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きんのまなざし ぎんのささやき

牙 狼(冴 島 鋼 牙 Ver.)の世界を、気ままに妄想した二 次 創 作 サイトです

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最近の’お礼’

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あなたの一言

先週は、黙ってお休みしてしまってすいませんでした!
(3連休で気が抜けてしまってました…)

今夜は、2か月ぶりの「拍手コメントへのお礼」(←かなり簡単ではございますが)と妄想とをがんばって書いてみましたので、わずかなりともお楽しみいただければと!


拍手[5回]



::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

夕刻、というにはまだ少し早い時間に、鋼牙は屋敷に返ってきた。
いつものようにゴンザが

「おかえりなさいませ」

と出迎えて、鋼牙の脱いだ白いコートを渡すと慣れた手つきでハンガーにそれを掛けるのを眺めながら、鋼牙は

「カオルはまだ帰らないのか?」

と尋ねた。
朝食の席で、今日は打ち合わせがあるから出掛けてくるとカオルが言っていたので、そんな問い掛けになったのだ。
ゴンザはちらりと時計を見てから

「カオル様は30分ほど前にお帰りになりました。
 今はアトリエにいらっしゃいます」

と答える。

「そうか…」

とつぶやくように言う鋼牙に、

「鋼牙様、お茶をお持ちいたしましょうか?」

とゴンザが言うので、

「そうだな」

と反射的に答えてから、ふと思いついたように

「カオルを呼んでこようか?」

とゴンザへと振り向いた。
すると、ゴンザはわずかに表情を暗くした。

「カオル様は… 打ち合わせでコーヒーを召し上がったとかで、今日のお茶はいらないとのことでした」

そう言って、何か言いたげな様子を見せるが黙って目を伏せるゴンザに、鋼牙は

「どうかしたのか?」

と尋ねるのだった。




カオルのアトリエは、冴島の屋敷から林の中を少し歩いたところにあった。
そのアトリエへと向かう小道で、鋼牙は歩を進めながらもゴンザの話していたことを思い出していた。

「カオル様は少しお元気がなくて…
 本日の打ち合わせがうまくいかなかったのかもしれません。
 わたくしには笑顔をお見せでしたが、少々無理をしているような…」

そう言うゴンザも覇気がなく、直接カオルを見たわけではない鋼牙でも、そのときのカオルの様子が想像できた。



アトリエにつくと、ノックもなしにすぐにドアを開き中に入る。
いつも座っているイーゼルの前に彼女の姿を探すもそこにはいなかった。

「カオル?」

彼女の名を呼んで気配に気をつけるが、どうやら室内には誰もいないようだ。
鋼牙はアトリエを出て裏手に回った。
アトリエの裏手は少し開けていて、午後の柔らかい日差しに包まれていた。
けれども、盛夏と違って秋の日差しは勢いもなく、雑木の合間を渡る風も少し冷たい。

片隅には小さなベンチ。
そこにカオルの背中を見つけて、鋼牙の目に柔らかく細まる。
が、すぐにその目は驚きを持って見開かれ、痛まし気に眉がわずかに歪む。

カオルは、大きく天を仰いだかと思うと、しばらくしてカクンと項垂れたのだった。
そして、カオルの細い方がぐっと下がったところを見ると、大きなため息でもついたのだろうことが容易にわかった。

『えらい落ち込みようだな』

そうつぶやいたザルバには答えず、鋼牙はカオルに近づいた。
小石を踏む音に気が付いたカオルがふと顔を上げた。

「鋼牙…」

カオルはそれが誰なのかを知ると、背中をぐっと起こして姿勢を整えたてから

「おかえりなさい」

と笑って見せた。

「ただいま」

カオルを見下ろして答えた鋼牙は、ゆっくりとカオルの隣りに座る。

「寒くないのか?」

鋼牙の問いに

「あ… うん」

とカオルはどっちつかずな返事を返しながら、少し鋼牙の様子を窺(うかが)った。
が、鋼牙はカオルの方は見ずに前方を眺めていた。
そのまま、双方、言葉もなくしばらく座っていたが、意を決してカオルのほうが口を開いた。

「ゴンザさんに何か聞いたの?」

鋼牙の方は見れずに、わずかに視線が下がる。

「いや」

咄嗟に否定したものの

「…ああ、まあ。少し元気がないようだと…」

と鋼牙は答えなおした。

「そっか…
 うんとね、今日打ち合わせに持って行った案がどれもこれも駄目出しくらっちゃって…」

「ああ」

「実は今回だけじゃなくて、ここ最近、ずっとそんな感じで…
 ああ、才能ないのかなぁ、とか、これがスランプなのかな、とか、いろいろ考えてしまって。
 前にも後ろにもどこにも行けなくて足踏み状態なの」

そう言って、カオルは溜息をついて背中を丸めた。

「…」

鋼牙は何も言わなかった。
慰めが欲しかったわけではないが、それでも何か言ってほしいな、とカオルはそんなふうに思った。

(でも…)

とカオル。

(これはあたしの問題だもんね。自分で突破口を見つけないと…)

そう思いながらも、やっぱり心は上を向かない。
すると、鋼牙が

「足踏みしているならいいんじゃないのか?」

とぼそりとつぶやいた。

「え?」

思わず顔を上げて鋼牙を見たカオルに、鋼牙は前を向いたままで言葉を続けた。

「立ち止まっているわけじゃないんだ。
 足踏みなら、何かきっかけがあればすぐに歩き出せるんじゃないのか?」

そう言って、鋼牙はふっと緩める。そして、少し視線を落として足元を見て、

「立ち止まっていたら、最初の一歩はなかなか出ないだろう?」

と言った。

「…そうだね。足踏みだってしないようりはマシだよね。
 うん、そうだよ」

カオルは知らず知らずぎゅっと握っていた自分の拳(こぶし)を見ていた。

「一歩のための足踏みはいくらでもすればいい」

そう言われてカオルは鋼牙を見た。

「前に進むには必要なことなんだろう」

それを聞いて、カオルの身体から力が抜けた。
思ってもみないことだった。
前に進めない自分はダメなんだと思っていた。
足掻いてる自分は無駄なことをしていると思っていた。

(でも… それは、違うのかもしれない)



カオルはコテンと鋼牙の方に頭を傾けた。
力が抜けたのか、甘えたいのか、自分でもよくわからなかったけれども、なんだか急にそうしたくなった。
鋼牙はそっとカオルの肩を抱いた。
そして、

「冷たいな」

と冷えてしまったカオルの肩を撫でるようにさすった。
カオルはより一層鋼牙に身体を預けたが、鋼牙が

「あっ!」

と言うのを聞いて咄嗟に身体を起こした。

「どうしたの?」

カオルが尋ねると、鋼牙はごそごそとポケットをまさぐり、紙ナプキンにくるまれたものをカオルの手に乗せた。

「ゴンザに持っていけと言われていたのを忘れていた」

カオルは手の中の紙ナプキンをそっと開いていった。

「これ… マドレーヌ?」

紙ナプキンの中には小さなマドレーヌが2つ。

「崩れてしまったな…」

申し訳なさそうに鋼牙が言うように、片方のマドレーヌは端が少し欠けてしまっていた。
持ってくる間に崩れてしまったようだ。
カオルはその欠けた小さな欠片を指でつまみ、鋼牙に、はい、と差し出す。
鋼牙は一瞬考えたが、すぐに口を開けた。
カオルは笑みを深めてから、鋼牙の口にその欠片を入れた。

  もぐもぐもぐもぐ

数回の咀嚼の後、

「甘いな」

と鋼牙が言うので、カオルも残ったマドレーヌを半分に割り、自分の口に放り込んだ。

  もぐもぐもぐもぐ

「おいしいね」

とカオルは鋼牙に微笑みながら、そう答えた。
ゴンザの持たせてくれたマドレーヌは、そんなわけがないのに、なんだかあったかいような気がした。

言葉を交わしながら、笑みを交わしながら、ふたりはマドレーヌを分け合って食べていると、秋の夕暮れはもうすぐそこまで来ているはずなのに、そこだけ暖かな陽だまりに包まれているように温かい空間になっていた。



fin
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::


マドレーヌ食べたい!
鋼牙さんと一緒に食べたい!
カオルちゃんと一緒でもいいな!
ゴンザさんのマドレーヌがいいな、ったら、いいなっ!

と思いながら書き上げました。

地味に、カオルちゃんが鋼牙さんに「あ~ん」してるのが自分でもお気に入り。
照れとか全然なくて、ごくごく当然に「あ~ん」してるのが見てみたいなぁぁぁ
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…



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