうにシャボン玉を飛ばしていて… 思わずこちらまで笑顔になってしまうくらい楽しそうに微笑んでいらっしゃいました」

そのときを思い出したゴンザが、そのときと同じように微笑んでいた。
それを見て、カオルは自分が子供じみていることが恥ずかしくなってしまい、落ち着かない気持ちになったが、そんなカオルには気づかないゴンザは、先を続けた。

「そのときに鋼牙様はおっしゃいました…」





「あいつが笑っているとほっとする…」

ゴンザの耳に、あのとき言った鋼牙の声がよみがえる。
あのとき… 鋼牙がそう言ったのを聞いて、ゴンザは鋼牙は見上げたのだった。
けれど、傾きかけていた太陽がちょうど鋼牙の顔の位置と重なって、ゴンザは眩しさに目を細めた。
慌てて手をかざして日を遮ろうとしたが、それよりも早く鋼牙は歩きだしていた。

「カオル!」

呼びかけられたカオルが、声の主を探してきょろきょろしたが、すぐに鋼牙を見つけて小走りで駆け寄った。

「おかえりなさい、鋼牙!」

シャボン玉に興じていたときとはまた違った笑顔が鋼牙に向けられた。

「ああ、ただいま」

そう言って鋼牙はカオルの頬に手を伸ばす。
くすぐったそうにしながら、カオルは嬉しそうに笑う。

ゴンザの位置からはカオルの表情はよく見えたが、鋼牙は背を向けていてその表情はわからない。
だが、彼女にかける声の穏やかさや、彼女に触れる手の優しさから、きっと鋼牙も穏やかで優しい表情をしているのであろうことは推し量れた。

じんわりとした温かい気持ちになったゴンザは、そのままそっとその場を離れたのであった。




「カオル様…
 わたくしは直接鋼牙様から伺ったわけではありませんが、鋼牙様がホラーと闘う理由のひとつは、カオル様の笑顔を守るためなのだと思っています。
 あなたがいつでも笑っていてくれることが、あの方にとってどれほどの癒しになっているか計り知れないのだと…」

「そんな… あたしはそんな大したことなんて何も…」

「いいえ、カオル様」

戸惑いがちにゴンザの発言を否定しようとしたカオルを、ゴンザは強い口調で遮った。

「あの方にとって、あなたは特別なんです。だから、自信をお持ちください」

そう言うと、ゴンザはカオルの両肩に手を置いて、言って聞かせるようにゆっくりとこういった。

「あなたは、あなたのお心のまま、幸せそうに笑っていてください」

「ゴンザさん…」

カオルは少し目を潤ませながら、ゴンザを見返した。
が、すぐに、カオルの目に強い光が宿りだした。
そこには先ほどまでの自信なさげな様子は微塵もなかった。

「ありがとう、ゴンザさん。
 あたしにできることは大したことじゃないかもしれないけど、でも、やってみる!
 そして、他にももっと何かないか、探してみようと思う」

「カオル様…」

ふたりは互いに見交わしてにっこりと笑う。
が、すぐにカオルはハッとして、ゴンザにこう言ったのだ。

「ゴンザさんも一緒に笑っていてくれるよね?」

「わたくしもですか?」

「うん!
 だって、ゴンザさんも鋼牙にとって特別な人だもの」

「カオル様…」

「だから、ふたりして、鋼牙の前では笑顔でいようね?」

「…はいっ」

ゴンザが力強くそう答えて、ふたりはまた笑顔に包まれるのだった。




鋼牙の前では笑顔でいようってカオルが決めたのは、こういうことがあった… のかもしれない。

fin
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::


覚えてらっしゃいますか? MAKAISENKIの第17話「赤筆」での一コマを。
大丈夫… 私決めたの… 鋼牙の前では、いつも笑顔でいようって

この健気なカオルちゃんに全米が泣いた!(…はず)

ほんとならね、鋼牙さん自身に「おまえは笑っていろ」って、カオルちゃんに直接言ってほしかったところではありますが、きっとゴンザさんがチクッたんじゃないかな、という妄想でした。

MAKAISENKIも、もう10年前の作品になっちゃうんですね。
なんだか感慨深いんですが、やはり、selfish の中ではまだまだ色褪せない気がします。

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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…



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